喫茶店
雑にダンジョンボスを倒すと、黒い魔石がドロップしたのでそれを拾い、現れた魔法陣に乗って俺達は地上に帰還した。
「この時間でこんなに稼げるなんて、楽な仕事よね」
換金を終えた後、そこら辺にあった喫茶店に入り、奥の方の席に座って話していた。
「まぁ、俺達にとってはそうだが……血反吐を吐いてやってる奴も沢山居るだろう」
「そうですね……ただ、六級の異界でこのレベルとなると一級の異界はどれだけ稼げるんでしょうね」
メイアとステラとカラス。カラスは当然、人間の姿になっている。
「一級か……竜殺しとか、どんだけ金持ちなんだろうな」
不死身の力を失った竜殺しだが、貯め込んだ金だけで死ぬまで贅沢出来るんだろうな。
「主様は一級を目指す気はないんですよね?」
「無いな。それと、外じゃその呼び方は無しだ」
「申し訳ございません。老日さんでしたね」
俺は頷き、カフェオレに口を付ける。
「オレはボスで良いんだよな?」
「良いんじゃないか」
カラスが俺をボスと呼んでいても嫉妬や怒りを抱く奴は居ないだろう。見られたって大して問題はない。
「私は勇さんと呼ぶと決めていましたね」
「あぁ、間違えても様付けはするなよ」
反感を買うどころの騒ぎじゃないからな。
「カァ、そういや喫茶店ってのは初めて入ったな」
「落ち着いて話をするには一番向いてる場所だろ?」
確かになとカラスは頷き、アイスコーヒーを啜る。カラスは直ぐに渋い顔をしてカップにガムシロップを投入した。
「このままずーっと落ち着けないのかと思うくらい忙しかったですからね……でも、今度こそ本当に落ち着けそうですね」
「そうだな……流石に、ソロモンやら大嶽丸やらを超える事件はもう起きないだろう。少なくとも、暫くは」
続けて人類が危機に陥るようなことがあれば、流石に神を疑うぞ。俺に全ての災厄を処理させようとしてるとかな。
「そういえばマスター、動画とか配信は見ますか?」
「まぁ、動画はそこそこ見るが……配信は全然見ないな」
動画は当然内容も纏まっている物が多いし、終わりが見えているが、配信はそうじゃないからな。殆ど見たことが無いから余り知らないというのもあるが、正直見る気にはならない。
「DLiveって入れてますか?」
「入れて無いな」
何だその、Dドライブみたいな奴は。
「日本発のダンジョン専用配信サイトですよ。協会と提携して様々な配信サービスを展開してるらしいです」
「あぁ……そういえば聞いたことあるな」
多分、割と有名な奴なんだろう。
「最早芸能人レベルのダンジョン配信者も珍しく無いですし、ちょっとは見ておいた方が良いですよ。何となく、等級ごとの強さも分かりますから」
確かに、他のハンターの強さの目安にはなるかもな。
「分かった。暇な時に見てみる」
「是非」
カフェオレを啜り、一息吐いて外を眺めた。
全員が飲み終え、会計を終えて外に出ると、一人の男が俺達に声をかけてきた。
「すみません、今大丈夫っすか?」
チラリと警察手帳を見せるのは、赤みを帯びた黒髪を垂らしたキツネ顔の男。
「何だ?」
「ショッキングな話になっちゃうんで申し訳無いっすけど……劇場殺人について知ってることとか、無いっすかね?」
メイア達の方に視線を向けるが、全員が首を振った。
「悪いが、何も知らないな」
「そうっすか……すみません、ご協力感謝っす!」
ペコリと頭を下げ、男は直ぐに去って行った。
「警察か……丁度、ニュースで見た話だったな」
「劇場殺人ですか。事件が起きてるのは東京という話ですから、聞き込みをされるのも不自然では無いですね」
それにしては、まるで待ってたかのようなタイミングだったが……まぁ、ステラとメイアが居るから声をかけたくなったとか、そんな感じだろう。