異能力
回収されたかな。さっきの人達がここに来たのも転移能力で来たっぽいし、同じ能力で回収されたんだと思う。でも、誰も居ないなら取り敢えずやることは一つだ。
『部屋を破壊しよう』
「分かってる」
私が壁に触れて異能を発動するも……壊れない。
『華凛、解析しよう』
「『解析』」
壁に手を触れたまま『解析』の異能を発動すると、壁やこの部屋の情報が頭の中に流れ込んで来る。私は『思考加速』を併用し、その情報を噛み砕く。
「固定の異能で壊れなくなった部屋……それに、転移が使えないのは魔術の影響みたい」
この部屋にかけられている魔術で、ここでは予め許可された者しか転移出来ないらしい。つまり、この部屋自体が罠だったってことだ。
「え……もしかして、詰んだ?」
『打開できる異能は……透過だ』
転移系は使用不能、壁の破壊も不可能。でも、確かに透過なら擦り抜けられるかも
「『透過』」
壁に近付き、異能を発動しながら手を伸ばす。すると、その向こう側から手を握られた。
「ッ!?」
即座に透視によって向こう側を見ると、オレンジ色の髪をした男が勝利を確信したような笑みを浮かべていた。
「残念、『固定』完了だ」
固定ッ!? この部屋にかけられている異能と同じ、対象の位置や形状を固定する能力……体が、動かない。それに、段々と頭も働かなくなって……
「『解除』ッ!!」
自分にかかってるデバフを全部纏めて解除する異能。この部屋の転移妨害みたいに継続的に発動してるものは解除出来ないけど、この固定なら解除出来る!
「『麻痺』」
そして掴まれた手を通じて相手の体や思考を麻痺させ、そのまま外にッ!?
「あはは、ビビっちゃった!?」
白と黒の髪が入り乱れる女の子。彼女が壁の向こうから私の手に触れようとした瞬間、全身に悪寒が走り、危機察知が全力で警鐘を鳴らした。
「あっぶない……今、触られたら死んでたかも」
慌てて部屋の中に手を引っ込めた私だが、このままだと結局脱出は出来ない。でも、多分私が部屋の中に居るのは監視されてて、外に出ようとしたらその場所に異能者が転移してきて妨害される……いや、これならどうにかなる。全然、詰んでない。
「『身体強化』『脚力強化』『瞬発力強化』『速度上昇』『電気信号操作』『高速』『疾風』『韋駄天』『跳躍』『発条』『反発』『運動量変動』……」
私のやることは、単純だ。相手が反応出来ない速度で、壁から抜け出す。
『そのやり方より、地面を擦り抜けて行った方が良いんじゃない?』
「下には罠があるかも知れないし、何より……こっちの方が、気持ち良い!」
私は何千倍にも跳ね上がった身体能力で部屋の中を縦横無尽に飛び回り、そして透過によって部屋から脱出した。
「良し、成功! 後は……」
危機察知が発動し、警鐘を鳴らす。私は迷うことなく帰還を発動……出来ない!?
「な、何で? それに、強化も途切れてる……?」
異能が、何も発動できない!? 何で!?
「し、シンカー!」
『アイツだ』
シンカーが言う。そこには、黒いスーツの男が立っていた。
「……誰?」
「私はディセーブル。この天能連のリーダーだ」
私の異能、こいつに消されてる……? 条件は何? 触れられてはいない、だったら……視界?
「シンカー、アイツを止めて!」
『了解!』
宙を舞うスマホが変形し、蝶のようになって男に飛んでいく。その隙に私は踵を返し、視界の外へと逃れようとする。
「無駄だ」
目の前に、スーツの男が現れた。
「ッ、そんな」
「いや、凄まじいな……これだけ異能があれば、世界でも支配出来そうなくらいだ」
男の周囲に無数の球が浮かぶ。それは炎、それは水、それは雷……私はそれらを一目見て、理解した。
「私の異能、消されたんじゃなくて……奪われた?」
「その通りだ。とはいえ、対象を視界から数秒でも離せば元の状態に戻ってしまう」
だったら……いや、だとしてもダメだ。今の私じゃ、もうどうしようも出来ない……本当に、詰みの状態だ。
『喰らえッ!』
蝶のような形になったシンカーが男の背後から飛び掛かり、その頭に近付いたところで爆発する。その小さな体からは考えられないような熱量が溢れ、凄まじい熱気と煙に私は咳き込む。
「この障壁の異能も便利だな。あぁ、素晴らしいな」
「ぐッ、ごほッ、ごほッ……くッ、何で……」
こんなことになるなら、先に詳しく調べとけば良かった。シンカーは正しかったし、老日って人も正しかったんだ……でも、もう全部遅い。
「あぁ、サイコ。やっと起きたか。こいつを洗脳しろ」
「すみません、ディセーブル様。霧で眠らされていました。直ぐに取り掛かります」
洗脳、私には効かない……いや、異能を奪われてるこの状態だったら洗脳されちゃうかも。
「あぁ、霧か……これだな」
桜色の霧が溢れ、私の体に入り込んだ。