天能連へ
異界の魔物を倒したら強くなるっていうのは本当だった。一日中狩り続けてたら、身体能力が元の三倍くらいになった気がする。
「見て、シンカー! 異能無しでこれだよ?」
『もうさっきから見てるよ。分かったから、後は情報収集に徹しよう』
「それなんだけど……私、とっておきの作戦があるんだ」
『まさか、直接乗り込むなんて言い出さないよね?』
流石に私だってそこまでの無謀は冒さない。でも、近くはある。
「敵の拠点の近くを張って、通りがかった奴を攫う! それで更に情報を集める!」
不眠の異能によって私は眠らないことが出来る。24時間年中無休で働けるってことだ。
『不安しか無いね……拠点に近付く時点でリスクを冒してるってことに気付いた方が良いよ。先ずは、貰った拠点周りの情報を僕が調査しておくから、近付くのはその後だ』
「シンカー、私の信用無さ過ぎだよ……良し、今回は私の実力を見せつける為にも行くよ!」
『はぁ? ダメだって言って――――』
私は宙を舞うスマートフォンを掴み取り、電源を切った。
「レッツゴー!」
私ならやれる。世界を一つ救ってきた私に、犯罪組織の一つや二つ潰せない訳がないよね。
♦……side:赤咫尾
天能連の活動範囲から拠点のありそうな位置も大分絞れて来たっすね。これで、今回の事件も何とか片付きそうっす。
「り、リーダー!」
「どうしたっすか? 珍しく冷や汗だらだらっすけど」
俺のデスクまで駆けこんで来た白雪は、手招きして人の居ない場所まで俺を呼び寄せた。
「華凛ちゃんが天能連の本拠地に行く気かもっ!」
「は? どういうことっすか? そもそも、天能連の拠点ってどこにあるかすら分かってないんすけど……」
白雪はスマホを突き出して俺に見せた。
「ここ! さっきの話も、老日君から聞いたんだけど、拠点の位置とそこの行き方も教えてもらって……!」
「先ずは落ち着くっす……なんて老日さんから聞いたのか、記憶している通りに話すっす」
白雪は完全記憶能力があるっすからね。大事なことなら一言一句違わず覚えてる筈っす。
「えぇと……すまん、俺のミスもあるんだが、高校生くらいの女が一人天能連の本拠地に突っ込むかも知れん。名前か? 花房華凛だ。あぁ、そうだ。異世界から帰って来たっていう……知ってるなら話が早いな。そいつが自分の力を過信して単騎突撃する可能性がある。一応本拠地の場所もメールで送っておく。もし見つけられたら行かないように説得しといてくれ……って感じです」
「こっちが保護してるってのは知らなかったっぽいすね……まぁでも、住所とかもこっちが管理してるから何とかなるっすよ。取り敢えず、電話してみるっす」
「電話……」
白雪はスマホで花房に電話をかける。
『貴方のお掛けになった電話は現在電波の届かない場所に居るか、電源が入って……』
「駄目っすね」
しかし、電話は呼び出し音もならずに留守電に入った。電源が切れてるか山奥にでも入ってるかっすけど……後者ならやばいっすね。既に特攻してる可能性があるっす。
「俺は部屋の管理人に連絡してみるっす。白雪は能力も好きに使って良いから取り敢えず花房を探して……全部駄目なら、拠点近くを調査するしかないっすね」
「そ、それと、言い忘れてたんだけど……華凛ちゃん、私に精神系の異能を使ってきたよ。無理やり情報を引き出そうとしてた!」
「……より可能性が高くなったっすね。章野にも話して手伝わせるっす」
取り敢えずやれるだけのことをやって……正午までに見つからなければ、相当怪しいっすね。
「分かった! 行ってくる!」
「頼むっすよ」
マジで、頼むっす。天能連の拠点に接近するとか許可取れる筈も無いっすから、無断で行くしかないっすけど……無事に帰れるビジョンが湧かないっすね。
♢
時間は正午を過ぎ、華凛の捜索情報は一切集まらなかった。貸していた物件はもぬけの殻になっており、その痕跡すら見つからない。
「行くしかないっすね」
「そうですね」
一人呟いた言葉に、章野が答えた。
「俺一人で行くっすから、白雪には伝えないように頼むっすよ」
「何を言ってるんですか? 赤咫尾巡査部長。一人で行ったところで出来ることなんて少ないですし、そもそも危険です」
「大丈夫っすよ。これでも、俺はそういうことばっかりしてきたっすから」
潜入調査の経験は多いっすからね。割と単独で危険を冒す役は背負ってきたつもりっす。
「取り敢えず、白雪には絶対伝えちゃ駄目っすよ」
「ッ、待って下さい!」
それだけ言い残して俺はその場を去り……老日から共有された天能連の本拠地に向かった。