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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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役者《アクター》

 男の声が聞こえなくなると、咲良が直ぐに話し始めた。


「皆様、今の言葉には耳を貸さないようにして下さい。必ず、私達が皆様をお守りしますので」


 咲良が言うと、刀を差した者達が会場を守るように囲み込んだ。


「……一旦、俺達は何もしなくて良さそうだな」


「そうですね。任せておきましょう」


 何食わぬ顔で頷くステラ。


「ていうか、いつの間に恨みを買ったんだ? お前」


「多分、列車の事件でしょうね。完璧に対処しすぎてしまったかも知れません」


 そう言って、挑発するようにカメラに微笑むステラ。次の瞬間、ステラの背後に一人の男が現れた。


「ご安心下さい」


 男が咲良に首を打たれ、地面に倒れた。


「しかし、こういったことも出来るとなると……話は変わってきますね」


 咲良は、屋敷の中に大量に現れた偽物の人間達を見て険しい表情を浮かべた。


「なぁ、ステラ。カメラは壊せねぇのか?」


 確かに、遠隔で攻撃してきているなら、情報を送っている媒体を全て破壊すればマシになるという考えも分かるが……無駄だろうな。


「……前のように簡単には壊せないですね。それに、恐らくカメラを破壊しても無駄です」


 カラスは立ち上がり、瞳を黄金色に光らせる。周囲は既に人間擬きに囲まれている。


「カァ、なるほどな」


「えぇ、この感じ……恐らく、屋敷の範囲内全てが()()()です」


 正に支配下、と言ったところだろうか。この屋敷は戯典を名乗った男の箱庭と化しているのだろう。


『ふふ、調子はどうかな? 私の力に驚いているか、それとも恐怖しているか……くく、どうする? このままジリ貧で全員死んでいくつもりかな?』


「ッ、お客様方を全員屋敷の外に避難させてください!」


 叫ぶ咲良を嘲笑う声が、どこからか響く。


『無駄だ。屋敷から出ることは出来ないさ』


「そんな訳が……」


「本当ですッ、咲良様ッ! 屋敷から出られませんッ、壁も壊せませんッ!」


 実際、本当だろうな。列車の時と同じだ。


「それなら、お客様方を全員壁際に集めて下さい。壁が破壊されないのなら、安全地帯となり得ます」


 冷静だな。壊れない壁を背にすれば、正面を守るだけで事足りる。


「分かりましたッ、誘導します! 皆様、立って下さいッ! こちらへ来てください!」


「……何とかなりそうだな」


 人間擬きの強さは一般人よりも少し強い程度だ。武術の心得がありそうな者達が守っているこの状況なら、犠牲者が出そうにも見えない。


「そちらの方達も、こちらにッ!」


「あぁ」


 眺めていた俺を焦った表情で呼び寄せる男。誘導に従い、俺達も屋敷の隅に移動する。


『ふむ……ただ役者(アクター)を送るだけでは無意味なようだ』


 その様子を見ていたのか、戯典は面白く無さそうに呟く。


『ならば、これはどうだ』


 瞬間、大量に居た人間擬き……役者(アクター)達が同時に消える。


『『英雄活劇(エピック)』』


 部屋の中心に現れたのは、ギリシア神話の英雄のような半裸の男だった。


「これは……」


『ヘラクレスをモデルにした。ふふ、はっきり言って人間の枠では無いさ』


 男の手には棍棒が握られ、獅子の皮を加工したような原始的な服を纏っている。浅黒い肌の下には鍛え上げられた筋肉が分厚く膨れている。


『さぁ、一騎討ちと行こうか』


「……そのような言葉は、先ず姿を現してから言ってみてはどうでしょうか」


 咲良は刀を構え、二メートル近い巨躯の男を睨んだ。その身から闘気が立ち昇り、一触即発の状態となる。


「現代の英雄よ、足掻いてみろ」


「喋れるんですね。何を言おうと、薄っぺらにしか聞こえませんが」


 咲良の言葉に反応したのか、男は一瞬で距離を詰め、棍棒を振り下ろした。


「ッ!」


「どうした? 驚いたか? 造り物風情が敵う訳が無いとでも思っていたか?」


 棍棒は容易く机を叩き割りながら地面に直撃したが、破壊不能と化している屋敷の地面には傷一つ入ることは無かった。


「俺はヘラクレスだ。例え偽物でも、ヘラクレスとしてここに立っていることは間違いない」


「話す気は無いので、黙っていて下さい。貴方は言葉が通じるように見えても、決して通じることは無いのでしょう」


 咲良の言葉に、ヘラクレスはニヤリと笑った。


「その通り。言葉は単なるオマケだ。俺はお前を殺し、そして奥に居る女も、その他の全ても皆殺しにする。それ以外の目的も目標も無い。そして、それが変わることも無い。哀れだろう?」


「意思があるかのように振舞う、意思無き人形……最早、哀れとも思えません」


 実際、本物の感情が無い彼らは、自身の哀れさに対して悲しみや怒りを抱くことも無い。それに対して哀れと思う意味も無いだろう。


「さぁ、呼吸は落ち付いたか?」


「そんなものは、初めから」


 ヘラクレスは笑って頷き、咲良に飛び掛かった。


「無駄です」


 咲良は棍棒を紙一重で避け、代わりに刀を振り上げた。ヘラクレスから血しぶきが舞い上がる。


「所詮俺は偽物。力では勝てても技術では勝てないということか」


「えぇ」


 ヘラクレスの体に付いた傷が、蒸気と共に塞がっていく。


「だが、それでも俺はヘラクレスだ」


 ヘラクレスは強く、地面に棍棒を叩き付けた。

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