異能か、それとも。
青い炎が、全てを溶かしながらスライムへと迫る。図体の大きなスライムはそれを回避することも出来ず、当然直撃した。
「どう、だァ!?」
焼け爛れ、煤けた骨が見える指でスライムを指すブレイズ。炎が消えたそこから現れたのは、無傷のスライムだった。
「な、な……嘘、だ……」
呆然と膝を突くブレイズ。溶け落ちた金属製の施設がスライムと混じり合い、奇妙なマーブル模様を見せている。
「や、やべェッ」
「『電磁』」
隙だらけのブレイズに向かって飛び掛かって来たスライム。その瞬間に、レクトの異能が発動してブレイズが後方に引き寄せられる。
「ッ、助かったぜェ……」
「逃げよう。私達じゃ勝てない」
悔しそうな顔で頷き、スライムに背を向けるブレイズ。二人はそのまま逃げ出そうとして……
「『魔力の沸騰』」
「ぐぼッ、が、ハ……?」
ブレイズの体が溶けて爛れ、死体となって地面に倒れた。
「ひゃッ!? な、何で!?」
悲鳴を上げるレクト。しかし、現れた敵の存在に気付いて再び戦闘態勢を整えた。
「『熱線』」
「『電磁』」
バリアが展開され、無数に枝分かれる熱線を跳ね返す。
「『貫魔旋』」
魔力によって螺旋を描くドリルのようなものが生み出され、超高速で放たれる。それは電磁バリアを貫き、恐怖の表情を浮かべたレクトを貫いた。
「敵性体、排除……」
スライムと合流した少年型の機械は、次の獲物を探して髪のアンテナを巡らせ……
「ッ」
「『転移』」
現れた白髪の男に手を向けるが、その男はスライムに触れて転移の異能によって飛ばし、その直後に自身も転移によって消えた。
「……新規敵性体、ロスト」
顔の無い少年は早足で歩き始めた。
♢
天能連の施設内をこっそりと練り歩いているのは白雪と章野だ。
『いつの間にこんな魔術使えるようになったんですか?』
『ふふふ、最近覚えたの。お手本があったら大体真似できるからね!』
二人の姿は透明になり、声も念話のようになっている。
『あ、目の前から人が来たよ!』
『気絶させますか?』
『んー、いや……』
目の前から歩いて来る白衣の男を、白雪が怪訝そうな目で見る。
「侵入者ですか」
男は冷たい目で二人を見下ろし、ポケットに手を入れた。
『バレましたね……』
『んー、目が合ってる筈なのに記憶も思考も読み取れないよ』
次の瞬間、白衣の男の前にオレンジ色の髪の男が現れた。『固定』の異能を持つフィックスだ。転移能力によって飛ばされて来たようだ。
「それで、どこに居るんだ? 俺には見えすらしないぞ」
「見えるようにしてあげましょう」
白衣の男がフィックスの頭に手を当てると、ぼんやりと敵の位置が理解できた。
「あぁ、そこか」
フィックスは懐から拳銃を取り出し、撃ち放った。
『わわッ!?」
白雪の透明化が解除され、二人の姿が露わになる。銃弾は空中で凍り付き、勢いを失って地面に落ちた。
「氷……地面に落ちたのは、エネルギーを奪われたってところか?」
フィックスは冷静に考察し、再度銃口を向けた。
「何にしろ、その能力……俺の相棒を凍らせた奴だな? 随分若いが、警察だったか」
点が繋がり、フィックスは目の前の警官服を纏った少女がこの施設の七割以上を凍らせてしまった犯人であると気付く。
「取り敢えず、ここは任せますよ」
「あぁ、お前は戦えねぇからな。だが、サイコ。帰る前に俺の頭の中を読んでおけ」
フィックスはそれだけ伝えると、躊躇なく引き金を引いた。
「もうッ、危ないなぁ……それに、仲間を呼ぶ気でしょ?」
白雪が手を向けると、一瞬にして廊下が凍り付いていく。しかし、フィックスの周囲に影響は無かった。
「ふぅん、固定の異能……面白いね!」
「面白がっている場合か? サイコが仲間を呼んでいる。お前はどんどん不利になるだけだ。俺がこうして守勢に入っているだけでな?」
白雪はチッチッと舌を鳴らし、続けて指を鳴らした。
「ッ、何だ……これ……ッ!」
フィックスの体がふらふらと揺れ始める。
「どう? お酒に酔ってるみたいでしょ? 発動型の異能って、集中を欠いたら維持出来ないんだよね? だったら、不味いんじゃない!? ふふふっ!」
「クッ、鬱陶しい……ガキ、が……」
そうして白雪を睨みつけた瞬間、閃光が迸りフィックスの網膜を焼いた。
「がッ、ァ!?」
ほぼ同時に爆音が響き、鼓膜が潰れた。何が何だか分からないまま自分が地面に転がったことに気付き、そして異能の維持が出来ていないと気付いた瞬間、フィックスは凍り付いた。
「一丁上がり! 幹部レベルでも私なら楽勝ー!」
「調子に乗るにはまだ早いですよ。どんな異能者が居るか分からないんですから、不意打ちの危険もッ!」
章野は白雪を前に引っ張りながら振り返った。
「あっぶないですね……ほら、言ってたら来ましたよ」
「流石、章野君! じゃあ、後は任せちゃって!」
白雪も振り返り、宙に浮くその少女を見た。黒と白の髪が入り乱れた、背の小さい少女だ。
「あれ、子供?」
「ッ、僕を子供扱いするなッ!!」
少女が怒りの表情を剥き出しにしながら指先を向けると、そこから透明な波のようなものが伝わっていき、白雪に届きそうになり……ギリギリで出現した氷壁を木っ端微塵に破壊した。




