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第四位魔術師

 あぁ、こういう感じか。瑠奈よりも背の低い、少女どころか子供にしか見えないその魔術士を俺は虚ろな目で見た。


「おい、何だその感情の無い眼は」


「……何でも無い」


 俺は咳を挟み、アステラスを名乗った少女と再び向き合った。


「俺は老日勇だ。捜索に協力してくれていたらしいからな、その礼と挨拶に来た」


「うむ、伺っているぞ! 世界の外に飛んで行ってしまっておったのだろう?」


 あぁ、飛んで行ってしまっておった。俺は頷き、軽く頭を下げた。


「探してくれて、助かった。お陰で、また会うことが出来た」


 瑠奈の方を見ると、瑠奈は勢い良く頷いた。


「フハハッ、構わぬとも! 我が星魔術に掛かれば世界の外であろうとおみとーしなのである!」


「……そうか」


 瑠奈の方をチラリと見ると、ニヤリと笑った。


「ね、可愛いでしょ?」


「む、それはまさか吾輩のことでは無いだろうな? 可愛いはやめろと言っておるだろう!」


 怒り心頭とばかりに両拳を硬く握って睨むアステラス。


「可愛いよりも格好いい方が好きなのか?」


「おぉ、貴様は良く分かっているな! 可愛いよりも格好いい方が良いに決まっている! 可愛いは弱そうだが、格好良いは強そうだからな!」


 もしかして、ガキか? 中身はガキなのか? いや、見た目もガキだが。


「悪いが、いくつだ?」


 俺が尋ねると、アステラスはにやりと笑った。


「フハハハハ、数千や数万ではきかんだろうなぁ!」


「……オーケー」


 割と、手の施しようがないところまで病状は進行しているらしいな。だが、確かに見た目通りの年齢では無いだろう。それこそ、百歳程度なら有り得るレベルで……魔術士として、成熟している。


「これが、結社の魔術士か」


「そうだ! 吾輩こそが結社でも第四位の実力者、〈星天〉のアステラスである!」


 ふざけた見た目と態度だが、身につけた漆黒の服装は高度な加工が施された魔道具であり、それを覆い隠す漆黒のマントのようなものは恐らく魔術により作られたものだ。そして、それは夜や闇、星に深い親和性を持っている。この時点で、属性についての深い理解があることが分かる。


 何より、周囲の魔力の流れが完全に制御されている。これを呼吸のように無意識で出来るのは頻繁に魔術を使っている熟練の魔術士である証拠だ。


「それで……世界の外に消えていた貴様は、今まで何をしておったのだ?」


「特に、何もだな。殆ど記憶が無い」


 良く知らない内に世界の外に飛ばされて、良く知らない内に帰って来た。ということにすれば良いだろう。


「ふむ、言いたくないのであればそれでも良いが……吾輩程の魔術師を前に、その嘘は通じぬぞ? 歩き方一つで貴様が熟練の戦士であること程度は分かる」


 歩き方か。魔術士であるアステラスが歩法を極めている訳でも無いだろう。それは今の立ち方と動きを見ても分かる。となれば、単純に空間の認識能力が高いと見るべきか。このレベルの魔術士であればそれを見抜ける目と感覚を持っていてもおかしくない。


「それに、この空間で平然とした顔をしておる時点で普通でないのは一目瞭然であろうよ」


 そこで、俺はこの部屋の魔力濃度の高さに気付いた。常人ならば一分と経たずに気絶していてもおかしくない。


「……言いたくはないな」


「ふむ、そうか。残念だな……宇宙の外の話を聞けば、吾輩の魔術にも活かせると思ったのだが」


 アステラスは意外にもあっさりと諦めた。しかし、三十年もこの世界から消えていたのだ。瑠奈のように、トラウマになるレベルの何かが起きていると考え、配慮したのかも知れない。


「さて、礼と挨拶というのはもう良いのだな?」


「あぁ」


 アステラスは頷き、踵を返して顔だけこちらを見ると、カッコつけた仕草で手招いた。


「来るが良い。吾輩のラボを見せてやろう!」


 マントをふぁさりと翻し、アステラスは部屋の奥へと進んでいく。


「ふふ、行こっか」


「……まぁ、俺は良いが」


 普通、魔術士は自身の拠点を見せたがらない。情報の秘匿の目的もあるが、単純にその場所は魔術士にとっての聖域だからだ。今日会ったばかりの他人など、以ての外だ。


「先ずはこれだっ!」


 立ち止まったアステラスの目の前には黒いガラスで覆われた漆黒の杖が台座の上に立てられていた。


「常闇の杖と書いて、エオニオと読む。これこそが、吾輩の創り出した中でも最高級の魔道具……常闇の杖(エオニオ)!」


 アステラスが手を掲げると、ショーケースのような物の中から杖が消え失せ、代わりにアステラスの手に握られた。


「どうだ、カッコ良かろう!」


「あぁ、凄いな」


 一切の光を反射しない、闇そのもののような杖。しかし、それの役割は単なる杖では無く、恐らく鍵だ。天体そのものと接続する為の鍵。


「例え戦闘中であっても良いように、名前を呼ぶだけで取り寄せられるようにしているのだ! 凄かろう!」


「あぁ、凄い」


 アステラスはふんふんと満足げに頷き、その杖を持ったまま更に進んでいく。瑠奈を見るが、にこにこと微笑んでいる。


「我が弟子よ、久し振りにやるぞ」


「あ、もしかしてあの部屋ですか?」


 瑠奈の問いに、アステラスはにやりと笑った。


「ここだ。余り驚くなよ?」


 黒い扉を開き、中に入るとそこも同じく黒い部屋だった。大きくは無く、魔法陣が描かれていること以外は特筆すべき点も無い。


()()()()


 アステラスが言うと、一瞬にして視界が入れ替わった。


「……なるほどな」


 そこは、荒涼とした砂の大地。空は夜の闇が覆い尽くし、月や星々だけが世界を照らしている。


「フハハッ、ここは吾輩専用の仮想実験室……ダークネスワールドだッ!!」


 ダサすぎるな。

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