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もう一方

 現れたのは、クトゥルフに並ぶほどの図体を持つ白い巨人。真紅の瞳を持ち、霧と雲で体を朧に隠している。そして、二体の翼の生えた巨大な触手の塊。それは翼をはためかせて宙に浮き、不気味に触手を動かしている。


「我が風よ、滅ぼすべきはこの鬱陶しい土の神ですか? それともこの矮小なる人間ですか?」


「鬱陶しくて忌まわしい方だ。纏めて吹き飛ばしてしまえ」


 巨人はハスターの答えに頷き、雪のように白い両腕を大きく広げた。


「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」


 瞬間、俺も構わず巻き込む勢いで嵐が吹き荒れた。ニャルラトホテプ達は一斉に自身の姿を変化させ、異形の化け物へと変身する。


「もう少し配慮があっても良いんじゃないか?」


 吹き荒れる神力の嵐。俺は神力の障壁に籠り、ニャルラトホテプの化身達が吹き飛ばされていくのを見た。


「良いぞ、イタクァ。何にも構わず全力で切り刻め」


 ハスターはそう言うと、俺の方に手を向けて黄色い球状のバリアを展開した。それは完全にイタクァと呼ばれた巨人の風をシャットアウトし、俺を守っている。お陰で神力の障壁を張る必要は無くなったな。



『――――舐めるなよ、従属神風情が』



 イタクァの暴風が全てを切り刻んでいく中、この空を覆う巨大な影が現れた。


「チッ、面倒な化身が現れたな……」


 それは、イタクァを超える巨人。円錐形の触手のような頭部、筋肉が剥き出しになった胴体、伸縮自在の腕と鉤爪。秘められた神性は他の化身よりも群を抜いて上に見える。


「ロイガー、ツァール。行くぞ」


 翼の生えた触手の塊を二体連れて、ハスターはその化身へと向かって行く。


「……俺がやることあるか?」


 外は風が凄いからな。態々神力を障壁用に消費してまで戦いに行く必要があるとは思えない。あの巨人を倒せそうになければ話は別だが。


「やぁ、暇そうだね?」


「アンタの方は忙しそうだな」


 俺を覆う障壁の前に歩いて来た女の姿のニャルラトホテプが言う。


「くふふ、まぁね。見ての通り大変だよ」


 不思議なことに、目の前のニャルラトホテプは他の化身と違って嵐をものともしていない。戦闘術式を以ってしても、その身に秘める神力については測れなかった。


「丁度、彼女の方でも準備が出来たようだから……行ってもらおうか」


「どこに行くんだ?」


 直後、俺は足元から溢れ出た闇に呑まれ、次の瞬間には暗黒の空間に立っていた。


「……さて」


 どうせやることが無いならと受け入れた俺だが、何も起こらない。単なる封印であれば、どうとでも出来そうではあるが……



「――――うふふ、私の世界へようこそ」



 直後、背筋を撫で上げるような感触と共に、黒いドレスを着た女が現れた。


「誰だ?」


「私はマイノグーラ……影の邪神」


 周囲から、ハッハッと荒い息のような音が聞こえる。人では無く、犬のような。


「貴方を、食べてあげるわ」


 全方位から襲い掛かって来る狼のような化け物達。どうやら、遠慮する必要は無いらしい。






 ♦




 星辰が揃い、クトゥルフが蘇ろうとしている時、忍者達はロードアイランド州のプロヴィデンスを訪れていた。その目的は、星の智慧派の本拠地を潰すことだ。


「ここでござるな」


 フェデラルヒルのナイトストリートに立つ一際大きな一軒家。鉄柵で囲われた駐車場が隣接されたそこは、どことなく暗い雰囲気が漂っていた。


「如何にも怪しげな雰囲気じゃな」


「ここら一帯の建物も買われているようだな。余りにも人の気配が無い」


「人払いの結界まで張られていますね……間違いないです」


 忍者、玉藻、天明、弥胡。高い実力を持つ四者は、それぞれ隠形の術によって身を隠している。話している声も彼らの間でしか聞こえていない。


「良し、行くか。向こうも始まったようだからな」


 天明が先頭を歩き、その屋敷へと近付いて行く。


「待つでござるよ、天明殿。先頭は拙者に任せい。それか、式神で索敵をすべきでござる」


「ふん、何をビビっておるのじゃ。ここからは速度が勝負じゃろう? この面子で安全を取る必要も無かろう」


 玉藻の言葉に、忍者は顎に手を当てる。


「確かにそうでござるが……同じくらい向こうも強大な相手でござるよ。隅々まで見るつもりはござらん。一分と経たずに終わらせるでござるよ」


「まぁ、こうして話している時間も勿体無いだろう。任せる!」


「承知」


 天明の言葉に忍者は頷き、屋敷の中に入り込んだ。



 忍者は屋敷の中を高速で駆け抜け、中の人間達や罠の有無を確認していく。


(……全員報告にあった敵でござるな。部外者や拉致されてきたような者も居らんでござる)


 忍者はそれらを確認し終えると、屋敷の地下にある儀式場のような場所まで入り込んだ。


「イア……イア……」


「カントゥヌ、ワンタァェ……」


 陣を囲み、何かを唱えている信者達。忍者は躊躇することなく、彼らの首を斬り落とした。


「なッ!?」

「ぐぉッ!?」

「誰、が……!」


 忍者は血塗れになった陣を破壊し、小さな紙を通じて言葉を送った。


「屋敷内、全員敵でござる。気にせず皆殺しに致そう」


 その号令を皮切りに、日本でも最強格の強者達が行動を開始した。

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