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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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庭園の支配者

 残す一人から血が溢れて波のように迫る。が、割り込んでいたシャドウがオレの代わりに血の波を受け止めた。


「ッ、防がれたかッ!」


 眼を見開く吸血鬼。その背後の影からオレは現れ、闇の翼で包み込んだ。


「なッ、いつの間に――――」


 巨大な翼は吸血鬼を呑み込み、闇の中に消えた。


「……これで終わりじゃないのか?」


 この庭園のような異空間。三体の吸血鬼を倒しても、元の空間には帰れない。術者を倒しても効果が続くタイプの術か、それとも……


「や、元気かな?」


 アイツらじゃない誰かが術者か、だ。


「後者だったってことだな」


「何を言ってるか分からないけど……最高位の吸血鬼を三体も倒せるなんて、驚いたね」


 現れたのは、白い髪の青年。赤い眼がオレを見ている。


「それで、誰なんだお前は?」


「僕はセッシ。ニオス様に創られた吸血鬼さ」


 ニオスに創られた、か。


「まぁ、つまり敵ってことか?」


「あは、その通り! 僕を倒せばこの空間から君達は解き放たれる」


 君達、か。


「つまり、オレの仲間もこの良く分かんねえ空間に居るってことだな?」


「良く分からない空間とは失礼だね。僕が作り上げた美しい庭園だっていうのに……ほら、あの月も凄く綺麗だろう?」


 月、か。輝く魔力はまるで本物だ。


「この月で強化も受けてるって訳か」


「そうさ。そりゃ、吸血鬼の僕が作った世界なんだ。僕達にとって有利であるべきだろう?」


 そして、こいつ……さっきの真祖よりも、強いな。


「月光の強化も受けた、真祖以上の吸血鬼……か」


 オレで勝てるか、流石に不安だな。


「まぁ、やりようはあるだろ」


「へぇ、自信ありかな?」


 自信と言っても、こいつを殺せる自信じゃない。この空間がアイツらとも繋がっているなら……耐えさすれば良い。いつか、助けが来る筈だからな。


「どうする? このままお喋りでも良いぜオレは」


「それも悪くないけど……時間を稼がれると、僕も危ないからね」


 セッシが両腕を広げると、その背から大量の血の蛇が触手のように伸びてきた。


「『真紅の血蛇』」


 伸縮自在でオレに迫る蛇達は、影となったオレの体を擦り抜ける。


「その擦り抜け、毎回着弾時を狙って発動してるね」


「あぁ、上手いもんだろ?」


 言いながら、オレはシャドウに指示を出す。


「つまり、ギリギリを狙う必要がある……おっと」


 背後から襲い掛かった影の龍をセッシは跳躍して回避する。


「カァ」


「ッ!」


 飛び上がったところを狙って雷を落としたが、背中から伸びる蛇達が受け止めた。


「君の魔力も無限じゃない。そうだろう?」


「そりゃそうだろ」


 セッシの姿が霧となって消え、こちらに迫って来る。


「見えねぇとでも……ッ!」


「近付ければそれで良いのさ」


 目の前に現れたセッシ。四方八方から伸びる血の蛇を影の翼から伸ばした腕で食い止めると、血の刃が振り下ろされる。


「悪いが……」


「ッ!?」


 稲妻を纏う棍棒を振り上げ、血の刃を弾き返す。同時に電撃が迸り、セッシの体を痺れさせる。


「オレの攻撃はスタン付きだ」


 そのまま稲妻を纏う槍を突き出す。それは真っ直ぐにセッシの胸に吸い込まれ、心臓に迫り……


「『真祖の血(トゥルーブラッド)』」


 溢れ出した大量の血に弾かれた。


「心臓が麻痺して止まるってのは、良くないね。吸血鬼として、概念的にさ」


「あのノスって奴が使ってたのと同じ力か」


 セッシの体に赤いラインが迸り、血管のように脈々と鼓動している。


「これは真祖としての力さ。肉体に過剰な負担がかかる、時間制限付きの身体強化ってところかな」


「カァ、なるほどな」


 言いながら、オレは棍棒を振り下ろす。しかし、セッシはそれを俊敏な動きで回避しながらオレの懐まで潜り込み……


「ズルいなぁ」


「まぁな」


 突き出された剣をオレの体は擦り抜けた。そのまま、至近距離に近付いたセッシを闇の翼で呑み込もうとするが、その前に飛び退かれた。


「そこだ」


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 飛び退いた先に影の龍が襲い掛かり、呑み込もうとする。


「残念」


 しかし、呑み込まれるより先にセッシの体がその場から消えた。


「魔術による転移か」


「その通りさ」


 視界の端に映るセッシ。恐らくは短距離限定の転移だな。


「グォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


「へぇ、そういうのも出来るんだ」


 シャドウが吼えると、天から雷が降り注いでセッシを襲った。しかし、セッシの頭上に傘のように展開した血がそれを防ぐ。


「それと……」


 セッシはニヤリと笑みを浮かべ、剣を放り捨てた。


「僕はまだ、本気を出しちゃいない」


「嫌な予感がするな」


 オレは闇の翼から大量の鴉を生み出し、セッシに向かわせた。


「『血統因子(ブラッドライン)顕在化(エクスポーズ)』」


 セッシの心臓がある部分が赤く輝き、魔力が高まる。


「『血骨(ブラッドボーン)』」


 セッシの身体中から赤く染まった骨が飛び出し、鴉の群れを貫いた。影の力で擦り抜けようとしたものまで関係なくだ。


「真祖まで至った吸血鬼は固有の力を得ることがある……僕の能力は、これさ」


 セッシの腕から骨の刃が伸びる。真紅に染まったそれは、月の光を反射して輝いていた。

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