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天恵

 光が消えた後には、施設も山も残っていなかった。ただそこには更地だけがあり、二人の少女が立っていた。


「ふ、ふぅ……た、耐えたーっ!!」


「『解析』」


 無傷で生き残っている白雪に花房は眉を顰め、異能で解析を試みるが何の情報も探れない。


「不思議ですね……どうやって生き延びたんです?」


「殺意高すぎてビックリしたよっ! 山が丸ごと消えちゃったじゃんっ!?」


 白雪の持つ氷の力は、本質的にはエネルギーを奪うことだ。故に、自分を消し飛ばす筈だったその光も何とかエネルギーとして吸収することが出来た。


「……答える気は無いってことですね」


 花房は浮遊の異能により浮き上がり、その手を白雪に向けた。


「『重力操作』『重圧』『質量増大』」


「んーっ!」


 白雪は口をきゅっと結び、異能に対抗する。無数の魔法陣が浮かび、魔術的効果を発揮する。それらは異能を無効化する訳では無く、単純にかけられた異能と反対の効果を自身にかけているだけだ。何倍にもなった重力は元に戻り、のしかかる圧は軽くなり、増えた質量は減る。


「その結界……これでどうっ!!」


 白雪の凍結を阻むのは花房を覆う結界だ。それならばと放たれたのは炎の波。視界を覆い尽くすような圧倒的な面攻撃に、花房は片手を突き出した。


「『炎操作』」


 花房に襲い掛かっていた炎が、方向を変えて白雪に襲い掛かる。


「えぇ、ズルいっ!」


 言いながら、白雪はその炎を冷気で呑み込み、一瞬で消し去った。


「『超重雷球』」


「や、やばそう……」


 紫電を纏う巨大な黒い球が生み出される。凄まじい重力を持つそれは、周辺の土や石をどんどんと吸い込んでいる。


「大変なことに、なっちゃうけどっ!!」


 対抗するように白雪も巨大な氷の球を空の上に生み出し、ゆっくりと迫る黒い球に向けて落とした。触れ合ったそれらは日食の始まりのように重なり……爆ぜた。


「もうすっごいっ!!」


 黒い爆発は周辺数キロメートルを丸ごと呑み込み、クレーターのような跡を生み出す。白雪は転移で逃れ、空中からその様子を見下ろしていた。


「言っとくけど、私じゃ責任取れないからねっ!?」


「『切断』」


 レンドが持っていた筈の異能を、花房が発動する。白雪の体に線が入り、二つに分かたれた。


「わっ、ちょっ、今私真っ二つだったよね!?」


「『転移』」


 一瞬で修復され、無傷に戻った白雪だが、痛みすらない言い知れぬ感覚に冷や汗を垂らして叫ぶ。それを無視して花房は異能を発動した。


「『破壊』」


「残念っ!!」


 背後から白雪に触れようとする花房。しかし、その手が触れた場所には青い雪の結晶が張り付いていた。


「『解除』ッ!」


「逃がさないよっ!」


 近付き過ぎた花房は指先から凍り付くが、即座に解除することで事なきを得る。そのまま逃れようとする花房を白雪は追いかけながら、花房の背後に巨大な氷の壁を作り出した。


「『転移』」


「そこでしょ!」


 花房の転移先にほぼ同時に転移し、冷気が花房の肌に触れる。


「『霊体化』」


 花房の体が透き通り、冷気の中に消えた。


「なるほどね~っ! でも、それならそれでやりようはあるよっ!!」


 白雪は目に見えない花房の姿を正確に捉えつつ、手の平を合わせた。


「『祈りの火よ、来たれ』」


「ッ!」


 白く光る炎が白雪の手から燃え上がるのを見て、花房は即座に実体化する。


「ふふん、出て来たねっ!」


「『爆炎』『轟炎』『火炎』『炎操作』」


 そのまま近付こうとする白雪。花房から炎が溢れ出し、一瞬にして周囲一帯を焼き尽くす炎になる。


「無駄だよっ!!」


 炎は一瞬で消滅し、代わりに冷気が満ちる。しかし、花房の攻勢は終わらない。


「『電撃』『雷撃』『熱線』『光線』『切断』『燃焼』『錆槍』『爆破』『念力』『烈風』『天候操作』『水球』『嵐』……」


「うわっ、ふふっ! バラエティパックだねっ!! 全部見分けるのは大変だけど、今の私なら余裕だよっ!!」


 炎に氷、水に雷、あらゆる攻撃が白雪に放たれる。しかし、その殆どが近付くまでにエネルギーを奪われて消え、辿り着いたものも青い雪の結晶に防がれ、直接発生するタイプのものも避けられるか当たっても再生によって無意味となった。


「今度はこっちのターンッ、これで結界は攻略っ!!」


 白雪が花房に指を差すと、冷気が迸り、結界に白い雪が付着して溶かしていく。


「どうやって……ッ!」


「これでお終いだよっ!!」


 冷気が迸る。氷の魔法が、花房を氷漬けにしようと空気を凍らせる。


「『覚醒』」


 凍結する寸前。短く告げるように、花房は呟いた。

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