アナザー・ワン
咲良の記憶を操作した後、屋敷を元の状態まで巻き戻し、亜空間に飛ばしていた者達も元の場所に戻した。
「まぁ、多少は違和感もあるだろうが……大丈夫だろう」
かなり雑だが、酒を飲んで皆寝たことにした。咲良なんかはかなり怪訝そうな表情をしていたが、真実に辿り着くことは無いだろう。
「それで、戯典はどうなりましたか?」
「逃がした……というか、逃がされたな」
俺の言葉に、ステラが眉を顰めた。
「そんなことがあるんですか? あの時は、戦闘術式も発動していましたよね?」
「あぁ。正直油断もあったが……異能者の集団が流れ込んで来た。詳しくは記憶を共有する」
「カァ、異能者の集団か……厄介そうだな」
実際、クソ厄介ではあるだろうな。
「それと、異能は魂に根差した力なのは分かった。逆に言えば、魂の無い者には宿らないってことだな」
恐らく異能を再現することは不可能だ。それこそ、異能を使う以外の方法ではな。
「異能者はピンキリと聞きますが……それだけの組織であれば、強力な異能者も少なくないでしょうね」
「戯典も奪われたからな。利用される可能性も高い」
洗脳するか、脅迫するか、その他の形か、具体的にどうなるかは分からないが、何らかの形で利用されるのは確定だろう。それも、悪行の為に。
「まぁ、何が何でも全力でって訳じゃないが……積極的に探ってみてくれ」
「分かりました」
戯典を逃したのは俺の落ち度でもある。少しくらいは責任を取るべきだろう。
「……白雪には連絡しておくか?」
天能連に奪われたという報告くらいはしておくべきだろう。俺達がこの事件を闇に葬った結果、情報の秘匿によって死者が出るのは望ましくない。
「構いませんが、情報元の口止めはしっかりとお願いします」
「分かってる」
白雪が若干不信感を持たれる可能性はあるが……まぁ、あいつは今更だろう。
♦
ど、どうしよう……どうやって処理しよう!?
「ごめんね、電話終わったよ!」
「あ、終わりました? じゃあ行きましょう」
華凛ちゃんが歩き出す。私はその横に並んで考える。
「んー……」
「どうしたんですか? 白雪さん」
その様子に気付いた華凛ちゃんが私の顔を覗き込む。
「な、何でもないよ!? 大丈夫、考え事してただけだから!」
誰が情報元かバレないように老日君から命令されてるからね……! 口の堅い女として漏らさないように気を付けないと!
「でも、どうやって伝えるかだよね……」
情報元を隠しながら情報を伝えるとか難しいよぉ……万が一、リーダーに本気で聞かれたらどうなるか分かんないし……困った!!!!
「えと、伝えるっていうのは?」
「あ」
困った!!!!!
「何でもないですわ!!」
「ぷふっ、何で急に言葉遣い変わったんですか」
私の焦りを察したのか、華凛ちゃんは楽しそうな表情で私の前に立ち、両手を握った。
「もし、困ってたら何でも言ってくださいね? 私なら何でも解決できちゃいますよ?」
ニヤリと、華凛ちゃんは笑みを浮かべる。
「――――私、最強ですから」
老日君と同じ、異世界からの帰還者である華凛ちゃんはそう言った。
「う、うーん……でも、言えない約束なんだよね~」
「もしかして、プライベートな話だったりしますか?」
「どっちかと言うと、プライベートとは真逆かもだけど……でも言えない! 華凛ちゃんも一応、一般人だからね!」
「ふふ、確かにここだと私も一般人ですよね……むふふ」
ニヤニヤし始めた華凛ちゃんを放置しつつ、私は頭を回す。
(分かんないけど、リーダーなら適当にぶん投げても察してくれるよね! 良し、解決!!!)
取り敢えず、リーダーにメールだけ送っときますか!
『後で秘密の話があります! 情報元は話せないですけど、劇殺の話です!!!』
『取り敢えず分かったけど、情報元話せないのはそういう契約?』
『それと、私のアドバイス忘れてますよ』
『何だっけ?』
『ちゃんとメールでも語尾にッスってつけるべきって話ですよ!! 今の時代、キャラ付けは大事ですよ!! 個性を出してかないと!!!』
あ、あれ、既読無視された……!?
「白雪さん、いつの間にか余裕そうな表情になってますね」
「ふふ、上司に全部ぶん投げるという荒業によって解決したのです!」
「中々終わってますね……」
華凛ちゃんが若干軽蔑するような目でこちらを見てきたので、私は慌てて弁明した。
「言っとくけど、元はと言えば私もぶん投げられた側だよ!? 全部ろッ、ぐッ、んッ!? め、命令されてるの忘れてた……!」
「……命令?」
「あ、アレね! 上司命令的な! 言っちゃダメだよって!」
「それだと、上司にぶん投げられたものを上司に投げ返したってことになりますけど」
ま、不味い!
「…………そういえば、天能連って知ってる!?」
「分かんないですけど……最近この世界に帰って来た私が知ってることなんて殆どないですよ?」
「そっか、異能者による犯罪組織なんだけど、もしかしたら華凛ちゃんの居た世界で関係ある言葉とかじゃないかなぁって」
「ほう、異能者の犯罪組織ですか? 中々、面白そうな話ですね……天能連って名前自体は知らないですけど」
良し、話逸らせた! いや、よく考えたら話逸らせてないかも?
「私が潰しちゃっても良いですよ? どうせ、全員合わせても私の持つ異能の数には届かないだろうし……」
「駄目だよ! まだ華凛ちゃんの扱いもちゃんとは決まってないから、勝手に色々やっちゃったら怒られちゃうよ! 最初の私みたいに!」
保護された後の私もそんな感じだったからね……まぁ、あの時の私はまだ幼かったっていうのもあるけど。
「取り敢えず、異能もまだ使わないようにね!」
「勿論、心得てますよ」
……嘘、吐いてるじゃん。