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水底から響く声

 ステーキはかなり美味かった。ロブスターなんかも食ってみたが、それも美味かった。


「さて、どうするか……」


 俺はボストンのホテルに備えられた柔らかいベッドの上に横たわっていた。


「……やることあるのか、俺?」


 何というか、人が多いからな。別に俺が何もしなくても事が進むんだよな。


「まぁ、取り敢えず出るか……」


 俺は部屋を出て鍵を閉め、廊下を歩く。直ぐにエレベーターを見つけ、一階まで下りた。


『どんな調子だ?』


『オレは順調に群れを増やせてるな。特に怪しまれてる節も無いとは思うが……幾つか縄張りを見つけたぞ』


『どこの組織のかは分かるか?』


『いんや、そこまでは深入りしてないな。ただ、例の小規模な犯罪集団は関係無さそうだな。どこもそこそこの魔術士が操ってるみたいだぜ』


『そうか……まぁ、無理やり縄張りを突破する必要は無い。まだ向こうにバレる訳にはいかないからな』


『カァ、分かってる』


 カラスは順調みたいだな。


『私も眷属を増やせています。既に千匹を超える鼠や小鳥が私の支配下です』


『ナイスだ』


『それで、瓢の言っていたグリーンウェイの辺りを調査したのですが……例の小規模な犯罪者集団を発見致しました』


『随分、早かったな』


『当然です。メイアだけでなく、私も助力したので』


 割って入って来たステラが言う。念話の向こう側でメイアがムスッとしているのが伝わって来る。


『私一人でも変わらなかったと思いますけれど……取り敢えず、もう少し詳しいところまで分かりましたら、瓢にも報告しようかと思います』


『いや、もう伝えて良いぞ』


 アイツはどこにでも不法侵入出来る上に、完全に気配を消せるからな。目の前に居ても気付かれないレベルで。


『了解致しました』


『拠点的なのも見つかってるんだろ?』


『はい、見つかっております』


『だったら、アイツに任せておけば良い。多分、内部の情報は全部抜ける筈だ』


『主様でも同じことが出来るのでは?』


『まぁ、別に同じようなことはカラスでもお前でも出来るとは思うが、一番手軽に最も効果を発揮できるのはアイツだろうな』


 俺も魔術を使って色々やることは出来るが、瓢ならそんな工夫や労力が無くとも情報を抜ける。適材適所って奴だな。


「……となると、本格的にやることないな」


 適当に港にでも行ってみるか。港だと色んな奴らが話をしてるだろうからな。それを全部聞いていてば、何かしらの情報は手に入るだろう。




 ボストン港に辿り着いた俺は、そこら辺にあったベンチに座り込んで目を閉じていた。聴覚以外の情報を殆ど遮断しているからだ。


「ニューウィーダーズの新曲聞いたか? マジヤバくねぇ?」

「おいッ、割れ物の箱の上に家具を置く馬鹿がどこに居やがる!?」

「アンタ、ホントに財布ないの? もう、貸し一つよ」


 この港周辺の全ての声が聞こえてくる。気になるような会話は未だに聞こえてこない。だが、その時俺の耳がくぐもった声を捉えた。


「ゥゥ……ォ……」

「ゥ……ゥゥォ……」


 唸るような、何か鳴き声のような声。それは確かに、海の中から聞こえて来た。


「言語……ではあるな」


 直接相手のことを発見できても居ないので完璧な翻訳は出来ないが、ある程度会話を聞いたことで少しずつ翻訳が出来てきた。


「ヤッ――、今日は良い船ガ無いナ……女が少ナイ」


「そうダナ。今日はやめて――方が良い」


 何の話だ? 良い船……女の数……女が多いのが良い船ってことか?


「一旦、帰って報告ダナ……ところデ、――は見つかっテルのカ? アメリカに居るッテ話だヨナ?」


「知らン。忌々しいガ、地上にオレ達は手を出し辛イからナ。それ――、アイツに任せルしかない――ウ」


 駄目だな。直接読み取れない以上、翻訳が不完全だ。もう少し会話を聞きたいところだが……


「帰ルぞ」


「アァ」


 去ろうとしているのを察した俺は目を開き、魔術を使って海の奥を泳ぐそれの姿を捉えた。


「……そういう感じか」


 それは正に、半魚人と言うに相応しい異形だった。四肢と鰓のある、魚の頭をした人型の生物。ザラザラしているように見える青白い肌は水棲生物であることを思わせる。


「少し、調べるか」


 こいつの存在は報告には無かった。俺が調べる価値もあるだろう。

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閑静な漁村の一般市民さんじゃないか…
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