作られた怪物達
怪物を指揮していたプローデが死んだ瞬間、怪物達は一斉にレンドへと襲い掛かった。
「ッ、速いな……!」
飛び掛かって来た猿のひょろ長い爪がレンドの肌に触れる瞬間、猿は爪ごとぐちゃぐちゃに切断された。続けて、レンドに近付こうとしていた全ての怪物の身体中に深い斬撃痕が刻まれる。
「回収しろッ!」
レンドの姿が忽然と消える。取り残された怪物達は、混乱した様子も無くアジトの奥へと進み始めた。
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今回俺が作ったのはフレッシュゴーレムと呼ばれるような代物だ。死体を使って作るものなので、死霊術だと思われがちだが、実際は錬金術の一部だ。飽くまで魔道具や武器を作る際と同じただの素材としてしか使わない。
死霊術と最も違う点は魂を使わない点だ。死霊術も最下級の物は魂を籠めないただの人形だが、フレッシュゴーレムは基本的に全てが魂を籠めることはなく運用される。もし魂を使うなら、それはステラのようなホムンクルスになる。
「マスター、こんな紛い物よりも私に任せておけば良かったかと思いますが」
「失礼だな。一応、これでも丹精込めて作ったんだぞ」
フレッシュゴーレムは確かに魂の無い紛い物だ。だが、利点はある。精神作用系の魔術は全て効かないし、魂への攻撃も当然効かない。支配権の強奪も、単純に俺よりも上の使い手で無ければ不可能で、命令に背くことも無い。つまり、自由度や性能が低い代わりに隙が少ない。
「主様、私ならこの怪物に紛れて襲撃することも可能でしたよ?」
「そうかも知れんが、態々リスクを冒す必要も無いだろ」
メイアなら確かに見た目を化け物のように変えて紛れることも出来るが、やる意味も無い。
「カァ、オレも影なら送れるぜ?」
「お前ら、一回静かに見てろ。出番があるとしても、俺の作った奴らが負けてからだ」
「でも、既に何体か瞬殺されましたよ?」
ステラの言葉に、俺は首を振る。
「アイツらは残りの素材で作ったあり合わせだ。五体だけ強い奴を作ってある。そいつらが負けるまでは、待機だ」
「へぇ、どんな奴なんだ?」
「それぞれスピード特化、パワー特化、耐久特化、魔術特化、後は……破壊特化、って感じか?」
まぁ、順番に見ていくか。
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それは、二足歩行の巨大なカマキリだった。鎌には異常なまでに鋭い銀色の刃が輝き、筋肉質な後ろ足には幾つも赤いラインが走っている。
「キィ」
単独で行動しているカマキリ。その姿は背景と同化して透明な状態となっており、怪物達の中でも最も深部へと到達している。
「ここら辺、ここら辺に居るらしいぜ」
「おい、既に何人もやられてるんだからな? 慎重に――――」
バタリと男は地面に倒れ、その後に首がごろりと転がった。
「はッ、な、ハァ!? どっから――――」
続けて、もう一人の男も首が飛ぶ。分かったのは、直前で何かが振るわれるような鋭い音がしたことだけだ。
「いやー、悪いな二人共! 囮に使っちゃったけど、仇は取ってやるからな!」
そこに、ぼさついた茶髪の中年男が現れる。男は黒い仮面の一人、『気風』のエウィンだ。
「動きは速いが、近付かれなければ問題無しってワケだ」
男は見えない筈のカマキリを視界の中心に捉えつつ、異能によって自身を覆う空気の障壁を作り出す。それからカマキリへと指を向け、男はニヤリと笑った。
「鎌鼬」
凄まじい勢いで風が舞う。荒れ狂う風はアジトの廊下に一筋の傷を付けながらカマキリに迫り……
「キィ」
次の瞬間、男を覆っていた空気の壁を斬り裂きながらカマキリは男の眼前まで迫った。
「な、なッ!?」
慌てながらも風を全身から飛ばし、カマキリを弾き飛ばそうとする男。しかし、カマキリはその風圧を斬り裂き、紫色の美しい結晶のような目で男を見た。
「い、いやだ――――」
ぐちゃり、真っ二つに分かれた胴体が地面に倒れた。
♢
赤い肌をしたオーガのような化け物、はち切れんばかりの筋肉には金色の血管が通っている。その手には滑らかな表面の黒い棍棒が握られており、その内側には魔術印が無数に刻まれている。
また、頭からは角が生え、背中には拡張されたように筋肉が張り付いている。
「グォオオオオ……ッ!!」
黄金色の目がぎょろりと獲物を探す。壁を越えて物を見ることが出来るその目は、隠れた獲物を見つけて邪魔な壁ごと叩き潰すのに役立つのだ。
「グォオオオオオオオッッ!!!」
獲物が見つかった。歓喜の声を上げながら、オーガは金属製の壁に棍棒を叩き付ける。たった一撃で壁は壊れ、そのまま棍棒は壁際に居た構成員の一人を叩き潰した。
「ぎゃ、ぎゃあああああああッ!? ば、バレたッ!!」
「ら、ラン……クソッ、逃げるぞ!」
その部屋には他にも五人の構成員が隠れていた。当然、更に襲い掛かってこようとするオーガを目の前に背を向け、逃げ出そうとする二人。
「グォオオオオオオオッ!!」
「や、やばッ、速――――ッ」
背を向けた二人から、一瞬にして叩き潰された。残りの三人は顔を見合わせた後、冷や汗を垂らしながらもオーガに向かい合う。
「く、喰らえッ! 『出血』ッ!」
「『風撃』ィィイイッ!!」
「『鉄鋼弾』」
オーガの体から血が溢れる。しかし、一切動きが鈍ることは無くオーガは三人に飛び込み、風の塊を受けても怯まず、肩に弾丸を受けながら棍棒を振り下ろす。
「ぐぼッ」
「がぐォ」
「ぎゃぁああああああッ!?」
二人は一撃で叩き潰され、一人は何とか回避出来たが、尻もちを着いてしまう。
「て、『鉄鋼弾』ッ!」
オーガの腹部に鉛色の弾丸がめり込む。ジワリと血が溢れるが、オーガは動じることなく歩みを進め、無慈悲にも棍棒を振り下ろした。