自由の女神
神力を溢れさせ、リベルテの方へと歩いて行くイグ。
「へぇ……神力」
「それだけじゃない」
空洞の各所に開いた穴から、続々と蛇の頭を持ち鱗に全身を覆われた人型の怪物達が現れる。尾が無いことと色が緑であることを除けばイグと殆ど同じ造形の彼らは、半分以上が四足歩行で地面や壁を這っている。
「お仲間ってことね」
「そうだ。俺達を相手にして生きて帰れるとは思わないことだ」
リベルテは笑みを浮かべ、剣を構えるイグに向けて走り出そうとして……片足を闇の刃で斬り落とされた。
「ッ!?」
「やはり、気付けなかったな?」
驚愕に目を見開くリベルテ。そこに斬りかかるイグ。
「ふざけ……ないでッ!!」
リベルテは片足で地面を強く蹴りつけ、空洞の天井付近まで飛び上がる。イグの攻撃は回避出来たリベルテだが、その首を狙って闇の刃が現れる。
「さっき見たわッ!」
リベルテは闇の刃を拳で殴りつけて破壊し、空中で停止したまま何も無い場所を睨み付ける。
「残念、殺しきれんかったか」
「全く、端から首を狙っていれば殺せたかも知れなかったものを」
ぬらっと姿を現したのは巨大な腹部を持つ黒い怪物だ。体は柔らかい毛で覆われ、全体としては蝙蝠とナマケモノを合わせたような姿だが、頭はヒキガエルのようだ
「お前こそ儂が足を斬った後の隙を逃したろう? 相も変わらず自分を棚に上げて話すのが得意らしいな?」
「黙れ陰険め。お前は黙って魔術だけ唱えていればいい」
仲は決して良さそうでは無いが、少なくともこの場では味方同士であるらしい。
「さて、リベルテだったか……いつまで耐えられるか、見物だな?」
「神を前に自由など……いつまで謳っていられるか、楽しみよな?」
リベルテは半分程まで再生した足を見下ろし、唇を噛んだ。
「ほれ、呆けている場合か」
リベルテを囲むように三つの闇の刃が現れ、その体を四つに分けようとする。リベルテは片足で回し蹴りを繰り出し、それらを一撃で破壊した。
「ふふ、存外簡単な相手だ」
砕けた闇の刃。粒子と化したそれらはリベルテの皮膚に染み込んで、その組織を破壊しようとする。それに気付いたリベルテは魔力によってそれらを追い出そうとするが、神力の混じった闇にそれは通じない。
「あぁ、もうッ!」
リベルテの体から、ライトグリーンの光が溢れ出した。闇はそれによって掻き消され、光はリベルテの体に纏わりついていく。
「仕方ないわね……第二形態と行こうかしら」
緑色の光はキトンのような一枚布の服となり、リベルテの体を覆った。プラズマのようにパチパチと音を立てる粒子によって構成されたそれは、彼女の為にアメリカ合衆国によって作られた特注品の戦闘用装備だ。
「……何だそれは」
「『世界を照らす者』」
リベルテの体が消え、ヒキガエルのような頭の怪物の前に現れる。
「なッ!?」
「無駄ッ!」
展開された障壁も虚しく、リベルテの拳は怪物を吹き飛ばした。壁に叩き付けられた怪物の巨大な腹部には穴が開き、臓物が零れ落ちている。
「ッ、ツァトゥグァ!」
「ハァーイ? 心配してる場合かしら!」
次はイグの前に現れ、殴り掛かったリベルテ。イグはギリギリで剣を振り上げ、拳を防ぐ。
「重い……ッ!」
しかし、イグはその衝撃によって数歩分吹き飛ばされ、後ろに倒れかける。
「ほらッ、耐えられるかしら!?」
「ッ!」
更に転移によってイグの前に現れ、再び拳を振るうリベルテ。イグは何とかそれを回避するが地面に倒れ、空ぶった拳の衝撃波だけで空洞の壁に罅が入った。
「次は外さな――――ッ!」
再び拳を振り上げたリベルテ。緑の光によって覆われていない部分を闇の弾丸が貫いた。ヒキガエルの頭を持つ怪物、ツァトゥグァによって放たれた魔術だ。
「今だァアアアアアアアアアアアアッ!!」
「ウォオオオオオッ、コロセコロセッ!!」
「イグ様をお守りしろッ!!」
様子を伺っていた蛇人間達が一斉に飛び出し、リベルテに向かって行く。
「ッ、ハァアアアアアアアアッッ!!!」
リベルテは拳を地面に叩き付け、緑の光を波動として放った。全方位から襲い掛かって来ていた蛇人間達はその波動によって吹き飛ばされ、その中心でリベルテは荒い息をする。
「その力……消耗も激しいんだろう?」
「どう、かしらねッ!」
イグに向けられた剣をリベルテは蹴り上げ、そのまま拳を叩き込もうとする。しかし、イグは転移によって攻撃を逃れる。
「『電光聖火』」
リベルテから溢れる緑の光が二つ、翼のように背から伸び、稲妻のような炎となって揺れ動く。
「久し振りに……本気で戦ってやるわッ!」
リベルテは空中に飛び上がり、壁際で魔術を唱えているツァトゥグァに向かって拳を振るった。すると、緑の光と共に距離を無視してツァトゥグァの頭が殴りつけられた。
「魔術だッ、撃ち落とせッ!」
「おい誰かッ、聖蛇様を呼んで来いッ!」
「『インデア オクラマ サツーティ』」
リベルテに向かって毒液の巨大な蛇が空を飛んで襲い掛かる。リベルテはそれを拳で破壊し、四方八方から射られる矢を回避する。
「『暗闇の邪槍』」
回避後の隙を狙って、ツァトゥグァの放った魔術の槍が迫る。リベルテはその槍を睨み付け、背中から翼のように生えた緑の炎が二つ、槍に向かって伸びた。それは中空で槍を抑え付け、ビリビリと稲妻を散らしながら槍を崩壊させていく。
「隙だらけだなッ!」
「ぐッ!?」
リベルテの背後、現れたイグがその背に剣を振り下ろした。