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遭遇

 少年の眼前まで迫る少女。転移は確実に間に合わず、他の手段で対処するしかない。


「『格闘』」


 応戦しようと手を伸ばす少年だが、その腕を掴まれて腹部に拳を叩き込まれる。


「『超激衝』」


 無数の異能を掛け合わせて放たれるのは、凄まじい衝撃。少年は音速を超えて吹き飛び、幾度も壁を跳ね返ってボロボロになった。


「『(テレポーテ)――――」


 体の殆どを消し飛ばされたスライムを見た少年は、一先ず逃げようと転移魔術を発動しようとして……


「『破壊』」


 少年の体に触れた細い手が、その機械の体を粉々に破壊した。


「良し、これで……」


 一息吐いた花房。その背筋を冷気がなぞった。


「ッ!」


 飛び退き、振り返る花房。そこには、白銀のオーラを纏う白い長髪の少女が立っていた。綺麗な蒼の目は、真っ直ぐに花房を捉えている。


「見つけたよ、華凛ちゃん! 詳しい状況は分かんないけど……私が洗脳なんて解いてあげるから、パパッと負けちゃってっ!」


「洗、脳……?」


 花房の思考が急に濁り、首を傾げる。目の前に居る白雪天慧の存在に、自身が倒した無数の敵。この状況への違和感を覚えることも出来ず、花房は手の平を白雪に向けた。


「まぁ、何でもいっかな。敵だし」


 命令が下る。目の前の少女を殺せと。敵を殺せ、と。


「『重雷球』」


「ッ、やっぱ襲ってくるよね~っ!」


 紫電を纏う無数の黒い球が白雪に飛んでいく。それら一つ一つに氷の槍が飛び、空中に真っ黒い爆発を引き起こす。


「貴方……違う、白雪さんか。そんな力があったんですね?」


「まぁね! 華凛ちゃんだって凄いけど、本気を出した私も中々負けてないよっ!」


 白雪が指先を向けると、無数の氷の槍が浮かび、花房に放たれる。しかし、それらは発射された瞬間に砕け散った。直接空中に発生した衝撃によって。


「『螺旋槍』」


 空間を螺旋状に巻き込んで進む透明な槍が放たれ、白雪を呑み込もうとする。しかし、白雪は花房の背後に転移して逃れる。


「凍っちゃえ!」


「『無効』」


 花房は先に異能を発動し、魔法を無効化した。驚く白雪の腕を掴もうとするが、触れようとした部分から腕は白い雪となって崩れ、触れることは叶わない。


「『螺旋槍』」


「こわっ!」


 白雪は転移によって攻撃から逃れ、再び二人の間に距離が空く。


「『重力操作』」


「なっ!?」


 空中に浮いていた白雪の体がぐらりとバランスを崩し、地面に落ちていく。


「『速度上昇』『脚力強化』」


「ッ!」


 一瞬で白雪の前まで到達した花房は、その拳を白雪に叩き付ける。


「上等っ!」


「ッ!?」


 その拳は白雪の胸を貫き、穴を開ける。しかし、それと同時に花房の体も腕から凍り付いていく。


「『解除』ッ!」


 頭以外は凍結していた花房だが、ギリギリで異能の発動が間に合った。氷は砕け、溶けて消える。


「あれ、その異能……何で、洗脳は解除されないんだろ?」


「何の話をしてるのか、分からないです!」


 再び振るわれる拳は、雪の結晶のようなマークの青い陣に受け止められる。そして、花房の洗脳が異能によって解除されないのは、花房にかけられた洗脳が単純な異能だけのものでは無く、本物の洗脳と同じようにじっくりと脳に刻み付けられたものだからだ。

 デバフでも状態異常でも無く、ただ花房の脳が天能連に従うことを選択している状態になっているだけならば、解除の異能は花房を元に戻すことは無い。


「『蒼空棒』」


 表面に蒼い模様が光る美しい銀の棒が花房の手に握られる。白雪は再度花房を凍結させようとするが、残像を残してその場から消え、銀の棒を振るう。


「あぶ――――ッ!」


 ギリギリで棒を回避したように見えた白雪だったが、寸前で棒が伸び、首筋を打ち付けた。


「いッッ!!?」


 全身に蒼い電撃が走り、白雪は痛みに目を見開く。


「『砕脚』」


「ふぎゃッ!」


 そこに茶色いオーラを纏う回し蹴りがクリーンヒットし、白雪は骨をぐちゃぐちゃに砕かれながら吹き飛ばされる。


「や、やばい……!」


 胸に開いた穴は既に修復され、砕けた骨も元通りになっていくが、状況は劣勢だ。焦る白雪の脳内に、声が響いた。


『白雪特別巡査、赤咫尾巡査部長の救出に成功しました』


「ッ!」


 白雪はニヤリと笑みを浮かべ、目の前に迫る花房と目を合わせた。花房は足元から石化し、白雪の目の前に転がる。


「なッ、『解除』!」


「ふふっ、あはっ!」


 しかし、そんなことはどうでも良さそうに白雪は笑っている。冷え切った空気の中で、花房は苛立ったような表情を浮かべる。


「随分、余裕そうですね……何度も死に掛けた癖に」


「あはははっ! 章野君! それはつまり、施設から出たってことで良いんだよね!?』


 念話をそのまま口に出しながら、白雪は楽しそうに言う。


『はい、今はもう山からもかなり離れています。赤咫尾巡査部長の話によれば、中には既に誰も居ないようです。人質等は疎か、構成員さえも』


「ふふ」


「何を笑ってるんです? 『爆礫』」


 石の礫が無数に浮かび上がり、白雪に飛来する。


「ふふっ、だって……」


 それらは白雪やその周辺に着弾した瞬間、大きく爆発する。しかし、爆煙の後からは無傷の白雪が現れた。その周囲に浮かんでいた無数の青い雪の結晶も直ぐに消える。



「――――もう、何にも気を遣わなくて良いってことだよっ!!」



 白雪の周囲から、全てが凍結していく。加速度的に凍結は広がっていき、施設全体を凍結し、そして山を丸ごと凍らせた。


「ふふんっ、どうっ!? 凄くないっ!!?」


「……奇遇ですね」


 異能による結界で自身を覆った花房が暗い笑みを浮かべ、白雪を見る。



「――――私も、丁度許可が出たところです」



 花房が片手を上げる。その手の平の上に、小さな光の球が形成される。


「『滅光球』」


「や、やっばッ!?」


 良く見ると渦を巻いているそれは、突然逆向きに回転を始め……秘められた全てのエネルギーを発散した。

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