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影の女悪魔

 黒いドレスの女が支配する漆黒の空間に呼び込まれた老日勇は、瘴気を纏った黒い狼のような化け物達に襲い掛かられていた。


「妙な狼だな……」


「ふふ、地獄の猟犬よ」


 霧のように霞んで見える不定形の狼は、自由自在に空間を転移し、あらゆる場所に消えてあらゆる場所から現れる。


「ギォォッ!」


「面倒だな」


 老日が振るう刃が触れる寸前で狼は消え、別の場所に現れる。だが、狼の攻撃も老日には届かない。自在の転移能力を以ってしても、老日を傷付けることは出来ていない。


「貴方、強いのね」


 黒いドレスの女、マイノグーラは微笑み、その手を老日に向けた。


「こんなのはどう?」


「ッ!」


 老日の足元から影が立ち昇り、老日の全身を包み込む。影に覆われた老日は身動きが取れない状態になり、そこに狼達が襲い掛かる。


「出し惜しみは止した方が良いな」


 老日の全身から透明な神力が溢れ出し、覆い尽くしていた影を消し飛ばす。噛みつこうとしていた狼達も神力を前に転移で逃れる。


「『炉の神よ、偉大なるフォールナクスよ』」


 老日は詠唱しながらも転移によって遥か遠くまで距離を取る。しかし、実際には動いていなかったかのように狼達とマイノグーラは老日を取り囲む。


「『万物を焼く全能の火を、神代の炎を授け給え』」


 老日の右腕に金色に燃える種火が宿る。そこを目掛けて影の槍と狼の群れが襲い掛かるが、老日の剣によって全てが斬り払われる。


「『金禍神炎(フィオガ・フォルノウ)』」


「魔術……でも、神の力みたいね?」


 黄金の種火は右腕を覆う程に広がり、握られた剣の先まで覆い尽くす。


「ふふ、私も出し惜しみは無しにしようかしら」


 マイノグーラの背から蝙蝠のような翼が生え、その美しい髪が無数の触手のようにうねる。


「『永劫の闇、無明の光』」


 始まったマイノグーラの詠唱。老日は眉を顰め、黄金の炎で狼達を牽制しながらマイノグーラに接近する。


「『影から抜けて、音も無く』」


 振り下ろされた刃。それが触れる寸前、マイノグーラの姿は何処かへと消え失せてしまう。


「『暗黒の時(ダーク・エタニティ)』」


 瞬間、この闇の世界の時間が停止した。その中でも動けるのは時空間概念から逸脱した性質を持つ、マイノグーラと狼達。


「時間停止か」


 そして、老日勇だけだ。


「ッ、流石に予想外ね……」


「『肉体の否定、精神の否定、魂の否定』」


 老日は取り合うこともなく、次の魔術を詠唱する。


「『存在の破壊クラッシュ・イグジスタンス』」


 マイノグーラの肉体が派手に弾け飛ぶ。しかし、ニオスの時と同じで殺せている訳ではない。魂か精神で避けられたんだろう、と老日は推測した。


「肉体は焼き尽くすか」


 老日は弾け飛んだマイノグーラに近付き、黄金の炎を纏った剣を地面に突き刺した。すると、黄金の炎が地面に広がり、肉塊と化したマイノグーラを焼き尽くした。


「ギォォッ!!」


「ギィォォッ!!」


 マイノグーラを焼かれた怒りから、狼達が我武者羅に襲い掛かって来るが、無残にも斬り殺され、死体も焼き尽くされた。


『後悔、するが良い……私の肉体に傷を付け……あまつさえ、燃やしたことをッ!』


 漆黒の世界の空に、巨大な何かが浮かび上がる。それは、物質的な形を持たない闇そのものだ。


「第二形態か?」


 凄まじい重圧にも老日は怯むことはなく、呆れたような目でそれを見た。






 ♦




 アメリカを荒らして回る邪神達、その一柱であるラーン=テゴスは、街中を歩き回り、出会った人間を片っ端から捕食していた。


「ヴ、ォ、ォ……!」


 それは、体長三メートル程の異形。丸い胴体と、三つの目と長い鼻が備わった丸い頭部。先が鋏のようになっている六本の足に、全身を覆う毛のようなものは吸盤の付いた触手であり、そこからの吸血が可能になっている。


「ヴ、ォ……」


 辺りには既に人は居らず、ラーン=テゴスはキョロキョロと三つの目で周囲を見回しながら、街の中を歩いて行く。



「――――む、微弱じゃが神力を感じるの」



 その頭上から、宙に浮く和装の女がラーン=テゴスを見下ろしていた。十二単の下からは九本の尾が伸び、黄金色の光を放っている。


「『狐霊火』」


 その手に握られた扇子の先から青白い狐の形をした炎が大量に放たれ、ラーン=テゴスに殺到する。


「ヴ、ォォ……」


 狐火はラーン=テゴスを容赦なく焼き尽くし、十秒と経たずに消し飛ばした。


「ふん、こいつは雑魚じゃったの」


 じゃが、と玉藻は燃え盛る街を睨み付け、扇子を向けた。


「あそこに居る敵は……中々、厄介そうじゃ」


 玉藻がパチリと扇子を鳴らすと、その姿は何処かへと消えた。

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