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夜道に気を付けろ

 月が照らすまでもなく光り輝く夜の道は、東京だ。ネオンライトが鬱陶しく光を放ち、吐き気を誘う。


「あー、にしてもうるさかったなアイツ! 目が良いだけのクソ能力の癖に幹部とかずりー!」


「馬鹿、外で愚痴とか言うなって。誰に聞かれてるか分からねぇから」


 金髪の男と、黒髪の男。何故か人通りの少ない道を歩く二人の目の前に、こつりと足音が響いた。


「止まれ」


 声だけが聞こえる男。どこを探しても姿はない。明らかな異常に二人は流石に冷や汗を垂らし、緊張に息を呑んだ。


「ハッ、ハハッ……おいおい、どこに居んの? そのくらい教えてくれよ」


「……老日勇、じゃないだろうな」


 黒髪の男が、上司の言葉を思い出して呟く。その言葉に反応したかのように、二人の体から携帯がするりと零れ落ちる。


「な、ちょっ、オレのスマホッ!?」


「言ってる場合か、連絡手段が消えたぞ」


 スマホは宙を舞ってどこかに消え、二人は更に焦りを強めた。


「少し、尋問をさせてもらう」


 指先から少しずつ姿が現れ、二人に伸びていく腕。二人は顔を見合わせ、後ろを向いて走り出した。


「お二人さん、ちょっと話良いっすか……あれ?」


「マジか」


 二人に声をかけた警官は、漸く足元まで現れた老日の姿を発見した。


「……奇遇っすね、お兄さん」


「そうだな」


 片や、赤みを帯びた黒髪を垂らした警官の男。片や、少しくたびれた雰囲気の男。奇しくも知り合いである二人は、犯罪者を挟む形で出会った。


「良し、なんか分からんがずらかろうぜ!」


「有り合わせだが……形成ッ!」


 金髪の男は付けていた腕時計を老日へと放り投げ、黒髪の男は鞄を開いて中身を地面にぶちまけると、その肉片や翅に手を翳した。


「爆ぜろぉッ!!」


「足止めしろ」


 腕時計が爆発を引き起こし、肉片や翅は膨れ上がり、融合すると巨大な蝶となって宙を舞う。鱗粉が散り、空気中に漂う。


「無意味だな」


「撃つっすよ」


 老日は無傷で爆煙の中から現れ、赤咫尾は顔を布で覆いながら二人の足を的確に撃ち抜いた。


「プローデッ!」


「ぐッ、分かってる!」


 何処からともなく現れたプテラノドンのような怪物が二人を掴み、飛び上がる。


「さぁッ、第二段ッ!」


「燃える鱗粉。つまり、粉塵爆発だ」


 ボトリと落とされた銀色の何かが空中で爆ぜた。それは宙を舞う特殊な鱗粉に引火し、一瞬で炎を広げた。


「うおッ!?」


 赤咫尾は驚愕に目を見開きつつも、何とか闘気で身を守る。その炎はコンクリートの壁を破壊し、アスファルトの地面を吹き飛ばし、近くに居た蝶の怪物も消し飛ばした。


「落ちろ」


「なッ!?」


 二人を掴んでいたプテラノドンが突然地面に落下し、二人も炎が広がる道に転がった。


「ぐッ、あ、あっちぃッ!?」


「がッ、く、そ……ッ!」


 どうやら燃え広がる炎を防ぐ術すらないらしく、二人は火達磨になりながらなんとか火を消そうとしている。


「何とかなったっすね……」


「大丈夫か?」


 ボロボロの警官服を身に纏う赤咫尾を見て、老日は言った。


「い、今更っすね……守ろうとするくらいしても良かったんじゃないっすか?」


「いや、あのくらいなら余裕そうな雰囲気があったからな」


 老日の言葉に、赤咫尾は溜息を吐く。


「どんな雰囲気っすか……俺、マジでただの警官っすよ。公安でも何でもない、ほんのちょっとだけ戦えるくらいの警官っす」


「……そうか?」


 訝しむように見る老日に赤咫尾は首を振り、荒い息を吐いている二人の方に向かって行った。


「逮捕、逮捕っす。公執の現行犯……及び、無許可での異能使用とか爆発物とかその辺っす」


「ふざ、けんな……」


 ポケットに手を突っ込もうとした金髪の男の腕を蹴り、後ろ手に手錠を付ける。


「それで……赤咫尾、だったか?」


「赤咫尾燈吉っす」


 老日は黒髪の方の男を抑えながら、尋ねる。


「どうやってここに来た? 人払いの結界を張っていた筈だが」


「寧ろ、それがあったから来たんすよ。警察の俺が、人払いの結界が張られた道なんて見逃せる訳ないっすから」


「……そうか」


「俺は割と、知識はあるっすからね。魔術も陰陽道も上手くは無いっすけど、知ってさえいれば気付けはするっす、勘もあるっすけど」


 広く浅く技術を扱える赤咫尾は、警察としてはかなり優秀だった。


「アンタは使えないのか? 異能とか」


「無理っすよ。使えたら今頃ハンターでもやってるっすね」


 そうか、と老日は頷き、気絶した黒髪の男の体を持ち上げた。


「お互いこいつらには聞きたいことがあると思うんだが……一人ずつでどうだ?」


「普通なら絶対断る提案っすけど、力量差から見ると寧ろありがたい話っすね」


 赤咫尾は未だに目の前の男の力量を測れずに居たが、それでも確実に自分より上なのは分かっている。故に、二人とも無理やり持っていかれるよりはと提案を受け入れた。


「それと……俺のことは、誰にも話すな」


 さっきまでの提案とは違い、強い口調になった老日に赤咫尾は息を呑む。


「……っすか」


「あぁ、断るなら無理やりってことになるが」


 赤咫尾は溜息を吐き、頷いた。


「あー、分かったっすよ。今は天能連のメンバーを確保出来ただけで満足するっす」


「あぁ、それで頼む。契約成立だな」


 赤咫尾の言葉にすんなりと頷いた老日。その様子を見て、赤咫尾は老日が彼らが天能連に所属していると知った上での行動だと把握した。


「じゃあ、こいつは貰って行く」


「おーけーっす」


 老日の姿は黒髪の男と共に消え、同時に人払いの結界も消滅した。焼けていた地面は元に戻り、壊れた道や壁も不思議なことに元通りになる。


「天能連、戯典……そして、老日勇」


 赤咫尾は溜息を吐き、空を仰いだ。


「面倒臭いことになりそうっすね」


 東京の夜空は、少し鱗粉が舞っていた。

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