表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/488

佐藤甘美

 現れた白髪の女、佐藤甘美。その正体は悪魔だ。完璧な隠蔽、俺が元勇者でなければそれを見破ることは出来なかっただろう。


「うちの子……? 良く分からんが、逃げるぞ」


「逃げるって、転移を使うの?」


 瑠奈の問いに、俺は首を振る。


「剣と炎を捨てる」


「あ、そういうこと!」


 俺は剣を投げ捨て、瑠奈も燭台を放り捨てた。瞬間、白い幽霊とゾンビ達が俺達に群がり……


「良し」


「お疲れ様でした~! 今回は残念でしたが、また次回の挑戦をお待ちしております!」


 俺達は、出口らしき場所に立っていた。若干暗い空間から外に出ると、夜に落ちた空が俺達を出迎えた。


「危機一髪だったね……!」


「あぁ、だがこれで終わりでも無いだろうな」


 あの悪魔は……佐藤甘美は、何らかの目的を持って俺に接触してきていた。敵意を感じたから即逃げはしたが、返せという言葉は気になるな。少しは話を聞いておくべきだったか?


「いや……」


 アイツが正体を隠蔽している以上、迂闊なことは出来ない筈だ。瑠奈ですら気付かない程に結社に馴染み、潜伏しているということは……自分が悪魔であるということを隠し通したい理由があるだろう。となれば、街中で俺に無理やり仕掛けて来るようなことは恐らくない。

 その点、さっきのお化け屋敷はかなり特殊なフィールドだった。いつの間にどうやって入り込んだのかは分からないが、誰にも邪魔されず、目撃もされずに仕掛けられる絶好の場ではあっただろう。


「アイツが瑠奈に接触してくる可能性もある。気を付けて欲しい」


「殺しに来るかなぁ……師匠にも報告しといた方が良いよね」


 確かに、師匠に守ってもらうというのが一番良いかもしれない。


「そうだな。そうして……意外だな」


 すっかり暗くなり、閉園の時間が近付く遊園地。人気の無いその道に、ぶわりと二つの影が現れた。


「やぁ、さっきは酷いじゃないか……私から逃げるなんてね」


 佐藤甘美と、ペガサスのような馬に跨った白い髪の美青年。さながら白馬の王子のような男は、こちらを一瞥すると直ぐに消えた。


「今の男も、悪魔か」


 俺が言うと、甘美は意外そうな顔をした。


「へぇ、良く分かったね。彼の性質は悪魔から――――」


「――――セーレ、だろ?」


 俺が重ねるように言うと、甘美は口を閉ざし、ニヤリと笑った。


「随分、詳しいんだね……なるほどね。君は、完全に私たちの敵という訳だ」


「アンタが敵かどうかは知らんが、確かにソロモンの悪魔は俺の敵だった」


 あの白馬に乗った悪魔。アイツもソロモン七十二柱の一柱だ。能力は転移。俺達に気付かれることなくあの場所に移動していたのは、セーレの転移能力によるものか。


「そうか……取り敢えず、来てもらおうか」


 甘美が指を鳴らす。すると、セーレが再び現れ、その瞬間に景色が一瞬にして入れ替わった。


「白いな」


 一面真っ白の巨大な空間。だが、そこが異空間の類いでないことは分かる。何らかの空間魔術が作用しては居るが、現実上の空間だ。


「本当は君一人を持って来るべきなのだが、星天に私のことを話されるのも困るのでね」


 佐藤甘美はニヤリと笑い、その身から悪魔の気配を溢れさせる。


「私はアマイモン。東の魔王、司るは大地」


 甘美の体が浮遊し、周囲に無数の岩石が浮かび上がる。


「さて、私の可愛い配下を……アスモデウスを返して貰おうか」


「む」


 返して貰うって、アイツのことか。アスモデウスはあそこで戦った中で、唯一良心を感じ取れる相手だった。故に、いつか解放しようと魂のまま持っていたんだが……飼い主が居たのか。


「一旦、落ち着いて話し合おう」


「それは、返してくれるということかな?」


「いや、アンタの話による」


「ふむ、却下だ」


 アマイモンがパチリと指を鳴らすと、巨大な悪魔が現れた。二本の角を伸ばし、背中からは蝙蝠の羽を生やしたオーソドックスな見た目の悪魔だ。但し、その体長は七メートル程もある。


「セーレ、ガープ。決して逃がすなよ」


「分かっています。アスモデウスは、僕の大事な仲間なので」


「あァ、分かってル」


 現れた悪魔は、ガープというらしい。


「さて、始めようか」


「話し合いをする気は無いってことで良いか?」


 迫る岩石を、適当に抜いた剣で砕き、その先端をアマイモンに向けた。


「ふふ、話し合いは殺し合いながらでも良いだろう?」


「良い訳が無いと思うんだが」


 肉体言語でしか語り合えないタイプか?


「真面目な話をするとね、私は少し焦っているのだよ」


「焦ってる?」


 再び迫る岩石の群れ。全てを打ち砕き、チラリと瑠奈の方を見ると、向こうは向こうで戦っているようだった。しかし、隙が無いからか黒星海を展開出来ずに居る。


「得体の知れない君と、強力な魔術を持つ黒き海。話し合い等と言って時間的猶予を与えてしまえば、君には何をされるか分からず、彼女には隙を突いて黒星海を発動される可能性がある」


「契約でもすれば良いんじゃないか? 話し合いの間はお互いを傷付けない、とかな」


 俺が言うと、アマイモンは吹き出すように笑った。


「ハハッ、面白いことを言うね。悪魔を相手に契約とは」


「そうだったな」


 上位の悪魔は契約自体無効化出来るような手合いも多い。俺が、契約を後から破棄する術を持っているように。


「私が初めに言ったことはね、別に冗談でも無い。君達のような相手ならば、別に殺し合いながらでも話し合いは出来るだろう?」


「……その発想は無かったな」


 お互いを牽制する為に、殺し合いながら話し合いをする。流石に考えたことも無かったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ