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 素材、何を渡すべきか。


「杖は既に常闇の杖(エオニオ)があるからな。素材一択だ」


「あぁ、そういえば言ってたな」


 あの真っ黒い杖のことだろう。最高傑作だとか何だとか自慢された覚えがある。


「じゃあ、アンタにはこれをやる」


 俺は虚空から手の平に乗る程度の黒い玉を取り出した。宇宙そのものを映し出しているかのように、星のような煌めきが無数に浮かんでいる。


「む……ッ!? 何だこれはッ!」


 アステラスは直ぐにその球体をひったくり、しげしげと観察した。


「星玉と呼ばれる石の一種だ。宇宙の魔力そのものが物質化した物で、アンタの使う星魔術とは相性が良いだろう」


「そのようだな……」


 星から溢れ出し、宇宙を漂う魔力は極稀に物質化することがある。それが星玉と呼ばれるモノなんだが、これはその中でも星の爆発後に発生するブラックホールの残骸とでも言うべきモノだ。ブラックホールが蒸発した後、中で凝縮されていた魔力だけが物体化して残ったのがコレだ。


「ふむ……素材とは聞いたが、下手に加工するべきでは無いな」


「そうかもな」


 莫大なエネルギーが凝縮された球体。当然、管理には気を付ける必要がある。とは言え、並大抵のことでは魔力が漏れ出すことすら無いが。


「面白い。存分に研究させて貰うとしよう」


「程々にな」


 続けて、俺は期待するようにこちらを見ている瑠奈に体を向けた。


「何が欲しい?」


「指輪かな!」


 それ、真面目に言ってるんだよな?


「……これだな」


 俺は指輪を二つ取り出し、手の平に乗せて瑠奈に見せた。アステラスも横から身を乗り出して指輪を観察する。


「これが星浄の指輪、これは……黒天の指輪、とかだった筈だ」


 銀色の輪に青く煌めく宝石が埋め込まれた指輪と、細かく溝が刻み込まれただけの黒い指輪。装備の一つ一つの名前を覚え切れてはいないが、この二つが優秀な魔道具であったことは覚えている。


「星浄の指輪は、簡単に言えば精神浄化の為のアイテムだ。精神汚染がヤバそうな邪神を相手にする為ってのもあるが、この前の模擬戦で見た狂気に陥る代わりに能力が上昇する魔術とも相性が良いと思ってな」


「……私の能力までちゃんと考えてくれたんだ」


「あぁ。それと、呪いや毒にも耐性が持てる。瘴気も消せるし、位が低いアンデッドなんかは近付くだけで浄化出来るぞ。その指輪を通して魔術を使えば、邪神にもダメージが通る筈だ」


「凄い……ここまで凄い指輪型の魔道具は初めて見たかも」


 手に取ってしげしげと眺める瑠奈。その口角はにへらと上がっている。


「それで、こっちの黒いのが重力を操れる指輪だ。少し癖はあるが、相手の動きを止めるのにも役立つし、自分を高速で動かすことも出来る」


「えっと……こんな感じかな?」


 指輪を嵌めた瑠奈の体が、ふわりと浮き上がる。


「流石、星魔術なんて使えるだけはあるな」


「ふふ、まぁね? 私だって偶にはセンスって奴を見せないと!」


 ひゅんひゅんと飛行する瑠奈。星魔術用の魔力を練って指輪に込めなければならない上に、重力の発生点を常に動かさなければ飛行に近い動きは不可能だ。

 つまり、頭の中ではパズルを解きながらリフティングをする的なことをしなければならない訳だが、それが最初から出来るのはセンスと経験の賜物だろう。


「この指輪も凄い……許容量が桁違いだよ」


 気付いたか。それがこの指輪が普通の魔道具と一線を画す特徴だ。重力を操る魔道具なんて沢山あるが、この指輪は魔力の許容量が凄まじく多い。魔力保管用の魔道具としては使えないが、俺が持つ重力操作系の魔道具の中で最大出力を出せるのがこの指輪という訳だ。

 代償として、他の物より扱いが難しいがこの調子なら問題は無いだろう。最も高いハードルである星魔術を扱えなければ扱えないというのも端から超えているしな。


「ありがと、勇……大切にするね」


「あぁ。とは言え、ちょっとやそっとじゃ壊れないからな。マグマや酸の中に突っ込んでも問題ない。ただ、黒き海を使うときはちゃんと同期しないと流石に壊れる」


 銀の指輪を右手の薬指に、黒の指輪を左手の薬指に嵌めた瑠奈。確か、右の薬指は精神の安定で左の薬指は心臓そのものを表す最も重要な指の筈だ。魔術的な意味でそこに嵌めたんだろう。きっと、多分。


「ところで、老日勇よ。何故、吾輩には一つで瑠奈には二つなのだ?」


「……これで良いか?」


 俺は溜息を吐き、こいつが喜びそうな素材として黒竜の鱗をぼとぼとと落とした。さっきのは素材としては使いづらかったからな。こっちなら十分素材になるだろう。


「お、おぉ……おぉぉッ!! 貴様、これは竜の鱗では無いかッ!!」


「そうだ」


 価値としてはさっきの星玉の方が上なんだが、明らかにこっちの方が喜んでるな。やっぱり、ドラゴンとか好きなんだろう。


「しかも、黒いぞ……ッ!」


 星玉も黒かったけどな。


「こんなもの、どこで手に入れたのだッ!?」


「異界だ」


 もとい、異世界だ。この鱗は……流石に覚えて無いな。それでも、一級のハンターを倒せるくらいに強い竜だったのは間違いないだろう。鱗を見るに、魔大陸の暗黒竜だからな。


「むむッ、逆鱗もあるでは無いかッ!! しかも殆ど傷が無い……こんなドラゴンをどうやって無傷で殺したのだッ!?」


「覚えて無いな」


 アステラスはしげしげと鱗一つ一つを観察し、楽しそうに笑う。


「フハハハッ、良かろうッ! 老日勇ッ!! 今ならどんな願いでも叶えてやろうッ!!」


 ランプの魔神か?

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