奇襲
白髪の青年、ノス。しかし、その見た目と反して凄まじい年月を生きているのだろう。真祖に至る為にはそれだけの時間を要する。
「『血伸』」
ノスの体から幾重にも枝分かれする血が伸び、俺達を貫こうとする。
「カァ、やらせねぇよ」
「ふぅん、中々やるみたいだね」
迫る血の一つ一つを防ぐように影が伸び、闇蝕呑影の効果によって呑み込んでいく。
「『揺れる月明かり、湖面に輝く』」
「『銀粒砲』」
詠唱を開始したメイア。それと同時に銀の奔流がノスに襲い掛かるも、ノスは軽く飛び退いて回避した。
「『黄金の光は貴方の為に、紅い罅は貴方の為に』」
「『合金装甲』」
「強化系の魔術かな?」
そう言うと、ノスは蝙蝠の群れにその身を変えて俺達の方へと迫る。
「全部撃ち落としてやるよ」
無数の蝙蝠に向けて、枝分かれする雷撃が放たれる。それらは精密な操作により一撃で全ての蝙蝠を捉え、撃ち抜いた。
「ッ、ハハッ、面白いね……!」
地面に落ちた蝙蝠の内の一匹が姿を変え、ノスが現れる。
「『何でも、耐えて見せるから』」
「『魔力活性』」
「『血線』」
その間にも進む詠唱。ノスはメイアに向けて血をレーザーのように放つが、東方の黄金の剣によって切り裂かれる。
「『月紅紋』」
「『完全戦闘形態』」
「……面倒だね」
バフが完了した二人を見て、ノスは呟き……そして、自身の胸を自身の腕で貫いた。
「『真祖の血』」
ノスの体に赤いラインが迸り、血管のように脈々と鼓動する。
「五人如きに全力を出さないと行けないなんてね……屈辱だよ」
「さっき本気を出すなんて言ってなかったかよ、クソ吸血鬼」
ノスはフッと笑い、指先を東方に向けた。
「本気と全力は別さ、ダンピール」
「東方さんッ!」
「ッ!?」
指先から花開くように八本の血が放たれ、拡散した後に東方を四方八方から貫いた。音速を優に超えるそれは、ステラの忠告があっても回避は難しい。
「さぁ、先ず一人……」
「舐めんじゃねぇよ」
身体中を貫かれ、真祖の血に体内から蝕まれた筈の東方だが、怯むことなく再生しながらノスへと突っ込んだ。
「なるほどね。そっか、ダンピールだった」
「そうだ。俺はお前の天敵だ」
振り回される黄金の剣を回避しながら、ノスは笑みを浮かべる。
「そうみたいだね……それでも、僕には敵わないってのが格の差って奴かな?」
「チッ!」
ノスの拳を食らい、仰け反る東方。
「『血剣』」
「させません」
振り下ろされる血の剣を防いだのは、ステラの大刃だった。
「へぇ、硬いね」
「物理的な硬度であれば、地球上の全ての物質の中で最高の可能性すらあります」
持ち直した東方はステラと並んでノスに斬りかかる。ノスは二人の攻撃を霧化を駆使して避けつつ、隙を見て反撃の刃を振るう。
「……うーん、予知系の能力を持ってる可能性があるってのは本当みたいだね」
「貴方の攻撃が鈍いだけでは?」
ステラは的確に危険な攻撃だけ回避し、受けられる攻撃は受けている。
「だけど、そんなんじゃ僕は殺せ……っと」
余裕を見せるノスに、燃える細剣が振り下ろされる。
「大丈夫かしら? そろそろ苦しいんじゃない?」
「カァ、言っとくが余裕なのはこっちの方だ」
横に避けようとしたノスの足元が影の沼となり、足を取られる。
「ッ、危ないね……!」
霧となってその場から離れたノス。
「だったら……つまらないけど、一撃必殺さ!」
全員から離れたノスは、両手を広げて笑った。
「『戮命血殺』」
ノスの全身から血が迸る。無数に伸びる血流は、この部屋の全員を標的にしているようだった。
「ッ、操作型です!」
「了解だ」
血流のそれぞれに影を向かわせようとしていたカラスはそれを止め、全員を影で覆った。
「『闇蝕呑影』」
全員を覆った影は、迫る血流を呑み込んで消滅させる。
「君、本当に面倒――――ッ!?」
瞬間、ノスの体が真っ二つ切り裂かれた。メイアの共有の能力だ。
「ッ、何を――――」
即座に再生するノス。その頭を銀の奔流が消し飛ばす。
「ッ、ぐッ!?」
頭を再生するノスを雷撃が襲い、そこに東方が迫る。
「ッ、下がって下さいッ!」
「これで、終わり――――ッ!?」
振り上げられる黄金の剣。その瞬間、東方の体が遥か後方まで吹き飛ばされた。
「死ね」
「終わるのは貴様らだ」
突如、六体の吸血鬼が俺達に襲い掛かった。間違いなく、全員が真祖だ。
「ここだな」
俺はフッと息を吐き、背後から振り下ろされる血の刃を避けた。
「戦闘術式、肆式」
奇襲を仕掛けるのは、こっちだ。