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偽物

 全部分かりました、直接響いた言葉にオレは眉を顰めた。


『は? 流石に早くねぇか?』


 念話で伝えてきたステラを見ると、ステラは首を振った。


『貴方も真眼でさっきの女を見れば分かります』


 オレは開いた扉から中を見た。チラリと見えた女は、確かに人間と同じ構造をしていたが……そこに魂は入っていなかった。


「カァ……?」


『声には出さないで下さい。それと、周りも確認して下さい』


 オレは言われた通りに真眼で周囲を確認した。すると、そこかしこにカメラのようなものが仕込まれているのが分かった。


『これ、どういうことだ?』


『私も良くは分かりませんが……きっと、ここは何者かによって用意された舞台なのでしょう』


『どうする? 警察に任せてオレ達は逃げるでも良いが』


『そうですね。ただ、このままでは無理ですね』


 チラリと壁を見るステラ。オレも確かめると、この列車自体が結界のようになっていることが分かった。


『これは、異能だろうな……魔術でも呪術でもねぇ』


『間違いないですね。私は少し、この状態を解除する方法を考えます』


『一旦、主様には私達に任せるように言っておいたわ。そっちはどんな調子かしら?』


 使い魔のみでパスが繋がれた念話に入って来たのはメイアだ。


『一応殺人の犯人とそのトリックと今の状況は大体判明しています。犯人も被害者も人間のように見せかけられた魂の無い偽物で、車両内には無数にカメラが仕掛けられています。更に、この車両からの脱出及び破壊は不可能な状態になっていますが、それを解除する方法は解析中です』


『それで、脱出できるようになったら後は警察に任せて逃げるって感じだな』


『……被害者も偽物なのね?』


 メイアは意味ありげに尋ねた。


『えぇ、そのようですね。単なる茶番か、それともここから本当の殺人が巻き起こるかは不明ですが』


『だったら……カメラは全部壊して、犯人は殺して、死体も消して、知っちゃった人は記憶を消しちゃわない?』


『カァ? 何でだ?』


 意図が分からねぇな。まるで、今回の件を無かったことにするようなやり方だ。


『これを無かったことにすれば、二日目も主様と一緒に楽しめるでしょう? 警察沙汰になっちゃったら、間違いなく中止よ』


『なるほど。アリですね』


 頷くステラを、オレは呆れたような目で見た。


『普通、そこまでやるか?』


『別に、普通じゃなきゃいけない理由なんて無いわ。私達と主様が幸せになって、他の乗客もついでに幸せよ。どうせまだ誰も死んでないなら無かったことにしたって良いでしょう?』


『取り敢えず、この状況が既に放送されている訳では無いのは確認できました。ただ、カメラの映像がどこに送られているかは不明です』


 オレ達が話し込んでいると、ちらほらと様子を伺いに乗客が部屋から出て来ているのが見えた。悲鳴が聞こえた奴らだろう。


『カラスさん、全員眠らせて貰って良いですか? どうせ、この列車は止まらなくなってるようですから』


『しゃあねぇな……一応、先にカメラは潰しといてくれ』


 ステラが片手を上げ、指を鳴らす。瞬間、そこかしこからパリンと割れるような音が響く。


「きゃッ!?」


「な、なに今の音……?」


 混乱が広がる車内を、そよ風が抜けていく。


「『病魔の風(ローガ・ワーユ)』」


 バタバタと乗客は倒れ、眠りに落ちていく。オレ達を除く全員が意識を失ったところで、ステラが小さく何かを呟く。


『精霊を通じて記憶は弄れました。雑ですがバレることは無いでしょう』


 ステラが言い終えると同時に、目の前の部屋からバーテンダーの男を抱えたメイアが現れる。


「死体と犯人は消しておいたわ。何の味もしない血は初めてだったけど」


 あーあ、隠蔽が完了しちまったな。


「ふふ、これで事件は迷宮入りですね」


「カァ、犯人側のセリフだろそりゃ」


「だって、やってることは犯人側だもの。これで私達も犯罪者の仲間入りかしら?」


 クスリとメイアは笑い、地面にバーテンダーの男を置いた。


「カァ、んなもんは今更だろ。今まで何人殺してきたかって話だ」


「あは、それもそうね」


 気が付けば、密室と化していた列車も勝手に元に戻っていた。






 ♦




 暗い上映室の中、地面には赤い液体が広がり、その上にはガラスの破片が転がっていた。


「クソ、クソッ、クソが……ッ!」


 男は頭を掻きむしり、地面に広がるワインの染みを何度も踏みつける。


「私の舞台を、よくも……()()()()()()()などしたなッ!!」


 最も屈辱的な方法で劇を終了させられた男は、これまでの人生の中で最も強く憤慨していた。


「私を……私の劇をコケにするとは……決して、許す訳にはいかない」


 男は何も映らないモニターを睨みつけ、手から血が溢れる程に強く拳を握り締めた。


「『劇作法(ドラマツルギー)』」


 男の瞳が真っ赤に塗り潰される。同時に、男の周囲に無数のカメラが浮かび上がった。


「第二幕を始めよう……次の舞台は、復讐劇だ」


 シアターの電気が消え、足音が出口へと向かって行った。

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