暗躍
数十分の一の速度まで低下した俺に迫る血の刃。それは現在の俺の速度を超えている。
「燃えろ」
「ふむ」
だが、こうなることも予測はしていた。迫る血の刃を、黄金色の炎が呑み込み、その刃を溶かし落とす。
「厄介な炎が残ったか……だが、君の命は時間の問題だ」
「えぇ、既に速度は俺達の方が上です。眷属となるのであれば降伏を受け入れます」
俺は黄金色の炎を纏う刃をニオスに向けた。
「寝言は寝て言え」
刃の嵐が俺を守るように吹き荒れる。
「ふむ、守りに入る気か?」
「『無限――――」
魔術を唱えようとしたところに、ニオスが転移で懐まで入り込んだ。
「肉体の操作は頼んだよ、ニオス」
「既に承っています」
刃の嵐を掻い潜りながら血の剣を振るうニオス。俺が回避した直後に無数の武器が殺到するも、ニオスの体が霧となって武器を避けていく。
「どうですか、老日勇。死の危険を感じていますか?」
「どうだろうな」
振り下ろされる血の剣。それを刃の嵐が弾き、追撃をかけるようにニオスを追いかけるが、その瞬間にニオスの体が霧となって刃の間を潜り抜ける
「老日勇、お前に詠唱はさせません」
「『血の裁きを受けよ』」
背後に回り込んだニオスが囁き、俺の体内に干渉される。しかし、戦闘術式によってその干渉は無力化された。
「いつまで耐えきれますか?」
「『紅雷』」
振り下ろされる剣を刃の嵐で弾いた瞬間、空から真っ赤な雷が降り落ちる。当たれば背理の城塞を突破してそのまま俺の体は焼き尽くされるだろう。
「『神玉壁』」
透明に揺らめく何かが俺の体を覆う。神力の障壁だ。
「……まだそこまでの神力を隠していたか」
「別に、隠しているつもりは無い」
凄まじいエネルギーを秘めた赤い雷を呆気なく防いだ神力の障壁だが、神力にも限りがある。こうしていられる時間も永遠では無い。
だが、防戦一方になっても構わない。ついさっき、構わなくなった。
「『無限加速』」
神力の障壁に守られた中で魔術を唱えるが、ニオスは一切の焦りを見せず、寧ろ陰湿な笑みを浮かべていた。
「『神殺しの魔神槍』」
どす黒い槍が、刃の嵐を吹き飛ばしながら迫る。それは神力の障壁を容易く粉砕し、そのまま俺の胸を貫こうとする。
「ッ」
俺はギリギリで何とか黄金の炎を纏う剣を胸元に構え、槍をギリギリでズラした。しかし、完全に弾けていない槍は俺の左肩の辺りを貫き、そのまま左腕を吹き飛ばした。
「終わりだ、老日勇」
「終わりです、人間」
その直後、目の前にニオスが現れ、血の剣を振り下ろす。
「――――良く耐えてくれた」
俺の目の前に、褐色の肌の男が現れた。ニオスの血の剣が弾かれ、宙を舞う。
「アンタは……」
「俺はバラカだ。お前も東方と同じ日本人か」
バラカ。メイアの父親だ。アイツらが解放に成功したらしい。
「馬鹿な……何故だ。ただの使い魔如きに、バラカを奪われただと?」
「勘違いしてるようだが、俺だけじゃねぇ」
バラカの視線の先、そこには黄金色の長髪に真紅の目を持つ、見目麗しい女が立っていた。