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雷と影

 背後から迫る刃。影となって擦り抜けることも出来ず、オレの速度では避けることも出来ない。


「『雷転(トルス・ラーン)』」


 だが、これなら回避出来る。オレは一瞬でセッシの背後まで回り込み、振り下ろされた刃を回避した。


「ふーん……」


 この分だと気付いてるな。今の技はバエルの雷の力を利用したものだが、そう気軽に使える物じゃない。自分の体を雷に変えるこの技は、今のオレだと維持が難しい上に消費も激しい。


「どうやら、ただ便利な力って訳じゃなさそうだね」


「まぁな」


 回数制限付きの緊急回避みたいなもんだ。セッシは背後から斬りかかるオールドの剣を転移で避け、またオレの後ろに現れた。


「二度は通じねえよ」


「ッ!」


 オレは即座に振り向きながら棍棒を振り上げる。それは振り下ろされていた赤い刃に直撃し……


「自切か。蝙蝠の癖に蜥蜴みてぇなことすんじゃねえよ」


「あはは、僕は別に蜥蜴でも無ければ蝙蝠でも無いからね」


 次の瞬間、セッシの背から伸びる骨が八本同時に迫った。


「僕は吸血鬼だ」


「ッ!」


 オレは強く槍を握り締め、穂先から雷の力を放出した。黄色い稲妻が八つに分かれて空中を迸り、迫る八本の骨を伝ってセッシの体を一瞬だけ痺れさせる。


「危ねぇな」


「今のは獲ったかと思ったんだけど、残念」


 その隙にオレは飛び退き、翅の骨を回避した。この放電は直接叩き込むのと比べれば弱く、麻痺もたった一瞬しか引き起こせない。それに、一度見せた以上回避される可能性も高い。


『『影より出づる、暗き剣』』

『『音に聞こえず、目に見えず』』


 重なるオールドの詠唱。振り向くセッシの背後に槍を投げつける。


『『触れることすら叶わぬ』』

『『知ることすら能わぬ』』


 進む詠唱。セッシは槍を転移で避け、オールドの背後に現れる。だが、それを予想していたオレはジャストのタイミングでそこに落雷を直撃させた。


「ぐッ」


 全身を痺れさせ、膝を突くセッシに二人のオールドが振り向く。


『『無明斬(アヴィディヤー)』』

『『無明斬(アヴィディヤー)』』


 瞬間、セッシの上半身を見えない斬撃が削り取り、残った下半身をセッシ自身の影が呑み込んだ。


「……勝った、か」


 オレは息を吐き、青い石を影から取り出してまた呑み込んだ。


「ッ、ヤバいか?」


 世界が激しく揺れる。美しい庭園が歪み、空に浮かぶ月が朧に消えていく。



「――――ここはどこですか?」



 石に囲まれた暗い空間の中、ステラの声が響いた。


「良かった。お前らも解放されたか」


「あら、全員無事みたいね」


「上の方からやべぇ魔力を感じるんだが……」


 周りを見回すと、メイアと東方も居る。


「共有する」


「うぉっ」


 オレは能力によって状況を全員に共有した。ステラとメイアは慣れた様子だったが、東方は気持ち悪そうに嗚咽を漏らした。


「……状況は分かりましたが、ここがどこかは分からないままですね」


 ステラは目を瞑り、手の甲にある逆向きの五芒星を光らせた。


「見えてきました」


「パイモンの能力か」


 能力は、解析。精霊を操ったりも出来ると聞いたが、詳しくは知らん。今は解析の能力でこの場所を調べているのだろう。


「ここは地下のようですね。そして、既に上の階層……館の部分は崩壊しています」


「やっぱり、上はドンパチしてるのか」


「主様ですね。相手は……ニオスでしょうか」


 既に頂上決戦は始まってるらしい。となれば、オレ達に出来ることは一つだ。


「狙うは、アカシアとバラカの解放だな」


「でも、場所が分からないわよね……」


「いえ、既に地下であることは確定しています。マスターには館を破壊しないように伝えているので、破壊したのは恐らく敵のニオスです」


 あぁ、なるほどな。


「ニオスが自分からアカシアとバラカを破壊はしないってことか?」


「はい。ニオスは恐らく研究熱心な性格です。最高級の実験対象であるバラカとアカシアを消し飛ばしてしまうようなことは無いでしょう。それに、アカシアに至っては根源そのものであると聞きます。根源を吹き飛ばすことは流石に有り得ないでしょう」


「ま、そもそもそう言うのを隠す定番ってのは地下だよな」


 ステラの纏めた考えを、東方が雑に肯定した。


「何にしても、地下に残ってると考えるしか無いのは確かだな。バラカに関してはニオス本人が持ってる可能性もあるが」


 アカシアは根源そのもので、バラカは石の中に封じられているって話だ。石ころ程度のサイズならニオスが自分で持っててもおかしくはない。


「取り敢えず、一度地下を調べましょう。時間を無為に過ごすべきではありません」


「外に敵は居ないのか?」


 ステラは頷き、重そうな石の扉を開いた。

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