魔王の間
戦闘が終わった後、俺達は禍々しい玉座が拵えられた装飾華美な空間に招かれていた。部屋の奥、一段高い場所に置かれた玉座からは、無駄に広い空間が見下ろせる。
「フハハハハッ、どうだ凄かろう!! 魔王の間だッ!!」
アステラスは明らかにサイズがあっていないその玉座に座り、ふんぞり返った。部屋のあちらこちらに散りばめられた黒や紫の宝石が輝き、完璧な角度で玉座を照らしている。
「……あぁ、凄いな。必要性は見出せないが」
「何を言う! 吾輩の権威を示す為に必要あるに決まっている!」
権威を示す必要ってのが無いと思うんだが。
「さて……椅子が無かったな」
アステラスがパチリと指を鳴らすと、玉座と向かい合うように紫色のソファが現れた。横に長いそれに俺と瑠奈は並んで座る。
「ふぃ~、疲れたね……って、勇は疲れてないか」
「まぁ、見てるだけで疲れるレベルではあったが」
そこが地球とは思えないほど、凄まじい戦闘だった。アステラスに関しては、向こうの魔術士達と比べても平均以上はあるだろう。実戦ではなく、単なる魔術の知識や技術に限ればもっと上だ。
「やっぱり、アレはまだまともに使える段階じゃなかったなぁ……でも、あの空間で実験出来て良かったよ」
確かに、実験場としてあの空間以上に適している場所は中々無いだろう。本来発生するリスクも無かったことに出来る。
「フハハッ、吾輩を実験台にするとは流石だな我が弟子よ!」
「言い方悪いです師匠! 私は全力を尽くしただけですからね!」
使用すると正気を失う魔術。まだ実戦段階とは言えなかったが、その効力に限れば凄まじいものではあった。あの黒い海の弱点を補える魔術になるだろう。
「しかし……魔術結社ってのはアンタくらい強い奴が何人も居るんだろう?」
「うむ。結社に所属している魔術師は二十人以上居るぞ」
アステラスの言葉に、俺は首を傾げる。
「……二十人しか居ないのか? 明らかに、それよりは多いように見えたが」
話に聞いていた規模的に、二十人は有り得ないだろう。
「あぁ、勿論魔術士の方は沢山居るぞ? 師匠の師ではなく、兵士の士の方はな」
「……随分紛らわしいが、何の違いがあるんだ?」
読み方は完全に同じとか、不便過ぎるだろう。
「オリジナルを使えるかどうかだ」
「オリジナル……固有魔術のことか」
アステラスは頷き、片手を広げた。
「単純に魔術を最適化するだけでなく、自分用の魔術を一から創り出すことが出来れば……その魔術士は一流、師を名乗り弟子を取るに相応しい魔術師となるのだ」
「……なるほどな」
固有魔術を使えるかどうかで魔術士としての格が変わるのはこっちでも同じらしい。といっても、向こうじゃ固有魔術を使えるのは珍しいというレベルでも無かったが。
「じゃあ、固有魔術を使えない奴は弟子を取れないのか?」
「別にそういう訳では無いが……固有魔術も使えない癖に正式に弟子を取るなど有り得ない、と言う者も多いな。まぁ、自分のことも十分に出来ておらん者が人に物を教えるのは、確かに勧められたことでは無いな」
アステラスは真面目な表情で話を続ける。
「勿論、軽く教える程度ならば難しくはないであろうが……最低でも、教えた魔術を悪用された時に、自分で始末を付けられる程度の実力は持っていて然るべきだとは、思う」
「確かに、魔術は悪用されるとかなり厄介だからな」
うむ、とアステラスは頷いた。
「……フハハッ、そんなことは良いのじゃ! どうせ、貴様は弟子なんぞ取るタイプでは無かろう!」
「まぁな」
急に真顔から戻ったアステラスは若干顔を赤くしていた。このキャラの癖に真面目に話をしたのが恥ずかしかったのかも知れない。
「それで言えば、貴様は魔術は使えるのか? 固有魔術は」
「魔術は当然使えるが……固有魔術は、一度も作ったことが無いな」
固有魔術が無い訳では無い。自力で作ったことが無いだけだ。仲間の魔術士と協力して創ってもらったことは何度かある。いや、一つだけ……まぁ、アレは作ったって感じじゃないな。
「ふむ、流石にそうか。貴様からは何やら底知れぬオーラを感じ取れるのだが……明らかに、性格も肉体も戦士よりだからな。魔術に関しては流石にそこまで出来はせんか」
「あぁ、剣の方が自信はあるな」
どちらかと言えばってくらいだが。ただ、魔術士の頭というより剣士の頭をしているのは確かにそうだろう。俺は割と合理的に見られやすいが、寧ろ直感的なタイプだ。理論立てて物事を考えない訳じゃないが、無理矢理行けると判断すれば、大体ゴリ押してしまう傾向がある。
「一度貴様の実力も見てみたいところだが……まぁ、争いは好まない質なんだろう?」
「出来る限りのことは、平和的に解決したいとは思っているな」
これは確かな本心だが、最近俺は気付いてきた。俺には、割と戦闘狂の気がある。強い奴を見るのは好きだし、面白い魔術を見るのも好きだ。それに、暫く戦っていないとそわそわしてくる。
異世界に居た頃は周りに戦闘狂が多かったせいで自分はマトモだと思い込んでいたが、地球基準で言えばそうでも無かったらしい。