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黒桜小金丸

 ひらり、宙を舞う黒い桜の花びら。


「ブモォッ!?」


「ブ、ブモォッ!」


 四枚の花弁。それは少女を守るように四方に展開し、巨大化して盾となった。


「何、これ」


 オーク達の攻撃を防いだ花弁はひらひらと刀の鍔に舞い戻っていく。お互いに呆然としていた少女とオーク達だったが、先に動き始めたのは少女だった。


「ブモゥッ!?」


 黄金の刃がオークの首を刎ねる。それに連動するように黒い桜の花弁が飛び出し、周囲の四体のオークの喉笛を切り裂いた。


「……そういうこと?」


 もう理解したのか。早いな。


「……こう、すれば」


 少女が目を瞑り、刀を握ると、黒い四つの花弁がヒュンヒュンと舞い、次々にオークの喉元を貫いていく。既に気配を見る技術は完璧のようだ。


「ブ、ブモォッ!?」


「ブモォォォッ!?」


「ブモォッ! ブモォ! ブモォオオオッ!!」


 阿鼻叫喚の様相を呈するオーク達。彼らは殺戮されていく同胞を見て恐怖の表情を浮かべ、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。


「……勝った」


 森の中、太陽の光が差し込む場所。誰も居なくなったその空間で少女は呆然と呟いた。


「この刀……何なんだろう」


 ボーっと刀を眺める少女。それを見て俺は思い出した。


「ッ、何……?」


 ボトリ、地面に転がったのはその刀の鞘だ。危うく忘れるところだった。刀も特殊な代物だが、この鞘も特別製だ。これに刀を納めておけば特別な手入れをせずとも、傷は治し、刃こぼれは修復し、汚れを浄化してくれる。これがあれば錆びることも無い。


「……鞘」


 少女は地面に転がったそれを拾い上げ、刀を熟れた動作で納めた。


「……誰、何だろう」


 少女は不思議そうに周囲を見渡すが、俺には気付けない。と思ったが、少女は眉を顰めてこちら側を見た。


「変」


 何かの違和感を感じ取ったのか、少女は俺の居るあたりを目を細めて観察した。


「やっぱり」


 少女は俺の足元を見て、そう呟いた。不自然に倒れている草。ほんの僅かに凹んだ土。それに気付いたようだ。


「……気付かれたか」


 とはいえ、問題はない。俺の場所がバレたところで、俺の姿を見ることは出来ない。顔がバレなければ何の問題も無い。


「ねぇ」


 少女は最早完全に俺の場所を認識した上で問いかけた。


「なんで、くれたの?」


 まぁ、そのくらい答えても良いか。危機を乗り越えた報酬というのがあっても良い。俺は術の一部を解放し、声だけは聞こえるようにした。


「勿体無かったからな。技術はあっても魔素が少なく、武器も錆びついていた。このままここで死ぬのは、勿体無いと思った」


「……返さなくて、良い?」


 そう言いながら強く刀を抱きしめる少女に、俺は思わず苦笑を浮かべかけた。


「あぁ、構わない。強くなって、それ以上の刀を見つけたら返してくれ」


「分かった。じゃあ、名前は?」


 あぁ、返すってことはそうなるよな。


「……前言撤回だ。返さなくていい。友達にくれてやれ」


「ふっ、面白い。刀の人」


 刀の人……まぁ、名付けられる要素はそれくらいしかないか。


「あぁ、代わりではないが、その刀の名前は教えておく」


 俺がそう言うと、少女は黙って耳を傾けた。


「『黒桜小金丸(こくおうこがねまる)』だ。そのままだろ?」


「うん。でも、良い」


 名前を聞くと、少女は柔らかい笑みを浮かべて刀を抱きしめた。


「ありがとう、刀の人。大事にする」


「あぁ。それと、気は使えるか? 闘気だ」


 俺が聞くと、少女は首を振った。やっぱりか。


「……使えない」


「あれだけ気配を察知できるなら、闘気を扱う素養は既にある筈だ。金を払えば協会でも受講出来る。習っておけ」


 闘気さえ扱えれば飛躍的に強くなるはずだ。このタイプなら、一旦魔術はパスしても良いだろう。


「……刀の人に教えて欲しい」


 そう来たか。


「……闘気の練り方のコツだけ教える」


 まぁ、少しくらいなら良いだろう。


「先ず、闘気と言うのは自身の体と同質の純粋なエネルギーだ」


「同質って?」


「要するに、自分の闘気は自らの血肉と同じようなものってことだ。闘気は自分の体の一部だと思え。その方が扱いやすい」


 少女は説明に納得したのか、頷いた。


「そして、闘気というのは実は魔力を利用した力だ。体外の魔力を吸収した時、それを魔力から闘気に変換することが出来る」


 魔術士は吸い込んだ魔力をそのまま自身の魔力に変換することに慣れているので、魔術士が闘気を扱うことは難しく、闘気使いが魔力を扱うことは難しい。故に、この二つの力を同時に扱える者は珍しいのだ。


「魔力の存在はどのくらい認識出来ている?」


「何となく、くらい」


 それなら行けるな。


「先ず、これが闘気だ」


 俺は少女に近付き、その手を握った。少し驚いていたようだったが、そのまま闘気を少しだけ流す。


「……凄い」


 少女は目を瞑り、闘気の存在を確かに感じ取った。


「そして、これを自分の体で作る方法だが……最初は胡坐をかいてやるのが楽だな」


 俺がそう言うと、直ぐに少女は胡坐をかいた。


「手の平が上向きになるように組んで、丹田の辺りに触れるようにして置く。頭が下を向くくらいまで体を前に傾ける。そして目を閉じる」


 猫背で瞑想しているかのような体勢になった少女。だが、これが最適の形だ。


「次に、深呼吸だ。何度でも繰り返せ」


「すぅ……ふぅ……すぅ……」


 素直に深呼吸を始めた少女。もう直ぐだな。


「魔力の存在を認識できているなら、この時点で空気と共に魔力が吸収されているのが分かる筈だ。分かるか?」


 少女はコクリと頷いた。


「それが身体中を何度も回っていることを実感できる辺りまで深呼吸を繰り返したら、丹田の辺りでそれを留めるように意識してみろ」


 良いな。早速出来てる。少しずつ、魔力が丹田を中心に体内を渦巻くように変化していく。


「思い出せ。さっき感じた闘気を思い出せ。イメージしろ。魔力を丹田に留めたまま回せ」


 ……変化が無いな。少し、難しいか。


「良いか、これは最初だけだ」


 俺は地面に胡坐をかく少女の腹部、丹田辺りに触れ、魔力を僅かに闘気に変質させた。


「ッ!」


「来たか」


 すると、見る見るうちに丹田に溜まっていた魔力が闘気にどんどんと変化していく。魔力が分解され、純粋なエネルギーに変わり、少女の体内に馴染み、彼女自身の闘気と化していく。


「闘気は魔力のように属性や性質が変化しない純粋なエネルギーだ。火を出したり水を出したりとかの自由は利かないが、その分出力は高く扱いやすい」


「凄い……これが、私の闘気」


 少女の体から、薄らと湯気のようなオーラが立ち昇った。

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