表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
275/488

偽物の英雄

 棍棒で地面を叩き付けるヘラクレス。すると、まるで地震でも起きたかというような強い揺れが発生した。


「ッ、動くのは愚策……ですかね」


 戯典の能力によって閉鎖空間と化しているからか、その衝撃は外に漏れることは無く、揺れは空間全体に伝わっている。


「残念だが……」


 揺れる世界の中、地面に根を張るように立って刀を構える咲良。どこから棍棒を振り下ろされても対処できる防御の姿勢だ。


「そっちじゃないんだ」


 しかし、ヘラクレスは構える咲良から距離を離すように飛び退き、その手に大きな弓を呼び出した。


「この角度、避けるなよ?」


「ッ!」


 咲良の後ろには塀の隅に固まった俺達が居る。その矢を避ければ誰かが犠牲になるかも知れない。


「決断しろ。迷う暇は無いぞ」


 その強弓から、どす黒い毒の塗られた矢が放たれた。


「桜狩り」


 舞い落ちる花弁を拾い上げるように優しく刀を振り上げた咲良。すると、毒の塗られた矢は真っ二つに斬り裂かれ、勢いを失ったようにその場に落ちた。毒の飛沫も散ることなく、咲良は無傷で矢を処理し、揺れも収まった頃と駆けだそうとして……


「ッ!」


「残念、二段構えだ」


 続けて放たれていた二本目の矢に気付いた。


「くッ!」


 それでも何とか矢を叩き落す咲良だが、飛び散った毒が咲良の刀を持つ腕に付着し、更に投擲された鉄の鎌が眼前まで迫る。


「これで、俺の勝ちだ」


 投擲された鎌をギリギリで弾くも、その衝撃と筋肉まで溶かし始めている毒によって、振り下ろされる棍棒まで対処することは出来ない。後ろに避けても、横に避けても間に合わない。全て射程内だ。


「ここです」


「なッ!?」


 しかし、唯一の安全地帯……咲良は逆にヘラクレスへと迫り、その懐まで潜り込んだ。棍棒は空振り、擦れ違い様にヘラクレスの脇腹が斬り裂かれる。


「朝桜」


「ぐッ」


 振り上げられる刀がヘラクレスの背を斬り裂き、血しぶきを上げる。


「夜桜」


「ぐぅッ!?」


 振り向きながら棍棒を振り上げるヘラクレスだが、振り下ろされた刀によってその腕を斬り落とされる。


「徒桜」


 何とか抵抗しようと残った左腕を伸ばすヘラクレスだが、咲良はそれをすらりと躱し、姿勢の低くなったヘラクレスの首を一振りで刎ね飛ばした。


「み、ごと……」


 中を舞うヘラクレスの首がそれだけを呟き、地面に転がった。


「……失敗しましたね」


 咲良は自身の右腕を見る。矢に塗られていた毒液は咲良の肌を溶かし、腕の骨まで露出させている。血はだらだらと垂れ、今にも崩れてしまいそうだ。


『ふふ、ハハハハッ! いやぁ、まさか英雄まで倒されるとはな……だが、一切問題はない』


 咲良の体が、腕から地面に零れた血が赤く光る。


「ッ、これは……ッ!?」


『『愛憎劇(ラブアンドヘイト)』』


 咲良の目から、光が消えた。


『私の前で血を見せたんだ……それはつまり、君も役者(アクター)の一人であると認めたようなものだろう?』


 笑いを堪えたような声で話す戯典。つまり、洗脳だろう。条件は出血か?


『ほら、八重咲良……憎いだろう? 守られるだけの有象無象共が、憎い筈だ』


「……」


 咲良の目が、明らかにこちらを向く。


「憎、い……」


「これ、もしかして俺か?」


 咲良が、一歩ずつ近付いて来る。抜き身の刀を引き摺るようにして。


「少し、くらい……手伝ってくれても……良い、でしょう……ッ!」


「あぁ、もしかしなくても俺だな」


 虚ろな目が俺を睨みつけ、刀が振り上げられた。その腕は闘気によって修復されている。


「ッ、お客様、下がっていて下さいッ! 私達で何とか相手をします!」


 刀を構えたこの屋敷の家人らしき者達が俺と咲良の間に入る。


「邪魔、です」


「ぐッ、咲良様……ッ!」


 咲良が刀を一振りすると、彼らの構える刀が全て叩き落され、次の一振りで全員が気絶した。


「やっぱり、気付かれてたんだな」


「当たり、前……です……憎、い……ッ!」


 剣舞の後にこちらを見た時はもしやと思ったが、観ていたのを見られていたんだろう。


「自分は一般人、みたいな……顔して、守られてる、のが……憎、いッ!!」


 振り下ろされる刀が、ステラの腕によって防がれる。


「マスターへの手出しは許しません」


 ステラに続き、メイアとカラスも前に出る。


「一級だか何だか知らないけど、随分簡単に洗脳されちゃうのね?」


「カァ、好都合じゃねぇか。列車の時みたいに、また無かったことに出来るぜ?」


 まぁ、マスターとか何とか公言した時点で記憶を弄るのは確定だな。


「この結界、外から中の様子は伝わらないみたいだな」


 俺は屋敷内に存在する全てのカメラに意識を集中させ、破壊した。


『馬鹿な、今度はそう簡単には壊されないようにした筈だぞ……』


「やはり、そのくらいの力はあるようですね……ッ!」


 落ち込む戯典とは反対に、咲良は更に憎悪を増大させたように俺を睨みつけた。


「『桜人(さくらびと)』」


 咲良の体から魔力が溢れ、闘気と混じり合って綺麗な桜色のオーラを形成していく。


「私はずっと、心の底では期待していたんです……ステラ様にメイア様は勿論、私の剣を見抜けた貴方も、いつかは手を貸してくれるだろう、と」


「すまん、一級ならぶっちゃけ何とかなるだろうと思ってた」


 咲良は怒りを込めて俺を睨んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 一級への期待度で草生える [気になる点] まあ死にものぐるいで一級になって相応しいムーブしなきゃいけないプレッシャー抱えてたら、それ以上の実力を隠して呑気に観光されてたらキレそうになるのは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ