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イゴーロナク

 膨れ上がった白い体を持つ頭の無い人型の邪神、イゴーロナク。銃弾を防ぐ障壁と周囲一帯を溶かし尽くす魔術によって軍隊は殆ど崩壊状態に陥っていた。


「特殊弾が届いたぞ! 撃てッ! もう撃つしか無いんだ!」


「逃げるな! 逃げても別の邪神に殺されるだけだぞッ!」


 士気も酷く低下していたが、増援と支援物資によって何とか少しは持ち直すことが出来ている。


「クソッタレの邪神め、魔術弾を食らえッ!」


 魔術が刻まれた弾丸がライフルから放たれ、イゴーロナクの障壁に直撃する。それは障壁に僅かな罅を入れた。


「入ったぞッ! やれるッ、撃てッ、撃てぇええええッッ!!!」


「通常弾もついでにぶちまけろッ、少しでも綻びを入れさせろッ!!」


 数を半分以下に減らされた軍隊だったが、見えた光明に向けて弾丸を撃ち放った。イゴーロナクを覆う障壁には少しずつ罅が入り、広がっていく。


「イエスッ! ぶっ壊れしてやったぞッ!!」


「このまま畳み掛けろッ、ミンチに変えてやれッ!!」


 遂に砕け散った障壁。そこに弾丸の雨が降り注ぎ、イゴーロナクのぶよぶよとした肥満体に穴を開けていく。


「愚か者共が」


 イゴーロナクは弾幕の中で呟き、軍隊の奥を……兵士の一人を見つめた。


「『   』」


 イゴーロナクの肉体が、弾幕に呑まれて弾け飛ぶ。兵隊達は顔を見合わせて喜色を露わにし、死体の方を警戒しつつも弛んだ空気が流れ始めた。


「おい、見たか? クソ野郎が吹き飛んだぜ!」


「あぁ、邪神も鉛には勝てなかったらしいな」


「おい、お前らあんまり油断するなよ。相手は邪神だからな、いつ何時蘇って、も……」


 騒ぎ立てる者達を諫めようとした上官の男が、それに気付いた。


「なンだ、お、オれ……から、ダガ」


「おい、嘘だろビリー……冗談だよな」


 体が白く染まり、肥大化していく一人の仲間に、上官は引き攣った顔を向けた。


「ァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 叫び声と共に、男の体はついさっき吹き飛ばされたあの邪神……イゴーロナクの物へと変貌する。


「く、クソッタレ……撃てッ、撃つしかないッ!!」


 広がる恐怖を掻き消すように、再び放たれる銃弾の雨。陣形の中心で変貌されたことでフレンドリーファイアも発生しているが、それでもイゴーロナクの肉体は再びミンチに変えられていく。


「ハァ、ハァ……や、やったか? やったよな!?」


「……ォ」


 懇願するように叫ぶ上官。しかし、無慈悲にも隣に居た男の肉体が白く染まり、膨れ上がる。


「おい、ジョークにもならねぇぞ……」


 後退り、銃口を男に向ける上官。


「ァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


「クソがあああああああああッッ!!!」


 邪神へと変貌する男に、再び弾丸が雨となる。しかし、その場の誰もがそれで終わりにはならないと分かっていた。


「ふざけんなよ……どうしたら良いんだよ、クソッタレ」


 肉塊と化したイゴーロナクだが、また部隊の中から変貌する者が現れる。それは、終わらない地獄のように思えた。


「ォ、ォオ……どうした? 愚かなる人間共」


 士気は極限まで下がり、戦意は失われ逃げ出す者も現れ始める中、再び障壁を展開したイゴーロナクは喜色を含んだ声で言った。


「もう二十人も撃っていないようだが……まさか、次の憑依先になるのが怖くて撃たないのか?」


 薄くなった弾幕は、イゴーロナクの障壁を破るのにかなりの時間がかかりそうに見える。


「クク、決めたぞ。次に体を奪うのは我のことを攻撃し続けた者にしよう」


 イゴーロナクが言うと、弾幕はピタリと止まり、邪神は哄笑を上げた。


「ククッ、クハハハッ! 臆病者共めが! おぉ、逃げるなよ? 逃げれば殺すぞ?」


 踵を返そうとした者の体が足から空気が抜けたように薄っぺらい死体に変わり、逃げ出そうと考えていた者達はイゴーロナクに向き合った。


「さて、そうだな……隣の者を撃ち殺せ。出来ない者から苦痛に満ちた死を与えてやろう」


 兵士達は目を見合わせ、息を呑んだ。完全に支配された空間。屈辱も怒りも晴らすことは出来ず、ただ生き残る為には従うしかない地獄だ。



「――――随分、気色の悪いことをしておるな」



 それぞれが銃を構え始めた時、空から九本の尾が生えた和装の美女が現れた。


「何だ……貴様」


 イゴーロナクは警戒するように口の付いた手を女に向ける。


「吾こそは玉藻前。九尾を携えし大妖怪じゃ」


「……良く分からんが、死ね」


 イゴーロナクの手に開いた口の前から、魔法陣が展開され、そこから白い熱線が放たれる。


「ふん、無駄じゃ」


 玉藻の姿が青白い炎となって消え、離れた場所に立って現れる。


「『呪耀腕』」


 玉藻の背から無数に伸びる輝く紫の腕。それらは高速でイゴーロナクに迫り、その肉体を掴む。すると、イゴーロナクの肉体は黒く変色して崩壊し、バラバラの紙切れのようになった。


「『滅雷火落』」


 更に、その残骸すら燃やし尽くす勢いで雷が落ち、全てを消し飛ばしてしまった。


「ォ、ォォ……!」


「これでも死なぬか」


 玉藻の背後、兵隊の一人に憑依したイゴーロナク。玉藻は厄介じゃのう、と呟いた。

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