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皆殺し

 儀式を止められた信者達。しかし、まだ屋敷内の者達はそのことに気付いていない。


「皆殺し、と言っておったな?」


「情報を吐かせる為に何人かは残した方が良いぞ、玉藻」


 天明の言葉を、玉藻は鼻で笑う。


「不要じゃ。霊魂さえ残せば幾らでも話は聞けるじゃろう」


「……まぁ、良かろう」


 玉藻はにやりと笑みを浮かべ、扇子の先を屋敷の方に向けた。


「『九尾解放』」


 玉藻の体から妖力が溢れ、九本の尾と狐の耳が黄金色の光を放つ。


「『滅雷火落』」


 天から青白い巨大な雷が落ち、屋敷を一撃で破壊した。中に居た信者達も当然巻き込まれ、生き残りは経ったの一人も居なかった。


「ふん、呆気ないの」


「おぉ、流石は玉藻前と言ったところだな!」


「玉藻様に掛かれば当然のことです」


 焼けた瓦礫が転がっているだけの屋敷の跡地から、忍者が呆れたような顔で歩いて来る。


「玉藻殿、もう少し配慮があっても良いでござろう」


「屋敷の中は全員敵と言ったじゃろう? 皆殺しとものぉ」


 玉藻が言うと、忍者はがっくりと肩を落とした。


「頓知を聞きたかった訳じゃないでござるよ……」


「ふん、あの程度では問題無かろうと判断しただけじゃ」


 顔を背けて言った玉藻。その表情が険しくなった。


「何じゃ……?」


「……ッ、そこでござる!」


 違和感に眉を顰める玉藻。忍者がその背後に苦無を投げつけると、空間が不自然に歪んで一人の女が現れた。それは、人の姿でありながら同じ人間だとは信じられない程の絶世の美女だ。


「何者ですか……?」


「偉く人間離れした美形だが……聞いていた、例の邪神か?」


 女は素手で受け止めていた苦無を手放し、微笑んだ。



「――――彼らは飽くまでも小さな歯車に過ぎない」



 玉藻達の目の前に立った女は、大袈裟に両手を広げて言葉を続ける。


「それは、私と言う大きな歯車一つで代替出来るものでしか無いんだよ」


 不敵に笑う女を見て、忍者達は警戒しつつ己の得物を向ける。


「つまり、彼らを殺したところで計画に大した支障は出ず、予定通りに作戦は遂行されるということだ」


 女の物言いに、玉藻は敵意を強める。


「お主がニャルラトホテプじゃな?」


「その通り。と言っても、私はその化身に過ぎない訳だが」


 ニャルラトホテプは敵意が無いことをアピールするかのように両手を上げて肩を竦めた。


「さっきは自分のことを大きな歯車だとか言っていたようでござるが?」


「あぁ、私と言うか……私達かな? クトゥルフが何もせずとも何れ蘇るように、人間の手を借りずとも邪神を蘇らせることは簡単だ。それでもこういうやり方をしているのは、ほんの少し楽が出来るのと、そっちの方が楽しいからというだけだよ」


 ニャルラトホテプがニヤリと笑い、一歩玉藻達に近付こうとした瞬間、その頭が弾け飛んだ。


「流石に動かれるのは許容出来んでござるよ」


 それを為した忍者は、胴体だけになったニャルラトホテプに札を張りつけ、封印しようとしたが……その胴体が勢い良く膨れ上がり、札は剥がれた。


『酷いなぁ……本当に、酷いことをする』


 巨大な肉の塊とでも言える姿になったニャルラトホテプは、響くような声で恨み節を言った。


「ッ、玉藻殿!」


「分かっておる」


 玉藻は宙に浮き、扇子を巨大な肉塊に向けた。


「『青炎群葬』」


 玉藻の周囲に巨大な青い火球が大量に生み出されていき、それらは一斉に肉塊に向けて放たれた。


『ほう、流石は大妖怪と言ったところかな!』


 肉塊から勢いよく巨大な触手が伸び、それらの火球を迎え撃った。火球は直撃した触手を弾け飛ばせていくが、本体までは辿り着かない。


「『滅雷火落』」


「『縛霊鎖』」


 青白い雷が肉塊に落ち、天明によって放たれた無数の青い鎖が肉塊を縛り付けていく。


「『青炎霊砲』」


「『焼芯解(しょうしんげ)』」


 青い炎の波動が肉塊を呑み込み、その内側から、焼き焦がす炎が溢れ出す。


『ぐ、ぅ……く、ふふ……中々、楽しめそうだ……』


 巨大な肉塊は神力を消費してしぶとく再生しようとするも、ニャルラトホテプは全身を燃やし尽くされ、遂に消滅した。


「ふん、本気を出すまでも無かったの」


「ハハハッ、そうだな! 式神の一体も出さずに終わったぞ!」


「玉藻様、流石のご活躍でした!」


「老日殿が言った通り、化身一つの力としては大したものでも無かったでござるな……魔術の類いも使わない上に、神力も特に活用されなかったというのはあるでござるが」


 化身の持つ少ない神力では、忍者達を相手にすることは難しかった。単純な再生能力だけを武器にして戦えるような相手では到底無かったと言える。


「しかし……あの様子、時間を稼がれたようにも見えるでござるな」


 忍者がそう口にした瞬間、全員の懐に収められた小さな紙から声が響いた。


『おい、緊急事態だ!』


『各地で邪神が解き放たれているようです! 被害はアメリカを中心に広がっています!』


『私達の拠点もさっきから襲撃されてるわ。正直、街の方まで手を回す余裕は無いかも……!』


 切羽詰まった通信に、忍者達は顔を見合わせた。

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