協力者
睨み付けるような表情で、アステラスは俺を見た。
「……その名、どこで知った?」
「本人から聞いた」
正確には、忍者から聞いたのが先だが、こう答える方が話は早いだろう。
「本人から、だと……?」
「あぁ。天能連って組織は知ってるか?」
こくりとアステラスは頷く。
「そこを裏から支配していたのがニャルラトホテプだったって話だ。偶々そこと敵対することになってた俺は、当然黒幕のニャルラトホテプともかち合った訳だ」
「それは……良く無事だったな」
どうやら、ニャルラトホテプという存在については知っていてもその実態にはそこまで詳しく無いらしいな。
「言っとくが、アレならアンタでも余裕で勝てるぞ。瑠奈でも勝てそうだ」
「ほう?」
「えっ、私でも?」
俺は頷き、話を続けた。
「俺が戦ったのは、ニャルラトホテプの化身だ。アンタらが言ってるような宇宙の果て、別次元に潜む本体の話じゃない」
「ふむ、なるほどな……それなら納得は行く」
「化身……あんまり強さが想像できないかも」
そうだろうな。
「神力は使ってくる上に、魔術の知識もかなりある。だが、本体の素の性能がそこまで高くないというか……アンタらの固有魔術みたいな、一つ抜きん出た武器が無い」
殴り合いでも七里には余裕で負ける程度だろうしな。フィジカルがそこまで高くない割に、魔術も技術こそ高かったが、ある程度の魔術士なら誰もが持ち合わせる切り札のようなものは結局無かった。
「だが、ニャルラトホテプについて調べた限り……化身によって性能は異なるらしい。と言っても、こっちは創作のクトゥルフ神話から得た知識だから、実際のところどうかは分からない」
それで、だ。
「本題だが……アステラス、アンタの力を使ってニャルラトホテプの化身の位置を割り出して欲しい」
「良かろう」
意外にもすんなりと承諾したアステラスに、俺は眉を顰めた。
「随分、簡単に頷くんだな」
「自分でも良く分からんが……吾輩は奴らが、外なる邪神どもが滅ぶのを熱望している。記憶にない恨みや憎しみが、吾輩の魂にこびりついているのだ……不思議なことにな」
記憶にない恨みって、中々聞かないな。
「きっと、吾輩という存在の根幹に関わるのであろうという予感はしている。故に、どこか恐れもあったのだが……良い機会だ」
ニヤリと、アステラスは笑った。
「吾輩があの邪神共を滅ぼしてやる」
「勝手にやってくれるならそれはそれで有り難いが、一応は俺が倒す予定だ」
む、とアステラスは顔を顰めた後、そうかそうかと頷いた。
「ならば、協力という訳だな。今度こそ、貴様の力を確かめるチャンスでもある訳だ」
「まぁ、流石にこの状況でまで隠しはしないが」
兎に角、協力を取り付けられたなら文句はナシだ。
「それに、邪神共って言ってたが俺はニャルラトホテプ以外に手を出す予定は無いぞ」
「貴様にその気が無くとも、向こうが巻き込んで来ないとは限らんぞ」
その可能性は確かに高いかも知れないな。邪神を復活させてるって話もあった以上は。
「そん時はそん時だ」
「つまり、邪魔する者は皆殺しということだな?」
俺は頷き、瑠奈の方を見た。
「聞いての通り、これは危険な話だからな……関わりたくなければもう帰った方が良い」
「ふふ、何言ってるの? 折角、勇と一緒に戦えるチャンスなのに逃げ出す訳無いよ!」
まぁ、そんな気はしていたが……そうか。
「正直、あんまり危険な目に遭って欲しくは無いんだが」
「大丈夫だよ~? 私より強い人なんて世界にどれだけ居るのってくらいだから!」
ここに入る為に瑠奈に連絡するのは避けられなかったが、出来れば巻き込みたくも無かった。だがまぁ、どうせ断ったって付いて来るだろう。
「老日勇よ。我が弟子を舐めるでない。確かに瑠奈はまだ若いが、魔術士としては優秀だ。それは貴様も見たであろう?」
「……そうだな」
実際、黒き海があれば役に立たないということは無いだろう。
「分かった。二人に協力を申請する。報酬は何が良い?」
「ほう、この吾輩に見合う報酬を差し出せるというのか? 奴らを殺すのは吾輩自身の望みでもあるからな、別に報酬など用意する必要も無いぞ」
「一応言っとくけど、私も要らないよ? 私達、幼馴染だからね~!」
アステラスの言葉に、俺は首を振った。
「どっちにも報酬は渡す。変に借りは作りたくないからな。それに、アンタの満足するようなモノを渡せる自信もある」
「フハハッ、吾輩が満足できるような報酬だと……? 面白い!」
報酬とは言っているが、戦力強化も兼ねている。仮に本体とかち合うことになったとして、自衛くらいは出来て貰わないと困るからな。
「あぁ、どんなのが欲しい。素材か? 杖か?」
「つまり、どちらでも吾輩の興味を満たせるような物を持っているということか? ……貴様、やはり異界の向こう側を知っているな?」
俺は首を振って否定し、急かすように睨んだ。
「早く決めてくれ」
「素材だ」
深く考え込んでいた割に、アステラスは即答した。