表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
262/488

五級昇格試験

 老日勇……意外と理性的だったっすね。


「もしもし、凛空さん? 一応ちょっと話はしてきたっすよ」


赤咫尾(あかたび)か。話? 誰とだ? 気狂いの方か? それとも悪魔殺しか?』


 電話口から聞こえてくるのは、凛々しい女の声。


「悪魔殺しの方っすよ。意外と理性的だったっすね。精神系の魔術も使われなかった上に、強い警戒や敵意も感じなかったんで、最悪のパターンでは無さそうっすね」


『そうか。一応聞いておくが、どう話しかけた?』


「劇場殺人の調査中に偶々見つけたんで、事件について知ってることないっすか~って聞いた感じっすね。何も知らないって言ってたっすけど、まぁ多分本当のことじゃないっすかね」


『なるほどな……分かった。引き続き劇場殺人の方を頼む』


「了解っす」


 ぷつりと電話が切れたのを確認し、俺はスマホをポケットにしまい込んだ。


「……思ったより、何も起きなかったっすね」


 白雪に術をかけたにしては、まともそうな人物だったっすね。話に聞いていた通り、話題の二人を連れていたが、その関係は未だ分からない……ってとこっすかね。


「まぁ、直ちに問題は無さそうなんで、こっちは放置で良さそうっすよね」


 取り敢えず、今は劇場殺人を終わらせなきゃいけないっす。






 ♦……side:老日




 漸く迎えた五級の昇格試験ということで、俺は牟礼駅前に辿り着いた。東京から電車で行く方が難しそうだったから、途中まで歩いて近くから電車に乗って来た。お陰で時間はギリギリだ。


「やっと来ましたか」


「悪い。だが、時間通りだろう?」


 溜息を吐く女は恐らく試験官だろう。黒い短髪に黒い革の軽装、地味だがハンターらしい装備だ。


「こういうのは五分前には来ておくものでしょう? 試験官の私は五分前には来てるんですから……減点です」


「減点か。そういうのあるんだな」


「ありますよ。余りにも態度が悪かったらハンターとしての規範から外れますから、例え五級の異界で狩猟可能な実力があっても、不合格になります」


「なるほどな」


 七里の時は一ミリもそんな雰囲気無かったが、普通はこうなんだろうな。一応、試験だからな。


「取り敢えず、乗ってください」


「あぁ、車で行くんだな」


 黒い車に乗るように誘導する女に言うと、睨みつけるように見られた。


「当たり前でしょう。まさか、今から行く異界のことも調べてきて無いんですか? 三級の私でも、流石に素人を守り切れるとは限らないんですが」


「悪い、調べては無い。でも、大丈夫だから安心してくれ」


 女は運転席に乗り込み、助手席の扉を開けた。


「今のところ、安心できる要素がありません」


「後ろが広いな、この車」


 助手席から後ろを覗くと、殆どが収納スペースのようになっていた。


「ハンター用カスタムのハスラーです」


「なんか、凄いな……」


 俺よりもハンターしてるな。


「まさか、車も持ってないなんて言いませんよね?」


「あぁ、そのまさかだが?」


「……五級の試験を受けられるなら、車くらい買えそうですが」


「買えるが、今のところ買う気は無いな」


 女は小さく溜息を吐き、車のエンジンをかけた。


「……行きます」


「あぁ、頼む」


 進み出した車。移り行く景色を見て、悪くないなと思う。車に乗るのは嫌いだったが、今はそうでも無いな。


「車……アリだな」


「取り敢えず、積載が多いものがお勧めです」


 それから暫くの間、無言で車は進み続けた。


「そういえば」


 女が口を開き、静寂を破った。


「自己紹介もしていませんでしたね」


 車が山道を抜けていく。空に浮かぶ雲が早足に動く。


「私は都栖(とす) 芹菜(せりな)です」


「知ってるとは思うが、老日勇だ」


 木々が開いていき、その場所が見える。


「着きましたね。ここが鳥居異界です」


「鳥居……一つも見えないが」


 現れた異界。それは、完全に村だ。だが、何というか……遠い場所に見える。幻覚でも無く、実際に遠くにある訳でも無いが、不思議なことに遠くに見える。


「……別に、鳥居がある異界って意味では無いです。単なる地名です。ちゃんと調べてきてください。貴方は、異界の恐ろしさを分かっていないようですね」


 車を止め、睨みつける都栖。


「ここは五級異界の中でも特に危険で、厄介な異界です。この異界は協会も遠いですし、それに通常の異界とは異なる点も多いです。はっきり言って、予習前提なんですが……もし、自信が無いならここで諦めても構いません。というか、諦めて下さい」


 確かに独特の雰囲気というか、恐怖感というか、そういうのを感じる異界だ。ホラーゲームに出て来る村的な不気味さがある。


「自信はある」


「何でそんなに自信があるんですか……」


 項垂れる都栖。その隙に車のドアに手をかけた俺の肩を、華奢な手が掴む。


「分かりますか? 異界を舐めてるなら、ハンターはやらない方が良いです。絶対に。死ぬだけなので。生半可な覚悟で五級の試験なんて受けようとしないで下さい」


「七里にも同じような話をされたな……」


 あの時は説教では無く、寧ろ称賛だったが。


「ッ、七里さんに会ったことがあるんですか?」


「あぁ、というか六級の試験は七里だったな。偶然近くに居たから七里になったらしい」


 俺が言うと、都栖は目を見開いた。


「幸運ですね……羨ましいです」


「好きなのか?」


「老日さん、デリカシーとか無いんですか? 普通に、尊敬してるだけです。人として、ハンターとして」


「一緒に焼肉食いに行ったこともあるぞ」


 ピシリと都栖の動きが止まった。


「……嘘ですよね?」


「マジだ。焼きパインを勧めておいた」


「勝手に何勧めてるんですか」


「あと、寿司より焼肉派らしい」


「知りま……いえ、ありがとうございます」


 都栖は車のドアを開け、外に出る。俺もそれに続き、反対側から外に出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ