情報の共有
皆の注目を集めた瓢はにやりと笑い、口を開く。
「打ち解けて来たみたいで何よりだね。そろそろ、お互いのことを知れたところだと思うけど……勿論、実働するのはここのメンバーだけじゃない。お互いの情報を漏らさない範囲なら好きに協力者を募ってくれて良いしね」
そうだな。ここに居るのは元からニャルラトホテプに関わっていたか、高い情報収集能力を持つメンバーが殆どだ。俺も使い魔達は呼んでいない。
「知っての通り、ここに居るのは既に何かしらの情報を持っている中核のメンバーということだね」
瓢の言葉に、ばらばらと頷くのが見える。
「という訳で……早速だけど、情報共有と行きたいな」
俺達はこの数日間でそれぞれ情報を集めていたが、詳細な報告を聞くのはここが初めてだ。
「じゃ、先ずは僕達から話そうか」
瓢はそう言って、玉藻の方に視線を向けた。
「ふん、殆ど調べたのは吾じゃがな」
「あはは、実はそうなんだ。説明も任せて良いかな?」
玉藻はふんと鼻を鳴らし、パタリと扇子を閉じた。
「吾が調べさせられたのはこの日本に件の邪神がまだ居るかどうか、そして今までに何体の化身が居ったかじゃ」
そうだな。瓢は日本にまだ他の化身が居るかどうかを調べると言っていた筈だ。
「結論から言うがの、日本にはもうその化身は居らぬし、過去を見ても日本で主に活動しておった化身は既に消滅した一体のみじゃ。一時的に日本に関わっておったと見える者は何体も居ったがの」
「つまるところ、全ての邪神を復活させることが目的のニャルラトホテプは日本にはもう居ないし、手のかかってる組織なんかも居ないってことだね」
一先ず、日本の安全は確認出来たって訳だな。
「さて、僕らが調べられたのはそんなところだけど……」
「次は拙者達が話すでござる」
忍者が天明と目を合わせると、天明は頷いた。
「話の裏取りは拙者がやったでござるが、大まかに調べたのは天明でござるからな。説明は任せるでござる」
「俺は説明というものが苦手なんだが……良いだろう」
天明は立ち上がり、腕を組んだ。
「俺達が調べたのはニャルラトホテプが動かしているであろう組織についてだ。奴が関わった痕跡がある組織や、ニャルラトホテプを密かに崇めている教団を幾つか発見した」
それは、デカいな。
「それと、化身の位置について直接探るのは、俺のやり方では少し危険と判断した。故に、それらの組織を導いているであろう化身の足取りに関してはあまり掴めておらん……悪いな!」
「大丈夫だよ! 私なんて何もしてないし!」
瑠奈もアステラスの手伝い的なことをしていたが、言ってしまえばそれだけだ。やろうと思えばアステラス一人でも出来たことではあるだろう。勿論、時間の短縮としては貢献しているが。
「詳しくは後で共有するでござる故、一旦そちらの報告を聞いておきたいでござる」
忍者が俺の方を見たので、俺はアステラスに視線を流した。
「ふむ、次は吾輩達の番か」
「頼んだ」
「師匠、よろしく!」
アステラスは天明と入れ替わるように立ち上がると、胸の前で右の手の平を広げ、上に向けた。
「吾輩達はニャルラトホテプの位置そのものについて調べた。優秀な星魔術士である吾輩は、恐らく貴様達が危険視していたであろう本体との接触を避けて化身の位置を割り出せた」
アステラスの手の平の上に、地球を模した球体が出来上がる。凹凸があり、緑と青のコントラストが美しいそれは、地球儀というよりも手の平サイズの地球そのものに見える。
「大まかだが、こんな程度だ」
小さな地球に、無数の光の柱が立つ。その数は千を超えていた。
「随分、多いでござるな……」
「とは言え、この全てが敵と言う訳では無いんじゃろう?」
アステラスは頷き、地球を軽く押し出して空中に放り、浮遊させた。
「それぞれの思想や容姿、戦力に関してはハッキリ言って全く分からん。というか、そこまで調べようとすれば確実にこちら側の居場所まで掴まれるからな。調べることが出来なかったという方が正しかろうな」
「あぁ。全ての化身が敵では無い以上、無理やりに調べて関係の無い化身にまで敵対されるリスクを負いたくは無いからな」
千を超える化身の全てに敵対されるなんて、考えただけで頭が痛くなってくる。
「……うん、これで情報は全部かな」
暫しの沈黙を見て、瓢が前に出る。
「ここまでの話を纏めると、日本は現状だと安全圏で、ニャルラトホテプに関与する組織が幾つか見つかり、地球に存在する化身の数と大まかな位置が分かった……って、感じかな」
瓢は言い終えると、自分の言葉を咀嚼するように少し考え込んだ。
「組織のある位置とニャルラトホテプの存在する位置を照らし合わせれば、不確定だった情報も殆ど確定になるだろうし、それでもう少し情報の確度を上げて……次は、その怪しい組織達を調べよう。そいつらが黒だと分かれば、組織に関与してる化身を調べて殺しに行けばいい」
「そうだな。というか、目的が黒い組織は片っ端から潰せば良いだろう」
始めは全く実体を掴めないかと思ったが、こうして力が集まれば尻尾を捕まえることも出来そうだな。