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本部長

 異界探検協会の本部長、箕浦。睨みつける視線を無視し、俺は最初に引っかかっている部分を尋ねた。


「それで、都栖に対する処分は何の処分なんだ? 監督不行き届きって話か?」


「そうだ。損害という結果が生まれた以上、何かしらのペナルティは与える必要がある」


 箕浦は毅然と頷き、言い放った。


「だったら、教えてくれよ。どう監督すればこの事態を避けられたのか」


「知らないな。私の仕事はそれを考えることでは無いし、私にその能力は無い」


「つまり、同じように試験監督をこなしてる奴は全員がこの事態を回避できる能力があるってことだな? そうじゃないなら、仕事を任せた奴らの問題だろう」


「……一理あるが、この世界は正しさだけが全てではない」


 急かすような視線を受けて、箕浦は言葉を続ける。


「異界を無断で消滅させるのは法律に違反している。故に、異界の権利を有する協会でも責任を取る必要があった。だが、その責任を上層部が取るのは難しい。業務が滞り、効率が激しく悪化する。その選択を協会の本部長である私が取る訳にはいかない」


「だから、木っ端の都栖を生贄にするって話か?」


 俺の言葉に、箕浦は目を細めた。


「言い方が悪いな」


「ただの事実だろ」


 俺は自分が少し苛立っていることに気付き、呼吸をやり直す。


「確かに原因は俺だ。あの鳥を斬ることを選んだのは俺で、例え異界が消えると知っていても同じように斬っていただろうからな。だが、こいつに選択の余地は無い。どう足掻いても避けられなかった結果の責任を取らせるのは、おかしな話だと思わないか?」


「……ふむ」


 つまり、と箕浦は続ける。


「君に責任はあるという話か?」


 じっとこちらを見る箕浦に、俺は頷いた。


「どちらかと言えばな」


「ッ、老日さん! 私は大丈夫です! 一ヵ月くらい、軽いですから!」


 軽いか重いかというよりも、単純に罰を与えることに納得がいかない。


「と言っても、ペナルティの内容次第では普通に断るつもりだ」


「私を目の前に言うとは、中々肝が据わっているな。怖くないのか?」


 箕浦の言葉に、俺は内心で笑った。


「アンタの数千倍は恐ろしい魔物と戦うのがハンターだ。怖い訳無いだろ」


「……そうか」


 箕浦は、少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「それで、ペナルティの内容ってのは何だ?」


「君が戦う映像を見た。詳しい者にも判断してもらったが、最低でも君は二級以上の実力を持っているだろう」


 あぁ、そうか。映像も見られてるよな。


「準一級の試験を受けること。それが、君に与えられた賠償だ」


「断る」


 堂々と言い放った箕浦に、俺は堂々と断った。


「……何だと?」


 信じられないものを見るような目で、箕浦は俺を見る。


「老日さん……準一級ですよ?」


「悪いが、俺は準一級にはならない」


 俺は正直、準一級以上になる気は無い。七里から聞いたが、一級を目指すようしつこく催促されるし、色々と指名で依頼されることも多くなる。そして何より、目立ち過ぎる。準一級の七里やらカーラやら、どいつもこいつも有名人だ。だが、二級までは違う。殆どが名前も知られていない奴ばかりだ。


「二級なら良いぞ」


「ッ、二級なんて沢山居るだろう。五級のハンターから準一級の逸材を見つけ出したという功績が無ければ、今回の損害を打ち消せはしない」


 確かに、俺が準一級となって働けばあの異界が消えたことなどどうでも良いレベルの利益を得られるだろうな。


「そもそも、今回の試験を受けたのも上を目指しているからだろう。何故、断る必要がある?」


「明らかに面倒が多いからだ。今でも十分稼げているが、それでも昇格試験を受けたのは五級の異界にも行ってみたいからってだけだ」


 箕浦は俯き、考えるような仕草を取った。


「もしその試験を受けるなら、都栖の処罰を取り消そう」


「それは前提の話だ。都栖に何か処罰が下るなら、俺は何もする気は無い。別に、ハンターを辞めても生きていけるしな」


 メイア達が異界に行ける以上、俺が行かずとも稼ぎは十分にある。


「老日君……君には、悪魔召喚者の疑いがかけられていた過去もある」


「それがどうした?」


 今更持ち出されても、その疑いはとっくに晴れてる筈だ。


「社会的な立場が悪くなっても、構わないということか?」


 箕浦は、俺を睨みつけて言った。


「それは、脅しか?」


「ッ」


 箕浦は息を呑み、返答を躊躇う。その瞬間、後ろの扉が開いた。



「――――こんにちは、老日君」



 現れたのは、初老の男だった。白髪に染まった頭は綺麗に整えられており、穏やかな表情には微笑みが浮かんでいる。

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