アマイモン
殺し合いながらの話し合い、おかしな状況になったな。
「まぁ、本気で殺す気が無いならそれでも良いが」
特に、瑠奈に関してはな。
「私は配下にこう命じた筈だ、決して逃がすなとね」
「確かに、殺せとは言ってないが」
殺し合い(殺すとは言っていない)か? 頭がおかしくなりそうだ。
「それで……俺がアンタを善良な悪魔だと信じられる根拠はあるのか?」
「難しいことを言うね。悪でないことの証明、正に悪魔の証明だ」
まぁ、ちょっと難しいか。
「だが、そもそもの話だ」
「何だ?」
アマイモンは攻撃の手を止め、指を一本立てた。合わせるように動きを止めた俺の足を地面から生えてきた岩の腕が掴む。こいつめ。
「君はアスモデウスの意思を聞くことも無く、ただ封じ込めたままでいる。君も、彼がソロモンに操られていたということくらいは知っているだろう?」
「まぁ、そうだな」
足を無理やり動かし、岩の腕を砕く。直後に飛来した無数の石の礫を跳んで回避する。
「これは、私の為に返せという話ですらない。先ずは、アスモデウスの身を自由にせよという話だ。今のところは、君がやっていることこそ悪だろう?」
「アンタ、俺の苦手なタイプだな」
口が上手い奴は苦手だ。俺が馬鹿だからな。
「確かに言ってることは尤もだが、リスクがある。アスモデウスが本当に善良であるという確証は無いだろう」
「見たところ、君にも使い魔が居るのだろう? それを他の奴に操られて悪行をさせられていたからと勝手に封印され、解放する気も無い等と言われれば、許せないだろう?」
それはまぁ、そうだが。
「正直、悪魔という存在に良いイメージが無い」
「ふふ、中々酷いことを言うな。流石の私も少し傷付いたよ」
平気そうな顔でアマイモンは宣う。
「君はセーレを知っているんだろう? ある程度調べているのなら、彼が良い悪魔であることも分かる筈だ」
「善良な性質に寄ってる悪魔だってことは、分かったが」
かと言って、アスモデウスがそうであるとも限らない。
「アスモデウスがそうとは限らない、と言いたいのかな? 私は性善説がどうとか言う気は無いが、悪い可能性があるからと解放しないのは如何なものかと思うよ。誰しも、邪悪の可能性は秘めている。だが、かと言って生まれた全員をその瞬間から牢屋にぶち込みはしないだろう?」
「確かに人間はそうだが、悪魔はそうとは限らない」
アマイモンが、チラリと瑠奈を見た。
「君はもしかして、犯罪者の子供も犯罪者だと言うタイプかな?」
「ッ!」
動揺した俺の胸を岩石が捉え、吹き飛ばされる。
「……分かった」
起き上がろうとしたところに、頭上に浮かんでいた巨大な岩石の塊が落ちて来る。
「一度、アスモデウスを解放しよう」
岩石の塊が俺の頭に直撃し、砕け散る。
「……これで傷一つ無いのは、人間としてどうかと思うよ」
魔術による身体強化は施してあるからな。殺す気の無い攻撃で傷が付くようなことは無い。
「すまん、久し振りに反省した」
「ふふ、構わないよ。アスモデウスが帰って来るのならば、何も文句は無いさ」
瑠奈を例えに持ってこられたのは、見事に弱みを突かれたな。確かに、悪魔というレッテルだけで封印という罰を与えたままで居るのは、人殺しの子だからと瑠奈を傷付けた奴らと同じだ。
「あれ、結局話し合い? 何かあったの?」
爽やかに汗を拭いながら駆けよって来る瑠奈。
「ふふ、どうやら彼の弱点は君のようだよ?」
「え、脅されたの?」
こちらを向く瑠奈に、俺は首を振る。
「バルバリウス」
俺は空間から黒い剣を引き抜いた。