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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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肉の龍、銀の鎌。

 空を舞う龍。その外見は醜悪と言う他ないグロテスクなもので、皮膚は無く肉が剥き出しになっている。また、その肉の色や形も所々違い、更に不気味さを際立たせている。そして、その露出した肉からはちらほらと金属のような物が飛び出ているのが見える。


「グゥゥゥ……ッ!」


 肉の龍。漸く許可が下りたそれは、早速口を大きく裂き開いて空中から天能連のアジトを覆う山を見下ろした。


「ギャァオオオオオオオオオオッッ!!!!!」


 節々から見える金属が強く青色の光を放ち、龍の体内も薄っすらと青く光る。それから直ぐに、開かれた大口から巨大な青い光弾が放たれた。


 それがアジトを隠す山に触れた瞬間、耳を劈くような高音が響き、青い光が爆発した。山は大きく抉れ、山頂は丸ごと吹き飛び、中のアジトは一撃で半分以上が消し飛ばされた。


「グゥゥゥ……ッ!」


 そして、龍は二度目のチャージを開始した。空を縦横無尽に舞いながら大きく息を吸い込んでいるように見えるそれは、魔力をかき集めている動作だ。それが終われば、もう一度あの威力の攻撃を放てるようになる。


「『重雷球』」


 何処からともなく、紫の雷を纏う黒い球体が無数に放たれた。一つ一つはハンドボール程度のサイズだが、凄まじいエネルギーを秘めたそれらは、宙を舞う龍を追いかけるように飛ぶ。


「『念力』」


 肉の龍が、抑え付けられたように姿を止める。必死に藻掻く龍の全身に、黒い雷球が直撃した。


「ギャォオオオオオオオオッッ!!?」


 黒い雷球は直撃の瞬間に弾け、広がり、着弾位置から直径五メートル程を空間ごと黒く塗り潰し、消滅させてしまう。全身にそれを食らった龍は虫食い状態となり、体の七割程度を失い、力なく宙を泳いで逃げようとする。


「『螺旋槍』」


 見えない槍が空間を螺旋状に巻き込み、歪めながら龍に向かって行き、直撃する。それは龍の体を一撃でぐちゃぐちゃに歪めながら螺旋の中心に纏め、今度こそ完全に消し去った。


『次の命令は何ですか。ディセーブル様』


『施設に戻って手当たり次第に怪物を殺していけ』


 忠実に命令に従う天能連の配下と化した花房華凛は、転移の異能によってその場から姿を消した。




 ♢




 不可視のカマキリが、次々に命を刈り取っていく。容赦なく、躊躇なく。それに魂は無く、それに善悪の判断も無い。それにとって殺しは捕食ですらなく、ただの与えられたプログラムに過ぎない。

 正に機械的生命体。それが老日によって作られたフレッシュゴーレムの怪物の一体だった。


「見つけたぞ」


 中年の男が、カマキリの前に立つ。男の足元が煙り、その黒煙の中から更に二人の男女が現れる。一人は灰色の髪の男、一人は金色の長髪の女。


「俺には見えない」


「大丈夫、私に任せなさい」


 金髪の女が手を翳すと、透明化していたカマキリの姿が露わになる。それに気付いたカマキリは体を小さくして気配を隠していたのを止めて立ち上がり、その銀色の鎌を構えた。


「あぁ、見えた」


 灰色の男がその手をカマキリに向ける。


「キィ」


「『切断』」


 空間を斬り裂く音が響く。しかし、危機を察知したカマキリはその場から飛び退き、壁に張り付いている。


「『切断』」


「キィ」


 再び避けられる切断。そして飛び掛かって来るカマキリに、中年の男は煙で自分達を全員呑み込んだ。


「危なかったな」


「心配性ね、私の『幻惑』でズラしてあげるから大丈夫なのに」


 女の言葉に、中年の男は黒い煙の溜息を吐く。


「魔物の狩りなんざ、心配性な方が正解に決まってる」


「来るぞ」


「ふふ、見てなさい。私が遊んであげるから」


 金髪の女が一歩前に出る。それから一秒も経たない間にカマキリの鎌が振り下ろされ……あっさりと女の首が宙を舞った。


「ッ、死んだ!?」


「スモーク、来るぞ」


 黒煙に自分達を匿う男。その様子をカマキリは紫色の美しい結晶眼で見ていた。


「なッ!?」


 広がる黒煙。カマキリから少し離れた場所の煙から出た瞬間、眼前にカマキリが迫り、銀色の鎌が振り下ろされた。


「ぐッ、クソ……腕を持ってかれた」


 頭を狙った攻撃に、何とか頭部だけ煙に変えるのが間に合った男だが、それを見て軌道を変えた鎌は男の右腕を斬り落とした。


「速い上に、見えていたか……? 『切断』」


 発生する斬撃。しかし、カマキリの後ろ脚に走る赤いラインが光ると同時にカマキリはその場から飛び退いた。


(攻撃を読まれている……あの目か)


 煙の中で、灰色の髪の男は……レンドは考える。カマキリの持つアメジストのような紫色の結晶眼は、高速の世界の中で全ての動きを捉える。それは幻も見破り、相手の思考すらも予測する。


(今生きているのが奇跡のような物だな)


 音速すら優に超えるその速度、中年の男……スモークの煙に隠す能力が無ければとっくに死んでいただろう。


(いや、本当に奇跡か……? あの速度、やろうと思えばいつでも俺達を殺せた筈だ。だが、それが出来ていないということは、だ)


 レンドは、カマキリの後ろ脚に走る赤いラインに気付いた。


(瞬発力だけ、か? 常にスピードを出し続けるのは無理なのかも知れない)


 煙の中、レンドはスモークに語りかける。


「スモーク、恐らくだがアイツは連続で速度を出すことは出来ない」


「……そういうことか」


 思い至ったスモークは、煙の中で頷く。


「だから、囮になってくれ。お前はカマキリの攻撃を引き寄せて、煙になって避ける。その瞬間の隙を俺が切断で殺す」


「……………………分かった」


 苦渋の決断を下したスモークは恐怖を噛み殺しながら、完全に煙の中の自分達を見ているカマキリを睨みつけた。


「行くぞ」


「いつでも良い」


 スモークが煙の中から飛び出す。その瞬間に斬りかかって来るカマキリに、スモークは体を煙に変えようとする。


「がはッ!?」


 余りにも速すぎた斬撃に、スモークは黒煙に変わる間もなく切り裂かれた。カマキリも学習していたのだ。煙から出て来るその瞬間を狙えば、煙化するのも間に合わない。


「『切断』」


「キィ」


 しかし、スモークが死んでも作戦に支障はない。レンドは冷静にカマキリを狙い、異能を発動した。速度を出した直後で避けられないそれに、カマキリはその場から動かず右腕の鎌を振るった。


「ぐはッ!?」


 カマキリが真っ二つになる瞬間、凄まじい爆音が響き、斬撃の形をした衝撃波が放たれる。それはレンドの左腕を斬り落とし、体に無数の切り傷を生んだ。


「痛い、な……あぁ……損害は、甚大……黒い仮面が……二人、死んだ」


 レンドは壁にもたれて座り込み、転がる三つの死体を呆然と眺めた。

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