ほぼ地球神話
クトゥルフ神話か。俺でも聞いたことはあるレベルだ。
「アレは創作ですよね?」
「創作と言えば創作でござるが、現実に存在するのも事実でござるよ」
信仰から生まれた神みたいな話か?
「そもそも、この宇宙には無数の神が居るんでござるよ。基本的に生物の居ない星であれば神が生まれることは少ないらしいでござる。まぁ、信仰によって力を得ている性質上当然でござるが……兎も角、この地球の周辺に太陽系に属しない神というのは殆ど居なかったんでござる」
まぁ、当然と言えば当然だな。
「しかし、信仰など無くとも力を有する神というのは幾つか居るものでござる。その一つが……アザトースという邪神でござる」
「アザトースか」
名前は聞いたことがあるな。
「俗に言う創造神としての力を持つその邪神は、無数の邪神を生み出したらしいでござる。ただ、それは地球とは関係ない別次元で、まだ宇宙すらない場所だったらしいんでござる」
まぁ、そんなのが地球の近くで湧いたら相当大変なことになるだろうな。
「故に、地球とは関わることもなかった筈の邪神だったんでござるが……ある魔術に傾倒した作家が、交信に成功してしまったんでござるよ」
「なるほどな」
最悪の事態になりそうだ。
「とは言え、次元も離れた場所に居る邪神達が地球に来るのは相当難しい話だったんでござるが……その作家は、邪神が襲来出来る土壌を自ら整えてしまったんでござるよ。クトゥルフ神話という作品として、でござる」
「そういうことか」
本来その場所では存在出来ない筈の奴らが、まるで存在するかのように存在を広められ、恐怖や信仰を受けることで存在出来るようになってしまったんだろうな。
「自分から鍵を開けたってことだな」
「そういうことでござる」
何というか、普通に最悪だな。
「それ自体は割と最近……というか、20世紀頃のとかの話だったんでござるが、別次元の存在であるが故に邪神達は時間軸を無視して地球に襲来し……結果、大昔から存在した神性であることになったんでござるよ」
俺が異世界から帰って来たのと同じような話か。次元が違うと時間の流れも大きく変わるからな。次元を渡る際のズレをコントロールして来たのかも知れない。
「……じゃあ、何で無事なんだ?」
「地球という惑星は中々珍しい星でござる。ここまで発展していて、十分な信仰が可能な知性を持つ生命体が溢れかえっている星というのは中々無いんでござる」
続きを促すように忍者を見る。
「つまり、この地球には既に異常なまでの量の神が存在しているんでござるよ。結果、この星を支配しようと現れた邪神達はその神達と戦争になったんでござる」
「中々スケールが大きな話になってきたな」
神同士の戦いか、洒落にならない規模だ。
「結果、量で劣っていた邪神達はほぼ全て封印されるか消滅させられ……創作の神話だけが残ったんでござるよ」
ハッピーエンドかのように聞こえる結末だが、忍者の表情は明るくない。
「……そして、ナイアルラトホテップは封印を免れた数少ない邪神の一柱でござる」
「そういう話か」
つまり、地球の神と本気でやり合っても生き残っている厄介な邪神ってことだな。
「うん、そういう訳で僕らみたいなのがちゃんと処理しないとマズイ存在なんだよ。アレは」
真剣な表情で瓢が言う。ヘラヘラしてなければ割と良い面してるんだが。
「ん~?」
俺の考えを察知したのか、ニヤっと笑って瓢が手を振る。俺は視界から瓢を外した。
「しかし、服部君も良く知ってるね。流石は国直属の忍の長なだけはあるね」
「ハットリ君は止めるでござる。あと、拙者は別にリーダー的なことはやってないでござるよ。上からの命令に従うだけの社畜にござる」
「けど、君がトップなのは間違いないでしょ?」
「……探っているでござるか?」
警戒するように睨む忍者に、瓢は両手を上げた。
「あはは、脅かさないでよ。そう警戒しなくても、君なら僕くらい簡単に倒せちゃうんだからさ」
「陰陽寮が警戒している存在を拙者が軽視する訳にもいかんでござろうよ」
睨み合う二人に、俺は溜息を吐いた。
「そんなことより瓢。アンタの持ってる情報を話せ。キリキリな」
「ん、そうだったね……言っちゃうけど、僕はアイツらが居る場所を知ってるよ」
「なぬ」
そうか。だったら、話が早いな。
「見失わない内に行くか」
「アリでござるな。このメンバーであれば、邪神を相手にしても不覚は無かろう」
「良かった良かった。珍しく乗り気みたいだね」
まぁ、戯典に関しては俺にも責任があるからな。
「じゃあ、早速飛ぶけど……君はどうする?」
「残念ですが、私は身の程を弁えるのが得意なので」
そう言って一歩引いたステラ。実際、俺達だけで十分だろう。ここが襲撃された時に瓢だけで女を対処できたなら、俺達三人で天能連含めて叩き潰せる筈だ。