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夢見るままに待ちいたり

 一日かけて調べたが、復活までの詳細な時間は分からなかった。だが、少なくとも三日以上はかかるであろうことは判明した。


「クトゥルフ、か」


 クトゥルフ神話において旧支配者と呼ばれる神の一柱であり、四大元素の内の水の神。風の神であるハスターと敵対している。また、地の神であるニャルラトホテプは火の神クトゥグアと敵対しているらしい。


「……そして、ルルイエ」


 俺は部屋の中で一人、言葉を漏らした。クトゥルフの眠るという海底都市、それはクトゥルフの復活と共に浮上し、世界中の人間に精神異常を引き起こす。また、クトゥルフが復活しルルイエが浮上している状態が長く続けば、海面上昇により世界は海に沈むかも知れないらしい。


「絶対に止める必要はあるな」


 どの程度調べた情報が信用に値するかは分からないが、一旦クトゥルフの復活を阻止する必要があるのは間違いない話だ。


 その時、コンコンと部屋の扉が叩かれた。


 その向こう側から感じられる気配は、どうにも普通じゃない。というか、人の気配ではない。


「……出るか」


 とは言え、扉の向こうの相手が敵で、どうせ気付かれているなら居留守をしたところで意味は無い。取り敢えず確認する方が情報を得られて得だ。


「誰だ?」


 俺は扉を開き、扉の向こうの相手を確かめた。



「――――単刀直入に言う」



 そこに居たのは、暗い黄色の服を着た男だった。エメラルドグリーンの瞳が美しく輝いている。


「俺に協力しろ」


 俺の頭の中には、さっきまでと全く変わらない一つの疑問が渦巻いていた。


「誰だって聞いてるんだが」


「俺はクトゥルフの敵だ。お前もそうだろう?」


「まぁ、その予定ではあるが」


「だったら、俺に協力しろ。俺はアイツのことを良く知っている」


 だから、誰なんだよ。


「アンタの名前を聞きたいんだが」


「……隠す意味も無いか」


 男の体が浮き上がり、その周囲に纏わりつくような風が吹く。



「――――ハスターだ」



 男の体が指先から変形し、全身が触手に変化していく。その途中で破れた服は襤褸切れのように纏わりつき、巨大化した体を頭まですっぽりと覆う黄色いローブと化す。


「若しくは、ハストゥール。風の神だ」


 袖や足元から飛び出ている無数の触手が揺れ動き、フードに隠された深緑色の瞳がこちらを見る。三メートルを超える身長の怪物が、そこで対話を求めていた。


「俺は老日だ」


「知っている」


 即答したハスター。しかし、そうか。クトゥルフと敵対しているハスターならば、俺と手を組もうとするのも分かる。


「しかし、アンタも邪神なんだろう? 人間の俺なんかの力を借りずともクトゥルフの復活を阻止することくらい出来るだろう」


「俺は邪神だが、この体は単なる化身だ。その力の一端を引き出すことしか出来ない」


 ハスターはそう言って窓の外、空を触手で指差した。


「俺の本体は宇宙の果て、別の星の中にある。そして、例え本体が地球に居たとしても……クトゥルフの復活自体を阻止することは出来ない」


「そうなのか?」


 アイツらの儀式とかを止めればどうにかなりそうなもんだが。


「クトゥルフは星辰が揃いし時に蘇る。深きものどもの祈りや儀式など何の意味も無い。どうせ、何れ星辰は揃い、クトゥルフは蘇るのだ」


「意味無いのか、アイツら」


 だったら、復活自体を止めるのはかなり難しそうだな。


「アイツは存在自体を無数の星々そのものと結び付けている。故に、アイツを真の意味で殺すにはその星々全てを破壊する必要がある」


「破壊できないのか?」


「単なる岩の星を壊すだけなら簡単な話だが、そうではない。自身の命に結び付く星に何の防備も無いと思うか?」


「なるほどな」


 ガチガチに守っているって訳だな。


「だから、俺はお前に話を持ち掛けた。少し調べたが、お前とその仲間は大層優秀なようだ。俺達が手を組めば、完全にあの邪神を滅することも可能かも知れない」


「どうやって調べたのか、聞いても良いか?」


 俺が聞くと、ハスターは触腕の上に風を創り出した。


「俺は風の精だ。風や大気そのものを支配する俺にとって、音を聞くことは造作も無い。俺はアメリカ全土の声を聞くことが出来る。と言っても、その全てを情報として処理できる訳では無いが」


「じゃあ、どうやって俺達のことを見つけたんだ?」


「俺はクトゥルフ関連の話については常にアンテナを張っている。奴やその配下である深きものどもに敵対する人間を見つけた時に、眷属や俺の力を貸す為にな」


「随分、人間のことを重要視しているようだな?」


 俺が聞くと、ハスターはふんと鼻を鳴らした。


「当然だ。俺は風の力で世界中の声が集まって来る。当然、無造作で精査もされていないものだが……それでも、俺の化身を上回る力を持つ人間と言うのが無数に居ることは明白だ」


「アンタは……というか、化身はどのくらい強いんだ?」


 ハスターは少し迷った末に、答えた。


「分からん。だが、奴の眷属であるダゴン程度ならば勝てるだろう」


「……ダゴンか」


 ダゴンの強さが分からないからな。何とも言えない。


「それで、どうする? 俺と手を組むか、断るか」


 俺は考えた末、一つの答えを出した。

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