ピクニックダンジョン
という訳で、漸くほとぼりも冷め、ステラ達と外を歩けるようになったので、全員で異界に赴いていた。
「主様、五級にはならないのですか?」
「そうだな……試験自体は既に受けられるからな。明日辺り、受けてみるか」
柱に囲まれた穴を降りると、黄土色の地下遺跡のようなダンジョンが現れる。
「そういえば、メイア達は何級なんだ?」
「私は五級ですが、もう四級の試験も受けられる状態ではあります」
「私も同じですね。基本的にメイアと一緒に行動していますから」
……さらっと超えられてるな。
「オレはそもそもハンター登録してないからな。カラスだし」
「確かに、カラスと二人は別で行動してるイメージがあるな」
それに、メイアとステラも初めはいがみ合っていたイメージがあるが、今は仲が良さそうに見える。
「カラスは意外と一匹狼タイプですもの。誘えば付いて来ますけど、自分から来ることはありませんね」
「カァ、五級の異界くらい、別にオレが居なくても余裕だろ?」
「今回もピクニックのようなものですからね」
そうだな。六級異界は難易度で言えば下から二番目、はっきり言って、この場の誰でも余裕で踏破出来る。
「カァ、魔物が来るぞ」
カラスが言うと、目の前の曲がり角から黒い肌の体が腐敗した魔物が現れた。人型のそれは、アンデッドのように見える。
「アンデッド、か」
ゾンビやスケルトン等のアンデッドの誕生には二つのパターンがある。一つは、死体を用いてアンデッドに変化させるもの、もう一つは、死体を用いずゴーレムのような存在として生み出す方法。
後者は基本的に何かの死体をデータとして、それを元に再現する形で生み出すことが多い。どちらにせよ、何者かの死体を作られることが基本だが、目の前の魔物はどうやってここに現れたのだろうか。
「どうかなさいましたか? 主様」
「いや、異界ってのは何なんだろうなって考えてただけだ」
この地球に現れる魔物は、殆どが俺の知っている魔物だ。俺の居た異世界から流れ込んでいるとしても、量は異常だし人間は流れてこないしで不自然なことも多い。
「異界……確かに異常な存在ではありますね。不自然で不可思議、全く以って意味不明です」
「あぁ、お陰で食い扶持は稼げてる訳だが」
「カァ、誰も倒さねぇのかよ」
アンデッドの影から伸びた影の棘がその背を貫き、身体中から棘が突き出して倒れた。その体は直ぐに消滅し、何も残しはしなかった。
「魔石は無しね」
「落ちる確率の方が低いですからね」
「そういや、魔石ってのも良く分からねえ存在だよな」
カラスが尋ねるようにこちらを見る。
「魔石か。俺も詳しくは知らんが、ダンジョンからのご褒美って言われてるな」
「ご褒美って、どういうことだ?」
「ダンジョンってのはそもそも、地脈に根差して魔素を吸いつつ、敵を呼び込んで更に魔素を吸収するっていう、生き物みたいな存在だ」
というか、実際生き物ではある。コアを壊せば死ぬしな。
「だとしても、魔石をその獲物に与える理由は……もしかして、餌ですか?」
「そうだな。そう言われてる。ダンジョンなんて単純に考えれば人間の害にしかならない存在だ。魔素や魔力を吸い上げて、余剰な分を魔王に献上する、正に害悪だ。だが、滅びの危機に瀕していた人間にとってダンジョンは目先の希望になる。本来ならただ壊されて終わりだが、今こうして破壊が禁じられているように、人間にとって有益な部分を残すことで生存しているんだろう」
「でしたら、このダンジョンも壊すべきでは無いですか?」
ステラの問いに、俺は首を振る。
「もう、魔王は死んだからな」
「確かに、貯め込んだ栄養を送る先はもう無いですね」
だから、地球にあるダンジョンはただ人間にとって有益なものでしか無いだろう。宝箱からはレアなアイテムが手に入り、ボスを倒せばご褒美が貰える、正にゲームのダンジョンのような都合の良い代物だ。
「カァ、人が近いぞ」
「迂回するか」
カラスの言葉に、俺達はルートを変更することにした。ダンジョンの中で声をかけられるのも面倒臭いからな。
人を避けてダンジョンを歩いていると、遂にボス部屋まで辿り着いた。
「良し、行くぞ」
「躊躇がないですね」
黄土色の扉を開くと、鶏と蛇を合わせたような化け物が現れた。巨大な鶏に、蛇のような尻尾が生えている魔物、名前はコカトリスだ。
対象を炎上させる魔眼と石化のブレス、厄介な能力を持った魔物だ。
「コケェエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!!」
「うるさいぞ」
吐き出される黒いブレスの中に突っ込み、その体を一撃で両断した。