強者の集い
数日後、俺達は瓢の呼び出しによって山奥に集合していた。
「やぁ、良く集まってくれたね」
「おい、瓢。何故吾の塒に集めたのじゃ」
そこに居たのは瓢、忍者、俺、瑠奈、アステラス。そして、玉藻と弥胡と天明だ。
「皆立場はあると思うからね……お互いがこうして集まっていることは他の誰にも漏らさないようにして欲しい」
玉藻を無視し、瓢は話を続けた。
「うむ、拙者なんかは特に話されると困るでござる」
「あ~、だからそんな格好してるんだ」
「いや、まぁそれも勿論あるでござるが……何でも無いでござる」
「ん、変なの」
瑠奈の言葉に、忍者は若干凹んだように顔を俯かせた。
「あはは、そんな話はどうでも良いんだけどね。取り敢えず、その約束は皆守ってくれるってことで良いかな?」
瓢はバッサリと斬り捨て、俺達に問いかけた。全員が頷くのを見ると、瓢もにこりと笑って頷いた。
「良し。じゃあ、皆元の話は知ってると思うから端折るけど……僕たちは邪神の復活を狙っているニャルラトホテプの化身を全て滅ぼすことを目標に動く、仲間だ。ここで初めて会った人同士も居ると思うけど、出来る限り仲良くして欲しい」
「うん、よろしくお願いします」
「よろしくでござる」
「陰陽師の天明だ! よろしく頼む!」
瑠奈と忍者と天明が頭を下げ、俺を含めた他の面子は沈黙を貫いている。
「そうだね、自己紹介がまだだった。僕は瓢、ぬらりひょんって妖怪で、擦り抜けるのが得意技さ。魔術師の二人は僕のことを知らないと思うけど、僕はここに居る誰よりも弱いから……お手柔らかによろしくね」
「あれ? 私、魔術師ってこと話してないよね?」
瑠奈が言うと、瓢はニヤリと笑った。
「魔術結社の第四位と第七位。知らない訳も無いだろう?」
「一般人だと知らない人も全然居るけど……一般人じゃないか」
それどころか、人ですら無いな。
「さぁ、皆も自己紹介してくれるかな?」
自分から名前を出したのは天明と瓢しか居ないからな。奇しくも俺はこの場の全員を知っているが、知らない同士も居るだろう。
「吾輩は混沌より生まれし夜の化身、〈星天〉のアステラスだっ!」
「その弟子の若星瑠奈です! よろしくお願いします!」
一歩前に出たアステラスが高々と宣言すると、その脇からひょこっと現れた瑠奈も挨拶した。
「そこの二人を連れて来た老日だ」
一応、全員顔見知りだからな。詳しく自己紹介する必要も無いだろう。
「拙者は訳有って名前を隠している故、見た目通り忍者とでも呼んで欲しいでござる」
「一応、もう一度自己紹介しておくか! 俺は陰陽寮の長を務める土御門天明だ! 陰陽道のことならば大抵は分かる」
瓢は残った玉藻と弥胡の方に視線を向けた。
「ふん、吾は大妖怪白面金毛九尾の狐……玉藻前よ。見たことくらいはあるじゃろう?」
「私は妖狐の弥胡、玉藻様にお仕えさせて頂いております」
小麦色の大きな九尾に、白い髪と耳。幾重にも布が重ねられた十二単を着込んだ玉藻はふんぞり返って言う。
反対に、小麦色の尾と耳を生やした弥胡は巫女のような装いに似合う流麗な所作で頭を下げた。ステラの言葉が効いて礼儀正しくなったのかも知れない。
「凄い、テレビで見たより綺麗……」
「当然じゃろう。てれびじょんではオーラが伝わらぬ。この吾の、圧倒的なオーラがの」
見せびらかすように顎を上げ、尻尾を広げる玉藻を瑠奈とアステラスはしげしげと見た。
「大妖怪、玉藻前……妖というのは妖術を使うのであろう? 吾輩に少し見せてくれぬか? 中々、見る機会が無くてな」
「妖術と言うならば、ここには瓢の力を借りて来たのじゃろう? ならば、既に妖術は体感している筈じゃ」
玉藻の言葉に、アステラスは困ったように首を振った。
「アレは良く分からんかった。一瞬な上に、術の実体も無いからな。そうでなくて、もっとこう炎を出現させるくらい分かりやすい術が見たいのだ。貴様がテレビでやっていたような奴をな」
「ふん、これで良いかの?」
玉藻の周囲に無数の青白い炎が浮かぶ。すると、アステラスは直ぐにその炎に寄っていった。
「ほう……これが妖力か。純粋な熱では無く、燃やすという概念そのものを付与されたエネルギー体と言ったところか?」
「別に、熱を出してやろうと思えばそれも出来るがの」
無数の青白い炎から熱気が溢れ、アステラスが顔を顰めて飛び退く。
「……熱いぞ」
不快そうに玉藻を睨むアステラス。その間に弥胡が立ち塞がり、小さい札をアステラスに向けた。
「む、何だそれは?」
「なッ、近付いて来ないで下さい!」
弥胡に近付き、向けられた札を観察しようとするアステラスに弥胡は後退る。
「ちょっと、師匠! 何にでも興味を示すのは程々にしてください! 明らかに敵意向けられてますよ!」
「とは言え、この場で攻撃してくるような愚行は犯さんだろう」
まだ近付こうとするアステラスの襟首を瑠奈は掴んだ。
「ぐぇ」
「駄目ですよ、師匠!」
「向こうの弟子はあんなにも師に献身的だと言うのに、吾輩の弟子は厳しすぎる……」
「えぇ!? これでも私、大分甘くしてるつもりですよっ!」
実際、可愛いだとか何だとか言って甘やかしてる印象はあるな。
「……あの、私は弟子では無いですからね。単なる玉藻様の一配下です」
「ふむ、そうか」
「弥胡は吾の弟子であり、娘のようなものじゃ。吾の妖力から生まれておるからの」
何とか、穏便な空気が戻ったところで瓢がパンと手を叩いた。