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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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花房華凜

 凄まじい速度で動き、俺の眼前まで迫る花房。


「残念だが」


「ッ!?」


 突き出された拳を受け止め、喉元を剣の柄で突いた。


「俺は魔術士じゃない」


「ぐッ」


 剣を振るう。闘気が花房の全身を打ち付け、花房は後ろに倒れた。


「かと言って、剣士でも無い」


 俺より真面目に魔術を使ってる奴や剣を使ってる奴は山ほど居る。


「単純に、俺はどっちも使う」


「な、何ですか、それ……ッ」


 ただ、俺くらい剣と魔術を両立してる奴は向こうでも少なかった。近接戦闘が出来る魔術士や遠距離の敵を殺せる剣士なんてのは五万と居た訳だが。


「『千腕』『透明化』『崩壊』」


「近接は諦めるつもりか?」


 花房から透明な腕が無数に伸び、俺へと迫る。それは背理の城塞(ゼノン・アルチス)を触れた瞬間に崩壊させていく。俺は体には触れられないように飛び退き、更に追いかけて来る腕を斬り裂いた。


「そんな訳ッ、無いでしょうッ!!」


 花房は息を荒くしつつ、何かに集中していることが分かった。


「『怪力』『瞬発力強化』『風の加護』『瞬発力強化』『脚力強化』『鋼体』『装甲』『韋駄天』『感覚強化』『肉体性能向上』『闘志』『闘魂』『重力操作』『血流』『狂化』『狂奔』『血沸肉躍』『獣化』『構造変化』『獅子』『精神統一』『電気信号操作』『運動量変動』『摩擦係数変動』『超人』……」


 戦闘術式による解析が、どんどんと花房の身体能力が上がっていることを知らせている。赤いオーラが溢れ、風が吹き、体の各所に獣のような毛が生えていく。


「『強化』『増幅』『反復』」


「戦闘術式、肆式」


 なるほど、流石に洒落にならないな。


「ふぅ、ふぅぅぅ……覚醒と、思考強化系の異能を合わせても……処理が、限界近い……です」


「だろうな」


 俺の肆式に近い状態に見える。全てが異能による強化で、素の肉体強度は高くないからな。異能の負荷に異能で耐えている、相当奇妙な状態だ。


「『神速』」


 光速に近い速度で迫る花房。しかし、速度がどれだけ速くても問題にはならない。その動きが観測できていれば、それに合わせれば良いだけからな。


「今の俺よりは速いが……」


「『格闘』」


 突然見違えたような動きで殴りかかって来る花房。しかし、どこか機械的だ。ただ技術があるだけで、思考も意志も無い拳。


「ッ、何で当たらないんですかッ! 『解析』ッ!」


「解析したって意味は無い。問題はアンタの中にあるからな」


 矢継ぎ早に繰り出される拳を避け、爆発を巻き起こす蹴りを避け、我武者羅な体当たりを受け流す。


「な、何で……あ、有り得ないってっ! 私はッ、私は世界を一つ救ったのにッ! 魔王だってッ、倒したのにッ!! なのにッ、何でッ!?」


「やっぱりな」


 洗脳は半ば溶けかかっている。さっきの精神系の異能や、思考強化系の異能を使っていたのも影響があったのだろう。脳にこびりついていた洗脳は、最早忘れられかけている。


「『切断』ッ! 『破壊』ッ!!」


 直接発生する巨大な斬撃、突然数百メートル単位で砕け散る地面、何だか懐かしい気分になってくる。


「滅茶苦茶で、何でも有りの戦闘……懐かしさはあるが、流石に感慨に耽っている暇は無いな」


「もうッ、当たってよッ!!」


 単純に、足りていないのは技量と経験だ。それさえあれば、俺も肆式だけじゃ到底勝てなくなる。向こうでの最強格に近い奴らとも良い勝負が出来るだろう。


「ぅうううううッ! 何でッ! 何でッ!?」


 蒼色に光り輝く銀の棒が矢継ぎ早に生み出されては、俺に射出される。それに紛れて剣を持ち、斬り掛かって来る花房だが、逆に花房を間に挟んで盾にすることで棒を避けられる。


「も、もう……こうなったらッ!!」


 花房の目がしっかりと俺を見る。殴って来るでも無く、斬撃を飛ばすでもなく、ただ見ているだけだ。



「――――『模倣』」



 その異能を見た瞬間、俺はそれが花房の中核を為している真の異能であると分かった。


「な、何で……?」


 しかし、その異能は何の効果も及ぼすことは無かった。だがまぁ、当然だ。相手を模倣する魔物や魔術なんてのは沢山あるからな。対策されていない訳が無い。


「もう一回、使ってみたら分かるんじゃないか?」


「ッ、『模倣』ッ!!」


 警戒心よりも対抗心が勝ったのか、花房は再度異能を発動した。


「ぁ、ぁ……ぅ、ぇ……?」


 花房の姿は変わらない。だが、明らかに何かの変化が起きている。


「な、に……これ……わた、し……」


 自ら俺の情報を取り込んだ花房。その情報は、花房自身であるかのように花房に植え付けられる。


「どうだ?」


 模倣された情報は、俺によって取捨選択されたものだ。それは記憶と意思だ。単純に、花房と俺が会った時の記憶。歪められていない正常な記憶。そして、花房が洗脳状態であると確信している俺の意思、思考。それを花房は自分自身であるかのように模倣した。


「え、えぇと……」


 花房は焦ったような、混乱したような表情を浮かべ、やがて真っ直ぐ俺の目を見た。


「誠に、すみませんでしたぁああああああッッ!!!」


「……あぁ」


 何というか、こいつも白雪と同じ気配がするな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 簡単に洗脳されるような無能に対して今後どう対応するのか気になります
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