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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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闇に囁く者

 俺は懐から紙切れを取り出し、瓢に念話で報告した。


『という訳で、アンタに託すことにしたんだが……どうする?』


『正に丸投げだね……まぁ、メリットとデメリットを考えようか』


 こちらをじっと見ているハスターに、俺は待てと言う代わりに片手を突き出した。


『先ず、メリットはクトゥルフに関する深い知識が手に入れられること。そして、単純に戦力が増えること。デメリットはこっちの情報が相手に握られること。場合によっては、敵対化する可能性もあること』


『そうだな。だが、敵対化する可能性があるのは断った場合でも同じだ』


『そうだけど……ニャルラトホテプと繋がっていた場合が面倒臭いんだよね』


『クトゥルフを蘇らせようとしているのはニャルラトホテプだろう? だったら、それを阻止しようとするハスターは敵同士だと思うが』


 念話でべらべらと話している俺達だが、ハスターには聞こえていない筈だ。アイツは飽くまでも音を頼りに会話を聞いていると言っていた。音の出ない念話では盗聴される危険は低い筈だ。


『そう単純じゃないのが厄介なところなんだよね……ハスターはクトゥルフには敵対しているけど、それ以外の邪神の復活には協力するかも知れないし、クトゥルフを復活させようとしている化身と敵対関係になるだけで他の化身とは敵対しないかも知れない。正直、向こう側の内情については探れていないのが現状だからね』


『……だったら、どうする?』


 丸投げした俺だが、意外にも直ぐに返事は帰ってきた。


『受けよう』


『即答だな』


『もしかすれば、ハスターを通じて向こう側の情報や他の邪神の情報も抜けるかも知れない。それに、正直こっちの情報がバレた時のリスクと向こうの情報を抜けた時のリターンは後者の方が大きいと思う』


『確かにな』


 俺は頷き、紙を懐にしまった。


「決めたぞ、ハスター」


「答えを聞こう」


 まぁ、決めたのは俺じゃないんだが。


「俺達は協力関係を受け入れる」


「賢明な判断だ」


 ハスターは触手を伸ばし、握手を促した。俺は警戒しつつもそれを表に出さずに手を取り、握手を成立させた。


「俺が怖くないのか?」


「今更だろう。そもそも、俺達はクトゥルフを相手取ろうとしていたんだ。敵対関係にない邪神を相手にビビっていたら何も出来ない」


「それにしても、抵抗が無いな。俺の姿は人間に恐怖と嫌悪感を与えるのが普通だ。少なくとも、握手を躊躇うくらいにはな」


 なるほどな。その反応を確かめる為に握手を求めたのか。


「まぁ、ハンターだからな。見た目がちょっと常人離れしている程度なら気にならない」


 悍ましいだけの生物なんて、今までに何度見てきたか分からないしな。


「そうか……少なくとも、度胸の面では十分以上に信頼できるらしい。良いだろう。早速、奴についての情報を共有する」


「あぁ、頼むぞ」


 本題だな。聞き漏らす訳にはいかない。


「先ず、クトゥルフに真の意味での死が訪れることは無い。さっきも言った通り、奴は星辰と結び付き、その全ての星が破壊されない限りは休眠と言う名の封印状態以上のことにはならない」


「つまり、殺すのは難しいって話だな?」


「そうだ。普通ならな」


「普通なら?」


 俺は眉を顰め、聞き返した。


「お前の仲間には星を操る魔術士が居るだろう。その力があれば、星辰との繋がりを無理やりに断つことが出来るかも知れない」


「……なるほどな」


 確かに、アステラスと瑠奈ならば可能かも知れない。


「その者達には俺から星辰の情報を詳しく共有するとして、話はまだある」


「何だ?」


 ハスターは一拍置いて話を始めた。


「奴には無数の眷属や仲間が存在している。そして、協力者であるニャルラトホテプがな」


「その通りだな」


「お前がどこまで知っているかは分からないが……深きものと呼ばれる最も矮小で数が多い眷属、そしてその深きものの成長した最大個体であるダゴンとハイドラ、更にはクトゥルフが直接生み出した仔らや、その他の矮小なる眷属共も無数に存在している」


「要するに、本体の強さというよりもその仲間も含めた規模が大きいってことだな?」


「あぁ。何せ、太平洋の海底に沈んだルルイエはお前たちの住む日本列島よりも巨大だからな」


 デカすぎんだろ。


「そのルルイエってのは具体的にどこにあるんだ?」


「お前達の国で言えば、ニュージーランドとチリの中間辺りだ。どの陸地からも遠い、正に絶海の都市と言う訳だ」


 なるほどな。その上、あの港町のような隠匿の結界も張られているんだろう。見つからなくても不思議は無いし……見つけたものが居なくなっていても不思議ではない。


「選択肢としては、先んじてルルイエを破壊し尽くすというのもあるが……理想としては奇襲だ。気付かれていない状態からクトゥルフに襲撃をかけたい」


「あぁ。ニャルラトホテプにも気付かれるだろうしな」


「そうだ。そうなると、復活までに何かしらの対策を用意されてもおかしくない」


「つまり、クトゥルフの起き抜けを狙って奇襲したいって話か」


 壮大な寝起きドッキリを仕掛けて、何かされる前に殺せば勝ちって訳だな。

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