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リベルテ・エンライト

 忍者は襲い掛かって来る体長一メートル程の蜘蛛のような怪物達を蹴散らしながら、街の中を進んでいく。


「ま、待ったッ! な、なぁ、アンタ! 強いんだよな!?」


 物陰に隠れていた男が転がるように現れ、忍者の足元に縋りつく。


「何でござるか」


「そこだ! 直ぐそこッ、地下鉄の中ッ! 俺の妻が蜘蛛共に連れ去られたんだッ! 今ならまだ助かるかも知れねぇ! 頼むッ、俺の妻をわッ!?」


 忍者はビルの上から飛び掛かって来た一回り大きな蜘蛛を斬り裂き、男の指差す方を見た。


「情報提供、感謝でござる」


「ちょ、待っ――――」


 忍者が印を結ぶと、男の姿はどこかに消え、忍者は地下鉄の入り口へと歩く。


「なるほど、既に巣になっている訳でござるな」


 階段を下りていく忍者。蜘蛛の巣が張り巡らされた地下鉄は、暗く淀んだ空気で満ちていた。


「ふむ……ダンジョンに近い、妙な空間でござる」


 既に元の地下鉄とは全く違う性質に変貌したその場所は、まるで結界の中に居るような特殊な一つの世界だった。


「やはり」


 忍者は忍刀で壁を斬ったが、そこには浅い傷が入るだけで、その傷も直ぐに修復される。


(様々なルールが働いている空間のようでござるが……少し情報不足は怖いでござるな)


 忍者の体が印を結ぶと、その体から無数の忍者が現れては地下鉄の奥へと走っていく。


「百人も居れば余裕でござろう」


 忍者はその場で胡坐をかき、分身達が地下鉄内の様子を確認するのを待った。


(……構造も造り換えられている上に、罠の類いもあるようでござるな)


 本当にダンジョンのようだ、と忍者は訝しんだ。


「む、なんか戦っておるでござるが……先に民間人の救出でござるな」


 忍者は立ち上がり、印を結んだ。






 ♦




 そこは地下鉄の奥に造られた巨大な空洞。壁の各所に穴が開いたその空間の中心には、全身が鱗で覆われた蛇の神イグが座している。


「ハロー、倒しに来てやったわよ」


 後ろに死体の列を築いて現れたのは、ブロンドの髪に碧眼を携えた眩しい程の美女だ。


「……何者だ?」


 蛇と人間が混ざり合ったような姿のイグが、玉座に座ったまま尋ねた。


「アメリカで最も美しき女神よ。敬いなさい」


「……随分と生意気な小娘だな」


 イグは立ち上がり、掲げたその手に二メートル程の直剣を呼び出した。


「貴方は? まさか、聞いたのに自分は話さないつもり?」


「俺の名はイグだ。お前が女神を名乗るならば、俺は蛇の神だ」


 ふーん、と女は目を細め、拳をポキポキと鳴らした。


「私はリベルテ・エンライト。よろしくね?」


「よろしく頼むことなど何一つ無い。俺はお前をここで殺すだけだ」


 空洞の壁に開いた無数の穴から、蛇達が顔を出した。


「お前も蛇にしてやろう」


 蛇達の目が妖しく光り、リベルテの全身が紫色に発光する。イグの呪いによって、その体が蛇に変化……



「――――無駄よ」



 することは無く、リベルテは不敵な笑みで胸を張った。


「『自由(リバティ)』」


 それは、リベルテ・エンライトの持つ異能。アメリカにおいて存在するハンターランキングの第一位に輝く理由。


「何だ、その力は……魔術でも無い」


「異能。私の能力は自由を得ること、それだけよ」


 リベルテはクラウチングスタートの姿勢を取り……直後、一瞬でイグの眼前まで現れ、三メートル程もある大きな図体を吹き飛ばした。


「ぐッ!?」


「自由を得るってことはつまり、あらゆる制約や法則から解放されるってこと。摩擦や重力なんかも無視できるってワケ」


 イグは立ち上がり、直剣を拾ってリベルテへと斬りかかる。しかし、その刃はリベルテに触れた瞬間にピタリと停止した。


「何だと……!?」


「言ったでしょ? 私はあらゆる法則を無視できるって。常にそうしてる訳じゃないけど、運動の法則すら無視して貴方の攻撃を無力化することだって出来るの」


 リベルテを睨み付けるイグ。その目が紫色に光り、リベルテの肉体を縛り付けようとするが……彼女の異能の前では意味を為さない。


「無駄よ無駄。私自身に効果を押し付けるような術は全部効かないわ。私を倒したいなら、しっかり力で打ち勝たないとね」


「そうか……ならば、良いだろう」


 イグの体に、パキッと亀裂が入る。そのまま、イグの体が……白く薄い皮が破れ、中から炎が溢れる。


「俺の真の姿で相手をしてやる」


「ふーん、期待はしないわ」


 覆い隠していた炎が晴れると、そこには寧ろ二メートル程まで小さくなり、黒く染まったイグの姿があった。長い尻尾は蜥蜴のようで、足は鳥のようで大きく、縦に細長い瞳は黄金色に染まっている。


「精々、油断していろ」


「ッ!」


 イグの姿が消える。左右にブレたように見えたイグは、リベルテの背後から剣を振り下ろした。


「あっぶないわねッ!」


「チッ、獲れなかったか」


 ギリギリで剣を回避したリベルテは冷や汗を垂らしながらも笑みを浮かべ、イグに向かって拳を突き出した。


「中々、面白くなってきたじゃないッ!」


「お前のその力は無敵ではない。物理法則は世界を縛り付ける鎖でもあるが、同時に世界を保つものでもある。その法則からただ離れれば、不安定になる……俺には、それが見えた」


 イグはリベルテの拳を予見していたかのように回避し、反撃に剣を振り下ろす。


「確かに、物理法則を無視し続ければ私の体自体が不安定になって崩壊しちゃうでしょうね。でも、そうならないギリギリを私は知ってるのッ!」


 袈裟懸けに振り下ろされた剣をリベルテはスレスレで回避しながら、イグの懐に潜り込んでいく。


「ッ!」


「今度はちょっと本気ッ!」


 イグの腹部にリベルテの拳が触れ、一瞬にしてイグは空洞の壁に叩き付けられた。壁に亀裂が入り、凄まじい砂埃と共に壁がパラパラと崩れる。


「あら、タフね」


「当たり前だ……舐めるなよ」


 砂埃の中から現れたイグの体から、神力が立ち昇った。

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