強くなる方法
これ以上強くなる必要がありそうには見えないが。
「強くなった方法に関しては、何も嘘は吐いてない。努力した内容って意味ではな」
聖剣を使えるからだとか、女神の加護だとかはどうせ再現出来ないからな。言っても無意味だ。
「まぁ、手っ取り早く強くなるなら本当に魔素を集めるだけで良いと思うが。適当に魔物を倒しまくってな」
「……確かに、魔物を倒して強くなったのは実感もありました」
見たところ、花房の魔素はお世辞にも高いとは言えない。黒岬の足元にも及ばない程だ。
「だが、本気で強くなりたいなら……何よりも、技量と経験が必要だな」
「技量と経験、ですか……これでも、結構沢山敵は倒してきたつもりですよ?」
いや、幾ら蟻を踏み潰したところで経験なんて得られない。
「そうじゃない。もっと、死に掛けるくらいの戦いをした方が良い」
「し、死にかけるくらいの戦いですか? 老日さんが死にかけるとかそんな敵が居るんですか?」
死にかけるのには抵抗がありそうな反応だな。まぁ、当たり前と言えば当たり前だが。
「居たと言えば居たが……そういう話じゃない。当然、昔の俺は今の俺より弱かった。普通の兵士にも勝てなかった頃は、毎日死に掛けるどころの騒ぎじゃなかったな。命が幾つあっても足りないくらいだった」
死に掛けるどころの騒ぎじゃないというか、実際数え切れないくらい死んでるんだがな。
「兵士……? でも、そうなんですね。確かに老日さんは私と違って土台がある強さをしてる感じがします」
「まぁ、俺も相当ズルはしてる方だが……大抵の奴らよりは経験を積んで来た自信はある。あと、兵士ってのはアレだ。異界の、スケルトン的な奴だ」
うっかり漏れてたな。同じ境遇の相手だからか、口が滑った。
「アンタは多分、今まで蹂躙しかしてこなかったんだろうが……同じくらい強い奴を探すか、力を制限して戦うとか、そういうので修行した方が良いぞ」
「私と同じくらい強い人……老日さん以外に居るんですかね」
「まぁ、アンタに勝てそうな奴って意味では居るな」
忍者なら多分勝てるだろう。流石にスペックでは負けていると思うが、アイツは油断や甘えを突くのが上手そうだからな……そういえば、忍者の『分身』を模倣したらどうなるんだ? 花房が増えるのか? それは流石にヤバくないか?
いや、アイツの異能で作られた分身は『分身』以外の全てが同じ個体って話だったよな。それが異能以外をコピーした分身を作り出すって能力なら、寧ろ花房には無意味か?
「……気になるな」
「いや、気になるのは私ですよ。誰なんですか? 私に勝てそうな人っていうのは」
花房の問いに、俺は首を振った。
「国家機密だ」
「国家機密!?」
冷静に考えれば、国家機密って言うこと自体が情報漏洩だな。まぁ、良いか。
「ただ、さっきアンタが言ってた世界最強的な奴らにも負ける可能性は余裕であると思うぞ」
俺が戦った奴で言えば……ソロモンには何が何だか分からずに負け、大嶽丸は神力の肉体を突破出来ずに負け、ニオスに関しては殺せる手段があるかは分からないが、何にしても時間遡行による本質的な復活を止めることは出来ないだろう。
「……まじですか」
「まぁ、実際どうなるかは知らんが。俺はアンタが言った奴らを良く知らないからな」
何にしろ、油断しているよりは良いだろう。
「あと、アンタ……痛みを消す異能とか使ってるだろ?」
「無痛化ですね」
やっぱり、使ってたか。
「切った方が良いぞ」
「え」
絶望したような表情になる花房。
「い、いやいや……無痛化なんて切ったら耐えられないですって! 強化系の異能とか、発動するだけで激痛が走る奴とかあるんですからね!?」
「耐えろ。俺のさっきの強化状態も代償系の詰め合わせだ。いつかは耐えられるようになる」
戦闘術式の肆式は肉体や精神に凄まじい負荷をかける、不快極まりない術式だ。だが、その分効果は高い。
「それに、そもそも痛みってのは大事な情報源の一つだ。直感的にヤバいって直ぐ分かるからな。反射で行動しやすくなる」
例えば、痛覚アリで腕を切断されるのと、ナシで切断されるのじゃ再生系の能力を使うまでの反応の速さに差が出る。今でこそ自動で再生するくらいになったが、昔はそういうところも気を遣う必要があった。
「あと、痛みを恐れるのは根本的にビビってるからな。敵に恐れを抱くのは仕方ないが、振り下ろす剣まで震えるのは駄目だ。メンタルを強くする為にも痛みはあった方が良い」
痛みや恐怖を乗り越えた経験は自信になる。格上を相手にする時に万全のパフォーマンスを出す為には、そういう自信も必要だ。
「……確かに、メンタル面には不安があるかも知れません」
「まぁ、まだ成人すらしてないんだろ? その歳で痛みに耐えて敵を殺すメンタルが無いのはしょうがない話ではあるが」
ただ、強くなりたいならここから培って行く必要がある。
「……分かりました。ちょっと、頑張ってみます」
「あぁ、頑張れ」
まだ若いからな。何とかなるだろう。
「……そういえば、ですよ?」
「何だ?」
また花房は目を細めて俺を見た。
「老日さんって何なんですか? 冷静に考えたらやっぱり意味分からないです。こんなに強いのに全然有名じゃないなんておかしいです」
「普通に考えたらそうだな」
話すか? いや、こいつに話すのはリスクがデカいよな。
「……もしかして、老日さんも異世界召喚されてたりしませんか?」
「は?」
バレる要素、あったか?




