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 ニオスは膝を曲げ、体の姿勢を低くしてバラカを睨む。


「押し潰してやろう!」


「出来るものか?」


 バラカへと飛び跳ねるような勢いで飛び込んでいくニオス。その肉体が銀の剣によって切り裂かれようとした瞬間、その体が刃に触れるより先に真っ二つに分かれる。


「なるほどな」


 分裂したニオスだが、大きさは同じままだ。恐らく、身体性能は分裂前と殆ど変わらないだろう。


「『完全なる真祖の血(トゥルーブラッド)』」


 バラカの体に銀色のラインが入り、輝きを放つ。


「ッ、貴様のような眷属上がりに……ッ!」


 ニオスの体から血が飴細工のようにコーティングされた白く太い触手が幾つも伸び、バラカに迫るが、その全てが銀の剣によって斬り飛ばされ、そのまま肉体を木っ端微塵に切り刻まれる。


「世界を救うなんて大層な目的の割に……追い詰められれば、醜い面が見えるものだな」


「命に貴賤は無くとも、その価値に差はあるだろうッ!」


 もう片方のニオスが腕を血の刃に変え、背後から襲い掛かるも、バラカは振り向くことなくその刃を避け、銀の剣をニオスの体に突き刺した。


「『銀血葬(ドロフォニア)』」


 ニオスの白い体が一瞬で銀色に染まり、ドロリと溶けて消え去った。


「チッ」


 背後から起き上がるのは、木っ端微塵に切り刻んだ筈のニオス。バラカは舌打ちをしながら銀の剣を振るう。


「『銀血刃(アシメニマ)』」


 銀の血が刃から放たれ、刃の形を取ってニオスに向かう。しかし、ニオスはさっきのように真っ二つに分かれ、また二体に分裂する。


「お前、二体が限度だな?」


「ッ、先ずは……」


 二体のニオスが同時にアカシアへと飛び込む。


「やらせねぇ」


「やらせねぇよッ!」


 しかし、その片方を銀色の剣が叩き落し、もう片方を黄金色の剣が叩き落した。バラカと東方だ。


「カァ」


「消し飛ばします」


「逃がさないわ」


 地面に叩き付けられたニオスの片方に影が纏わりつき、片方を銀の奔流が消し飛ばし、その体から分離して逃れようとする無数の蝙蝠を血の杭が撃ち落とした。


「『時空からの剥離アポクォリスモス・アポトクロノ』」


 動けないニオスを、完成した俺の魔術が襲った。


「ッ、なんだこれ、は――――」


「危険です、ニオス様。このままでは――――」


 そこから剥がれ落ちるように、ニオスの体はどこかに消え去った。辞世の句を述べる暇も、敗北を惜しむ暇も無く。


「今の魔術……倒したのか?」


 バラカがこちらを見て問いかける。


「あぁ、倒した。まぁ、厳密には倒してはいないが」


「封印の類いか……大丈夫なのか?」


「問題ない。封印と言うよりは、追放だ。この世界の時間と空間の軸から弾き出した。アイツは今、存在しない場所に存在している……つまり、実質的には存在できていない」


「……詳しく話して欲しい所だが」


 かなり気にするが、まぁ当然か。こいつからすれば、自分とアカシアを封印した因縁の相手だ。


「アイツはどうやら未来から来たらしいからな。そして、時間遡行の方法は恐らく置換だ。過去の自分を消し去り、代わりに未来から来た自分を入れ込む。だから、こうして時空の外側に追放してやればその置換は出来なくなる」


「それで、何故置換が出来なくなる? 時空から追放したのならば、この時代にはニオスは存在していないことになるだろ? だから、簡単にニオスはまた未来から来る筈だ」


「逆だ。時空間の外側に居るってことは、どの時間でも存在してるってことだ。時間の縛りから外れるってことは、消えるんじゃない。寧ろ、あらゆる時間に存在する。だから、実体としては存在していないが……概念としては存在している」


 故に、ニオスの実体はもうここから未来でも過去でも存在することは出来ない。


「……そもそも、殺してしまえば元から存在していないことになるんじゃないのか?」


「いや、アイツの生まれた時代はもっと先の未来だろう。生まれるより過去で殺しても、存在を消すことは出来ない。飽くまで、死んだのは未来から過去に渡って来たニオスであって、本来の時間軸のニオスでは無いからな」


 良く分からない術で、良く分からない死に方をしたニオス。バラカは未だ実感を得られていないようだが、説明を聞いて取り敢えずは頷いた。


「カァ、何はともあれ……一件落着ってことだろ?」


 やってきた黒髪の男が俺の肩に手を置き、そのまま鴉の姿に戻る。


「あぁ、一件落着だ」


 肩に乗ったカラスの頭を撫でていると、誰かが駆け寄って来るのに気付いた。

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