in 取り調べ室
という訳で、俺は今警察署の中に居る。
「取り調べを担当します。赤咫尾燈吉っす」
「白雪天慧です!」
「章野晃です」
「……知ってる奴らしか居ないな」
取り調べ室と言われるような場所の中で、俺は三人の警察に囲まれていた。
「まぁ、取り調べって言っても状況確認みたいなものなんで、あんまり気を張る必要は無いっすよ」
「動画見たけど、やっぱ凄いね~!」
やっぱとか言うな。色々バレるだろ。
「それと、あと一人お呼びしてるんですが……」
「都栖か?」
俺の問いに章野は首を振る。
「いえ、一応取り調べなので都栖さんと老日さんは別々なんですが……来ましたね」
取り調べ室の扉が開くと、緑髪の女が現れた。少女と言ってもいいその女は学生服を着ており、俺の記憶にも残っている人物だった。
「どうも、異界に強い研究者です」
「顔見知りが増えたな」
ニヤリと笑って現れたのは、犀川翠果。個人のラボも持っている、研究者の高校生だ。
「久し振りですね、老日さん」
「あぁ、久し振りだな。もう会うことも無いんじゃないかと思っていたが」
やり取り自体はすることもあったが、直接会うのは久し振りだ。
「しかし、老日さんも遂に犯罪者の仲間入りとは……いつかやるとは思ってましたけど」
「まだ取り調べの段階だ。ギリギリ犯罪者じゃない」
異界やダンジョンを勝手に消すのは普通に法律違反だ。話を聞いてる感じ、本当に逮捕されはしなそうだが、何も話さずに帰るってのは出来ないだろうな。それに、映像も渡っていると考えれば秘匿する意味も大してない。
「一応ここ、雑談の場じゃないっすからね。取り調べ始めるっすよ」
「あぁ、いつでも良いぞ」
「と言っても、そっちから経緯を話して貰う方がありがたいっすね」
「分かった」
さて、どこから話そうか。
「俺は五級昇格試験を受ける為に鳥居異界に試験官の都栖と向かった。そこで、まぁ普通に魔物を倒したりしてたんだが……突然魔物達に囲まれてな。こんなこと、普通は有り得ないって都栖は言ってたな」
続きを促すように、赤咫尾はこちらを見る。
「それで、都栖と協力してその魔物を全員倒すと……クソでかい鳥が地面から飛び出して来た。そのまま襲い掛かって来たそいつを斬り殺したら、異界が消滅してしまった……ってところだな」
「なるほど、簡潔な説明助かるっす」
赤咫尾は頷き、犀川に視線を送った。
「んー、そうですね……異界が消えた原因はその鳥にあるのは間違いないです。異界にはシンボル型の異界というものがあります。簡単に言えば、その異界のシンボルを破壊すればそのまま異界も消滅すると言った類の物ですね」
シンボル型の異界か。初めて聞いたな。
「良くあるのは、ダンジョンシンボル型の異界です。ダンジョンがコアを破壊されて崩壊すると、そのまま異界も消滅してしまうというものです。今回はそのシンボルが鳥の魔物だったってことになるんでしょうけど……正直、そのケースは初めて聞きましたね」
「そうなのか?」
何か、ボスを倒したら消える異界的な、普通にありそうだけどな。
「はい。少なくとも今までは無かった事例です。ただ、仕組みとしては有り得る話なので十分可能性は高いですね」
「まぁ、とは言えそれを予測するのも回避するのも難しい話っすよね」
そうだな。俺も今始めて聞いたような話だ。
「そういえば、アイツは妖怪っぽかったが……それでも異界のシンボルになることはあるのか?」
思い出し、軽く尋ねると犀川は難しい顔で俯いた。
「……その場合、かなり可能性は低いですね」
これは、余計なことを言ったか?
「確かに、あの鳥の魔物は一度も見たことが無いです」
「やっぱ、そうっすよね。多分、陰摩羅鬼っすよアレ」
赤咫尾が納得したように何度も頷く。
「瘴気から生まれる妖怪で、青い炎を吐くんすよ。見たことあるなぁとは思ったんすけど……あんなデカくなるんすね」
「あぁ……あそこは、アイツの巣だった。村人の魂を縛り付けて何度も仮初の霊体を作り出し、外から来る奴らを襲わせていたんだろう。俺の予想だが、あそこが異界になる前からアイツは住み着いていた筈だ」
「章野君、凄い、難しい話をしてますよ。私には全く分かりません」
「白雪特別巡査。分からないなら黙っておきましょう」
あそこが異界になる前から、あの廃村はアイツの縄張りだった。死んだ村人たちを操って外から人を誘い込み、騙して殺し、餌にする。あの鳥の狩場だ。村人達の魂の摩耗具合から察するに、かなり前からあの鳥に使われていただろうからな。
「元からっすか? だったら、もしかして……そもそも異界じゃなかったとか、無いっすか?」
「妖怪の張った結界だったって話ですよね? それは有り得ないです。あそこの異界は結構おかしなことが多くて……私も整備の為に何度か行ったことがありますが、確かに異界だったと思います」
だとしたら、益々謎は深まるばかりだな。
「こんな話にして悪いが……俺は、これ以上何も分からんぞ」
「そうっすね……犀川先生、なんか分からないっすか?」
犀川は深く考え込んだ後に、顔を上げた。