悪魔の話
アスモデウスに俺の情報を漏らさないことを条件に呪いをかけたように、アマイモンやセーレ、ガープにも呪いをかけた。そうして魂に触れた際に色々と気付くことはあったが、今は良いだろう。
「この約束を破ったなら、俺は躊躇なくアンタらを斬りに行く」
「勿論、分かっているとも。私とて、消滅の危険を冒してまで探ることはしないさ」
しかし、アマイモンか。知らない悪魔だな。アスモデウスを従える程の悪魔と考えればかなり位が高い筈だが、今の戦闘ではその一端すらも見えなかった。
「そういえば、東の魔王ってのは何なんだ」
「悪魔の世界は東西南北の四方に分かれていてね。私はその東方を治める王という訳だよ」
悪魔の世界、想像も付かないな。
「今は現世に居る訳だが、大丈夫なのか?」
「さぁ……大丈夫じゃないかな? 私もガープも居ないが、まぁ何とかなると思うよ」
全く根拠のようなものを感じられないが、大丈夫だと言うなら大丈夫なんだろう。
「今頃、大変だと思いますけどね……東の魔王も南の魔王も居なくなって、ルシファーも今頃頭を抱えてますよ」
白い髪の美青年、セーレがアマイモンを睨むように言った。
「アバドンの奴もこれを好機と暴れ出すでしょうな。初めは現世に干渉してくるかとも考えましたが、その様子も無い」
「今の地球ハ、奴とテそう簡単に手は出せないだろウ。故に、先ずは悪魔界からだろウな」
悪魔界にも色々と事情があるようだが……そうか、ルシファーとかも居るんだな。相当強そうだが、話を聞いている感じ現世に手を出して来る気は無さそうだな。良かった。
「……さて、話はこのくらいかな」
アマイモンはパンと手を叩いて言った。
「またいつか会うこともあると思うが……その時は友として話そうじゃないか」
「あぁ、そうだな」
アマイモンの俺を見る目には、まだ強い興味が宿っている。きっと、いつか、再開する機会もあるだろうな。
「人間よ。色々と悶着はあったが、こうしてまたアマイモン様の下に仕えられていることには、感謝している。助かった」
「あぁ、感謝は受け止めておくが、口を滑らせるなよ」
感謝の勢いであの日のことまで話してしまいそうだ。何というか、こいつは誠実だが抜けていそうな印象がある。
「深く気を付ける。恩人とまた刃を交えるような真似はしたくない」
「……頼むぞ」
俺はそれから、セーレに視線を向けた。
「帰して欲しいんだが、良いか?」
「勿論。運ばせて貰うよ」
セーレがチラリとアマイモンを見ると、アマイモンは頷いた。
「それじゃあ、またいつか」
セーレの言葉が聞こえた瞬間、俺達は遊園地の外に立っていた。周りには誰も居ない。丁度人が居ない場所に飛ばしてくれたのだろう。
「……疲れたね」
「そうだな。中々、全員ヤバかったな」
あそこに居た悪魔は、一人残らずヤバかった。アスモデウスは勿論のこと、アマイモンは完全に実力を隠しているし、あのデカい悪魔のガープと顔が良い悪魔のセーレも危険だった。
「全員って、あの大きいのと白馬に乗ってた悪魔も?」
「あぁ、ガープは完全に偽装形態だな。オーソドックスな悪魔の姿は実力を隠している姿だ」
「じゃあ、もう一人は?」
「セーレは、俺がかけたのとは別の呪いをかけられてるな。それも、神呪だ。神に直接呪いをかけられている」
俺が説明すると、瑠奈はほへぇと間抜け面で頷いた。
「なんか、向こうも大変なんだね……」
「あぁ、呪いは力を封じるタイプの呪いだったからな。何か、神に目を付けられるようなことをしたんだろう」
だが、少なくとも神に呪いをかけられるレベルの力を持っていたことは間違いない。俺も聖剣を抜けば呪いを解いてやれるが、それをしてやる理由も無い。
「取り敢えず、帰るか」
「うん、早くベッドで寝っ転がりたいよ……」
どうやら、瑠奈はお疲れのようだ。まぁ、アステラスと全力ファイトした後のこれだからな。疲れもするか。
「じゃあ、またな」
「うん、またね!」
最後には笑顔を見せ、瑠奈は手を振ってそこから消えた。家に転移で帰ったんだろう。
「……次から次へと」
直後、足下に展開された青い魔法陣に俺は溜息を吐いた。




