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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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一級、八重咲良

 怒りを露わにする咲良。両手で握られた刀にも桜色のオーラが纏わりついていく。その足元から、影が沸き上がった。


「カァ、動くなよ」


「無駄です」


 咲良の足を覆った影だが、桜色のオーラが溢れると、へばりついていた影は吹き飛ばされてしまった。


「じゃあ、これならどう?」


 メイアの腕がボトリと地面に落ちる。そして、共有の能力によって咲良の腕も落ちることになる筈だが……


「ふぅん、なるほどね」


 咲良の腕は無傷だった。正確には、共有の能力自体は通っている。しかし、桜色のオーラが接着剤のように全身に染み込んでいるお陰で、切り離された瞬間には接着されて元通りになったんだろう。


『馬鹿め、血を見せたなッ!』


 声が響く。自ら腕を切断したメイアは、ぼたぼたと血を流しながらも焦る様子は無い。


『『愛憎劇(ラブアンドヘイト)ッ!』』


「無駄よ。愛も憎悪も譲る気は無いわ」


 すかさず発動された能力だが、メイアに対して効果を発揮することは無かった。


「マスターに触れたければ、先ずは私を倒すことです」


「噂の通り、貴方も人では無いのですね。まるで、からくり人形のようです」


 俺に向かおうとする咲良の前に立ち塞がるステラ。咲良は仕方なくステラに刀を向ける。


「その評価は正解に近いですね」


「そうですか。徒桜」


 一太刀で首を斬り落とそうとする咲良だが、ステラの首は切られる前に自ら離れ、浮遊した。


「人形であると分かっていて首を狙うとは、愚かですね」


「流石にその動きは予想出来ないです」


 咲良は仕方なしと刀を構え直し、ステラを観察した。


『何をもたもたやっている……早く、殺せ』


 戯典の言葉に、未だ理性を保っていた咲良の目の色が変わった。


「『桜吹雪(さくらふぶき)』」


 瞬間、咲良は刀を躊躇なく振るった。その一振りと共に大量の桜の花弁が宙を舞う。その正体は桜色のオーラによって形成された、無数の小さな刃だ。


「『亜空転送(メタフォライコル)(クォロス)』」


 桜の刃、それが一般人の命を奪うより先に彼らを全員亜空間に転送した。転送されるのを俺達にしなかったのは、亜空間から帰って来たら全員死んでるみたいなことも有り得るからだ。


『なッ、有り得ん……グランド・ホテルから脱出することは不可能な筈だッ!』


「別に、脱出させた訳じゃない」


 飽くまで、この屋敷の中ではある。屋敷の中に開いた亜空間というだけだ。


「夜桜」


「殺意が凄いな」


 立ち塞がる使い魔達を瞬歩で擦り抜け、一瞬で俺の目の前に現れた咲良はそのまま刀を振り下ろした。俺はそれを回避し、後ろに跳び退く。


「カァ、お花見は鴉の群れで中止だ」


「どの程度加減すれば良いのか、難しいですね……」


「そうね、私も手加減は苦手よ」


 大量に発生した影の鴉達が宙を舞う桜の刃を全て呑み込んでいく。


『……これでも、劣勢か』


「朝桜、夜桜。徒桜」


 一級の咲良を味方につけてなお勝機の傾かない様子に、戯典は溜息を吐く。


『ならば……取って置きだ』


「葉桜」


 咲良の猛攻を受け止めつつ、俺は変化する空気に注目した。


『『殺戮劇場(グラン・ギニョール)』』


 瞬間、べちゃりと屋敷のそこら中に粘っこい血がへばりついた。空気すらも赤く染まり、まるでスプラッタ映画の中に放り込まれたかのような感覚に陥る。


『さぁ、死と踊るが良いッ!』


 大量の刃物がそこら中から現れ、浮遊して刃先がこちらに向く。


「『金属破壊(メタルスクラップ)』」


 しかし、魔術によって宙に浮いていた全ての刃物は砕け散った。咲良の刀が砕けていないところを見るに、相当良いものを使っているのだろう。


「マスター、敵の動きが速くなっています。恐らく今の術の効果です」


「そうみたいだな」


 身体能力が強化されたのか、咲良の速度が五割増しくらいになった。動きが単調なお陰でさっきまでは何とかなっていたが、これを対処しきるのは厳しいな。


「『重星の落引ィペルヴォリコ・ヴァリティタ』」


 咲良の体を過剰な重力が襲う。動きの遅くなった咲良に、背後から血の触手が迫る。


『『暗転幕(ダークスクリーン)』』


 瞬間、血の触手は消え失せ、同時にメイアの姿も消えた。いや、メイアだけじゃない。ステラとカラスも消えている。代わりに、黒い幕のようなものが被せられた何かが三つあった。


「死んではいない……封印的なものか」


 だったら、問題無いな。後は動きの遅くなった咲良を鎮圧するだけだ。


『『英雄活劇(エピック)』』


 咲良を止めようとした時、俺の背後に新たな敵が現れた。


「よぉ、俺はクー・フーリンだ!」


「の、偽物だろ?」


 動きの遅くなった咲良を放置し、振り向きながら突き出された槍を弾き上げる。


「ハハッ、どうだろな!?」


 そこに居たのは、まるで貴族や王族かと疑う程に装飾華美な白い肌の男だった。

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