大丈夫。
瑠奈は小さく微笑み、ソファに体をもたれた。
「今度は、私が勇を守れるって思ったんだけどなぁ」
「……」
俺は何も言えず、コップを手に取り、水を飲み込んだ。
「お待たせしました、こちらこだわりカレーとデミグラスオムライスです」
机の上に皿が二つ並べられる。
「ごゆっくりどうぞ」
頭を下げると、店員は去って行った。
「食べよっか」
「あぁ」
俺はスプーンを手に取り、カレーを一掬いして放り込んだ。
「……美味い」
「でしょ? ここ、ご飯も美味しんだよ」
店の雰囲気も落ち着いているし、良い店だ。
「けど、そっかぁ……勇、頑張ったんだね」
「頑張ったのは、お互い様だろう」
何十年も暗い部屋の中で魔術を研究し続けた瑠奈も、相当頑張っている。今は結社でも第七位らしいからな。
「ふふ、そうかな……私も、頑張れたかな?」
じっと、瑠奈が俺を見た。
「あぁ、良く頑張った」
「……あは」
瑠奈はスプーンを置き、目元を手で拭った。
「こうやって、普通に話せる日が来るの……ずっと、夢見てたんだよ」
少し赤くなった目元。瑠奈は微笑み、再びスプーンを手に取った。
「百年振りだね、勇」
「……あぁ」
瑠奈からすれば、そうなんだろう。百年もの間、ずっとこの時を待っていたのだろうか。
「勇に会う為に、頑張ってたんだ。躍起になって異界から抜け出したのも、君のお陰だよ」
「そうか」
「本当は、魔術で自分を消し去っちゃおうかって、何回も思ったんだよ。体を全部燃やし尽くしたら、あの異界でも流石に死んでたと思うから」
「……」
また何も答えられずに居ると、気まずそうに瑠奈が笑った。
「なんて……あはっ、ごめんね。ちょっと、私、不安定になってるかも。今更、耐えてた分が溢れ出して来ちゃったのかなぁ」
「悪い。帰って来て直ぐ、探すべきだった」
正直、瑠奈は俺のことなんて忘れていると思っていた。今更会いに行っても迷惑になるだけだろうと、考えていた。
「良いんだよ、大丈夫。もう、こうして会えたんだから……全部、大丈夫」
瑠奈はそう言ってやっとオムライスに手を付けた。
「……そうだ」
俺は思い当たり、スマホを取り出した。
「連絡先、交換しないか?」
「勿論!」
瑠奈は直ぐにスマホを取り出した。
♢
家に帰りつき、カーペットの上に座り込むと、スマホに通知が来ていることに気付いた。
[今日、楽しかった~!また遊ぼうね!!!]
瑠奈だ。アプリを開き、適当に返事を打ち込もうとしたところ、肩にカラスが乗って来た。
「カァ、珍しいな。ボスが誰かと遊ぶなんてよ」
「例の、幼馴染だ。さっき異界に行ったときに遭遇して、飯食って帰って来た。俺のことを探してたらしい」
「あー、大丈夫だったか? オレのせいでバレたようなもんだと思うが」
「大丈夫だ。面倒なことにはなってない。寧ろ、会えて良かったと思ってる」
強いて言うなら、瑠奈の師匠に会いに行くというのが面倒になる可能性はあるが。
[会えて良かった。師匠と会うのはどうする?]
返信した瞬間に既読が付いた。向こうも丁度開いていたようだ。
[明後日いけるっぽいけど、勇はどう!?]
[問題ないと思う]
明後日か。五級の昇格試験はまた今度だな。
[じゃあ、明後日で!!!時間はまた後日決めるということで……!]
[了解]
そのまま画面を消そうとすると、余っていた肩に手を置かれた。
「主様、相手はどちら様でしょうか?」
「うちの使い魔は覗き見に躊躇が無いな」
もう少し、遠慮のようなものがあってもいいと思うが。
「前にも話した幼馴染だ。さっき異界で……おい」
メイアに説明している途中、スマホの画面に突然文字が浮かび上がった。
『マスター、隠し事は良くないですよ』
「隠すも何も、今帰って来たところだ」
リビングの方から青い金属球がふよふよと浮かんでやってきた。
「幼馴染と感動の再会……マスター、良くないですよ」
「何がだ」
「主様、一度連絡先を消しておきましょう」
「何でだ」
助けを求めるようにカラスの方を見ると、カラスは逃げるように飛び去った。
 




