乱入者
暫くすると、戯典が泡を吹いて地面に倒れていたので軽く蘇生した。すると、戯典は虚ろな目を開き、瞬きすらしない。殆ど廃人状態だな。
「さて、後は頭を弄るだけだな」
そう言って俺が戯典に手を伸ばした瞬間、四方八方から人影が現れた。
「敵か」
俺は先端の尖った鉄の触手のようなものを避け、呟いた。
「アイツを助けに来たのか……面倒だな」
既に戯典の姿は消えている。それと、最初には居た数人の姿も。残ったこいつらは囮というか、時間稼ぎの為の存在だろう。
「……どこに行った?」
この場の敵は無視して追いかけようと思ったんだが、どういう訳かその気配を追えない。一度契約のラインを繋げた以上、どこに行っても見つけられる筈なんだが……何らかの能力で居場所を隠されてるっぽいな。
「取り敢えず、殺すか」
別にこいつらは洗脳も何も受けてないみたいだからな、躊躇なく皆殺しに出来る。戯典を追えない以上、やるべきことはこいつらの処理だ。
「『鉄鞭』」
「『壊死』」
「『熱線』」
鉄の触手、足元から迫る死の気配、放たれる熱線。全てを回避すらせず、俺は剣を振るった。
「ぎゃ――――」
「なッ――――」
「ぐぉ――――」
一瞬にして上映室の中に無数の斬撃の痕が刻まれ、モニターは八つ裂きになり、敵も一人を残して木っ端微塵に切り刻まれた。
「な、なんだ……何の異能だッ!?」
「只の剣だ」
無傷で取り残された男の胸倉を掴み持ち上げる。
「アンタの異能は何だ?」
「俺の、異能は……これだッ!!」
男が叫ぶと同時に煙幕が撒き散らされるが、意味は無いし、男を掴む腕も離れない。
「そうか……いや、良い機会だと思ってな」
「ッ、何をする気だ……?」
俺は残った片腕を男の頭に伸ばした。
「全部、調べさせて貰う」
こいつの目的も、異能についても、全部だ。
「ぶッ、ぅぉッ、ギャぁ――――」
次の瞬間、男の体が膨れ上がり、炎熱と共に爆発した。
「悪いが……」
俺は跡形もなくなった死体の上に座り込み、手を合わせた。
「もう一回だ」
ただ殺されただけなら、蘇生すれば良いだけだ。
♢
蘇生した男の情報を調べると、様々なことが分かった。
「天能連、か」
異能者の犯罪集団、目の前の男はその組織の一員だ。規模は数百人程度、その内の異能者の割合は四割程度で、外国人も多く在籍しているらしい。ただ、こいつは外部からの雇われに近い立場で、アジトの位置や具体的な構成員については知らなそうだ。
「名前自体は聞いたこともあるが」
耳にすることが多い組織では無い。異能犯罪自体が極めて隠密性が高いからか、天能連の犯行であると断定出来ることも少ないのだろう。
「まぁ、そっちは良い」
連れ去られた戯典は気になるが、どうせ廃人状態だからな。直ちに使い物にはならないだろう。それに、こいつの記憶によれば、戯典と組織の関係は深いものでは無かったらしい。命の危機を察して利用する為に回収しに来たんだろう。ハイエナされたってところだろうな。
それよりも、興味があるのは異能そのものについてだ。
「……見れば見る程、奇妙だな」
深くまで観察してみれば、魂に異能情報とでも言うべきものが染み付いているのが分かった。まるでインクを零したかのように、魂の一部が異能に染まっている。
この世のものじゃないみたいに、出鱈目だ。この異能という存在を原理から理解するのは俺には不可能だ。だが、確実に無から発動している能力でないということは分かった。
「再現は……無理そうだな」
聖剣を使っても再現は出来ないかも知れない。同じ能力を再現すること自体はものによっては可能だろうが。
「だが、魂に干渉すれば異能にも干渉出来る……か?」
この情報は使えるかも知れないな。
♢
桜屋敷に戻った俺は、神妙な顔で話している咲良と使い魔達を見つけた。
「戻った。どういう状況だ?」
「屋敷がボロボロになっていたので、取り敢えず魔術によって隠蔽しています。現在はマスターの帰りを待っていました」
直ぐに立ち上がったステラの説明を聞きつつ、俺も砕けた机の前に座り込んだ。
「あぁ、まだ記憶は操作してないか?」
「……」
「記憶、ですか?」
ステラが目を細め、咲良は首を傾げた。
「いや……アレだ」
「アレ、とは?」
俺は咲良と目を合わせ、魔術を発動した。
「『昏睡の眼差し』」
咄嗟に視線を逸らそうとする咲良だが、その体はぐらりと揺れる。
「な、にを……」
「『疲労の増幅』」
蓄積していた戦闘の疲労。それを増幅され、立ち上がろうとしていた咲良は膝を突く。
「『月銀の眠り』」
既に尽き欠けていた闘気では抵抗も出来ず、遂に咲良は意識を失った。
「……何というか、ゴリ押しですね」
「ゴリ押しで行けるなら、それが一番楽だろ?」
穏やかな寝顔を晒す咲良の額に、俺は手を当てた。




