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早朝

 明日会えるのか。もしそうなら、話が早いな。


「そうか、分かった」


「取り合えず、今日はお別れということで……ふぅ、疲れましたね」


 疲労の原因は俺との交渉か。犀川は息を吐いてスキャン用のベッドに腰かけた。確かに、やろうと思えば一撃で体を粉微塵に出来る相手と交渉するのは精神的に負担がかかるかも知れない。対面している時はそれを感じなかったが、彼女も人の子ということだろう。


「あぁ、そうだ。ここで寝ても良いか? どうせ、明日合流するんだよな?」


「え、ここでですか? まぁ、別に良いですけど……はい」


 良し、今日の寝床は確保出来たな。前にホテルに泊まって分かったが、俺はチェックインやチェックアウトのやり取りをするのが好きじゃない。経験が無いからかもしれないが、謎の緊張感がある。


「じゃあ、私は帰りますけど……荒らさないで下さいね」


「あぁ、分かってる」


 ガチャリ、ラボを出て行った犀川。俺はスキャン用のベッドに横たわり、スマホを虚空に放り込んだ。


「……このスマホも出来るだけ早く変えないとな」


 アイツのことだ。どうせGPSとか盗聴器とか仕込んでる筈だ。


「まぁ、取り合えず……寝るか」


 俺は布団の無いベッドで目を瞑った。






 ♦




 暗い部屋の中、男がモニターに表示された画面を見ている。


「コボルト、ゴブリン、オーク……対処されたが、想定内」


 男はマウスを操作し、画面を変える。


「ゴエティアの悪魔……これの対処は、想定外だ」


 男は更に画面を切り替える。


「被害無し。異界内で狩猟者によって討伐されたものと思われる……か」


 男は息を吐き、PCの電源を落とした。


「話が違うぞ……()()()()


 男は僅かに怒りの表情を浮かべながら部屋を出て行った。






 ♦




 ラボに人が入って来たので俺は目を覚ました。犀川じゃないな。俺は完全なる不可視オールモスト・インヴィンシブルにより姿を消した。目の前を制服を着た男が通っていく。


「あれ……居ない? おかしいな」


 ん、もしかして俺を探してるのか? 犀川から伝言でも託されているのかもしれない。


「アンタは誰だ?」


 俺は術を解き、奥の部屋から現れたように見せかけて聞いた。


「え、ぃ、いや……貴方こそ誰ですか? 制服も着てませんけど」


 しまったな。探していたのは俺じゃなかったらしい。


「俺は老日。犀川に呼ばれて来ただけだ。話は聞いていないか?」


「あぁ、犀川さんが……外部の人を何回ラボに入れれば気が済むんだ、あの人」


 良し、誤魔化せそうだ。


「あれ、でも……一番乗りでここに居るみたいですけど、どうやって入ったんですか? 鍵、持ってませんよね?」


 面倒臭いな、気付くなよ。


「さっきまで犀川が居たんだ。アンタも犀川を探しに来てたんだろ?」


「あぁ、なるほど。いや、すみません。ここは犀川翠果のラボですから、奪われたら困るものなんて無数にあるんです」


 俺は頷きながら、スマホを取り出して犀川に話を合わせるようにLINKでメッセージを送っておいた。


「こんにちは~、お待たせしてすみません」


 早いな。メールを送った数秒後に犀川はラボに入ってきた。


「犀川さん、おはようございます。彼は一体?」


「あぁ、彼はハンターで、ちょっと研究に協力してもらってるんです」


 男は真っ先に犀川に挨拶し、取り合えず俺の正体を問い詰めた。


「それで、老日さん」


 犀川は俺に近付き、耳元で小さい声で話しかけた。


「もうちょっとしたら授業なので、このままここに居たら結構暇になりますよ?」


「そうか。だったら外で暇を潰してくる。終わったら……というか、準備が出来たら連絡してくれ」


「はい。それで、例の人なんですけど、19時に集合で良いかとのことです」


「分かった。それで良い」


 俺はそう言ってラボから出て行こうとすると、敵意のある視線を向けられていることに気付いた。さっきの少年だ。犀川に対しては敬愛の念を抱いているように見えた。俺に敵意を向けているのはこいつが耳元で話したりなんてしたからだろう。


「じゃあ、また後でな」


「はい、また後で」


 俺はラボを出て、何をしようかと考えた。まだ朝六時だ。相当暇があるな。


「まぁ、狩るか」


 特殊狩猟者としての身分を果たすとしよう。財布もまだまだ心許ない。




 ♢




 という訳で、俺はまた旧白浜異界にやって来ていた。戸籍が元に戻るならそこまでこそこそと動く必要も無いかも知れない……が、完全なる不可視オールモスト・インヴィンシブルは使っておくことにした。


「……前はあれでもそこそこ驚かれたな。まぁ、始めたてのハンターが狩る獲物じゃなかったか」


 とはいえ、一度はそれを狩った以上、もうそれ以下を狩って取り繕うのは無意味だ。昨日と同レベルの魔物を狩ろう。


「一先ずは、気配だ」


 俺はその場に胡坐をかき、意識を集中させて森の魔物の気配を探った。


「……何だ? やけに人が多いな」


 いや、そうか。悪魔が出現したから調査に来ているのか。しかし、こういうのって森を封鎖したりとかしないんだな。もう死亡が確認されてるからセーフってことか?


「まぁ良い、取り合えず……飛ぶか」


 俺は標的の背後に転移した。



 目の前には青い肌のオーク。ノーブルオークだ。


「二度目で、悪いが」


 昨日のとは別個体だとは知っているが、そう言いながら俺はノーブルオークを殺し、虚空に収納した。例の如くオークが混乱しだす。


「さて、次は……ん?」


 この森で一番強い魔物と、人間。戦ってるな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] almostってほとんどって意味じゃないの? オールモストインヴィジブルに完全なる不可視って当て字あってる?
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