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膂力

 赤い肌をしたオーガのような化け物。金色の血管が身体中を巡り、同じ黄金色に輝いた目がぎょろりと周囲を見回している。


「よぉおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」


 オーガの背後、轟音と共に天井に穴が開き、そこから一人の男が落ちてきた。


「俺はパワーッ、異能は『超人』ッ!! 能力は圧倒的パワーッ!!」


「グォォ……?」


 何だこいつ、とオーガが振り返る。そこに居たのは白いTシャツと長ズボンのぼさついた黒髪の男。歳は若く、二十を過ぎたくらいだろう。


「お前からも中々パワーを感じるが……俺には敵わないだろうなッ!!」


 パワーを名乗る男は満面の笑みを浮かべ、地面に拳を叩き付ける。


「グォオ……ッ!」


 それだけでアジト全体が揺れ、オーガの足元まで地面に亀裂が走る。オーガは飛び退き、表面が滑らかな黒い棍棒を構えた。


「グォオオオオオオオオオオッッ!!!」


「向かってくるかッ、この俺にッ!!!」


 オーガは男に向かって飛び掛かり、その棍棒を振り下ろす。


「ッ!」

「ッ!」


 振り下ろされる棍棒と突き出される拳。それらがぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃が溢れ、ピシリと金属製の壁や地面に罅が入った。


「互角と言ったところか……ッ! 正に好敵手ッ、俺の相手に相応しいッ!!」


「グォオオオオオオオッ!!」


 今度は男の方から先に突き出される拳、オーガはそれを片手で掴んで後ろ側に受け流しつつ、棍棒を男の顔面に叩き付ける。


「ぐッ!? 中々……ッ!」


「グォオオオオオオオオオオッッ!!!」


 反撃しようとしたところを蹴り飛ばされ、距離を取られる男。その額からはタラリと血が垂れている。


「良いッ、面白いッ!! 怪物とは言えここまでのフィジカルがある相手と出会えるとは僥倖だッ!!!」


 男は地面を蹴り、壁を蹴り、幾度もの跳躍によってオーガを翻弄しながら背後に回り、オーガを蹴り飛ばす。


「グォオオッ!?」


「ぉおおおおらぁああああああああッ!!!」


 地面に倒れそうになったオーガ、その背に渾身の踵落としが決まる。


「グッ、ォオオ……」


「ハハハッ、流石にこの俺には勝てなかったようだなッ!」


 オーガの背、その中心に開いた風穴。サッカーボールくらいは通りそうな程に大きいが、オーガの凄まじい生命力はまだ終わりを許さない。


「しかし、仕方のないことだッ! この俺に天より与えられた力ッ、天賦の才ッ、正に超人足る俺を超えることは如何に人外と言えど……ん?」


「グォオオオオオオオオオ……ッッ!!!」


 沸き上がる蒸気と共に、オーガの体に開いた穴が塞がり、オーガは再び立ち上がる。


「なるほど……次は頭を潰す必要がありそうだな?」


 この光景には流石の超人も気圧され、一歩後ろに下がってしまう。


「グォオオオオオオオオオッッ!!!」


 だが、それだけでは終わらなかった。オーガの全身を通る金色の血管。それらが光を放ち、頭から生えた二本の角が赤く輝き、全身の筋肉がより一層盛り上がる。


「な、何だ……?」


 さっきまで互角だった相手の、明らかな強化。パワーは焦り、更に一歩後退る。


「まさか逃げるつもりかよ? パワー」


「ッ、ブルート!」


 パワーの後ろからやって来たのは、筋骨隆々の男。西洋人のような見た目だが、流暢な日本語を話している。


「オレが援護してやる。だから、テメェもまだ戦えよ」


「ハハハハッ、分かったッ! この俺に任せろッ、大船に乗ったつもりでなッ!!!」


 同じ黒い仮面の一員であるブルートの加勢によって気力を取り戻したパワーは、再び笑みを浮かべ、恐ろしい怪物に向き合った。


「行くぞぉおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」


「グォオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」


「『暴獣』」


 乱暴に振るわれた棍棒をすんでのところで屈んで避けるパワー、空振った棍棒は押し出した空気だけで壁を破壊する。その間に、後方で無数の怪物が生み出されていた。


「へへ、食って来やがれ。あの旨そうな方だ」


 牙に塗れた巨大な口だけの頭を持つ怪物、大型犬程度から熊に近い大きさのものまでサイズにはバラつきがあるが、形は全て同じで、大きな頭に太い手足を持つ筋肉剥き出しの赤い獣だ。


「「「ギシャアアアッ!!」」」


「グォオオオオオオオオオッッ!!」


 大型犬程の小さい暴獣達が俊敏さを活かしてオーガに飛び掛かるが、棍棒の一振りで一蹴され、壁や地面に叩き付けられて血だまりに変わる。


「圧倒的ッ、パワァアアアアアッッ!!!」


「グォオオオオオオオオオッッ!!!!」


 突き出された拳を片手で受け止めるオーガ、そのままパワーをブルートに向けて投げ飛ばし、背後から忍び寄っていた暴獣を叩き潰す。


「ぐッ、いってえな……」


「お、俺の拳を片手で……」


 立ち上がる二人。その隙をカバーしようと残りの暴獣達がオーガに向けて飛び掛かるが、全身に食いつかれながらも無視してオーガは二人に飛び掛かる。


「や、やべ――――」


「――――グォオオオオオオオオオッッ!!!」


 ぐちゃり、ブルートが一撃で潰される。パワーは恐怖の表情を浮かべながらも、拳を握り締める。


「ぁ、ァアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


「グォオオオオオオオ……」


 突き出された拳を握り、オーガは唸る。


「ぎゃあああああああああああああッッ!!?」


「グォオオオオオオオオオッッ!!!」


 そのままパワーの拳を握り潰したオーガは、へたり込んだパワーに棍棒を振り下ろした。

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