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館の中へ

 館の目の前まで不可視の状態で歩いて来た俺達だが、未だに襲撃は起きていなかった。


「カァ、全員既に逃げてるってことは無いよな?」


「それは有り得ねぇな。ここを奴らが……ニオスが手放すことは無い。それに、さっき見せただけの力じゃアイツは逃げねぇだろうよ」


 話を聞いている限り、根源と言うのは気軽に持ち運び出来るようなものでは無さそうだ。根源を動かせないのならば、奴らも逃げることは無いだろう。


「しかし、結界があるな」


 館を覆う結界。近付くと見える赤色のそれは、中々に強固な代物のようだった。


「まぁ、普通に解除するか」


 力押しで破壊するか、結界を通り抜けるようなことも出来るが……力押しで破壊する場合は折角隠していた力が露呈し、素通りする場合は敵へのバフや俺達へのデバフがかかり続ける危険性がある。


「マスターがやりますか?」


「あぁ、余り時間をかけたくないからな」


 俺は結界に手を触れ、目を瞑る。


「……想像以上に高度な結界だな」


「そのようですね。私では解除不可能かも知れません」


 向こうでも十分に通用する程に高い技術で作られた結界だ。魔術に対する深い造詣が無ければ、この結界を作り出すのは不可能だろう。


「……こう、だな」


 赤い結界が、解ける。


「うーわ、すげぇな。一分もかかってねぇぞ」


「慣れてるからな」


 霧散するように消えた結界。俺は躊躇なくその先に進んでいく。


「扉は普通に開くのね」


「まぁ、今更鍵なんてかけても無意味だろ」


 館の中は、異様に暗いことを除けばそこまで異常な造りでも無い。但し、空間魔術のような何かが作用しているように見える。


「ッ!」


 全員が館に入り込んだ瞬間、扉がぬるりと壁に変化し、そのまま館の廊下がぐにゃりと歪み始めた。


「どうする、老日ッ! 脱出するか!?」


「落ち着け」


 歪んだ廊下は俺達を圧し潰そうと迫る。が、それは寸前で止まった。


「これは空間魔術じゃなくて、単純な操作だな」


 こんなので殺せるとでも思われているのか? 心外だな。



「――――やぁやぁ、皆さんこんにちは」



 瞬間、空間が入れ替わる。大広間のようになったその場所に現れたのは一人の男だ。


「僕は真祖の吸血鬼が一人、『戮命』のノス」


 男が指を鳴らすと玉座が現れ、男はそこに座り込んだ。


「君たちには、ここで死んで貰うよ」


 再度、指が鳴る。すると、十体程度の吸血鬼が現れた。キョロキョロと辺りを見回す彼らは混乱しているように見える。


「このままじゃ、ただの使えないゴミ屑だけど……」


 指が鳴った。すると、十体の吸血鬼の体が弾け飛び、ただの血と肉となって集合する。


「チッ!」


 駆け出した東方。黄金の斬撃を集合した血肉に向けて放つが、その斬撃は触れる寸前で消滅する。


「物質というのは、それだけで強い力を持っている。ただのエネルギーの集合体であれば、消し去るのはそう難しくないよ。特に、単一の属性で構成されているものなんかはね」


 集合した血肉が、一体の怪物を形成する。図体の大きな、赤い血の角や翼が生えた異形だ。


「さぁ、そっちが五人なら……」


 パチリ、指が鳴る。すると、どこからか三体の吸血鬼が現れた。


「こっちも五人にしようか」


 その三体の吸血鬼は全員が最高位、真祖にこそ及ばないものの、五体居れば対吸血鬼特化の東方ですら怪しい程だ。


「さぁ、始めよう」


 ノスが言った瞬間、怪物と三体の吸血鬼がこちらに駆けこんで来る。


「『銀粒砲(アルゲントゥム)』」


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 先頭の怪物に向けて放たれる銀の奔流。しかし、怪物は想像以上に素早い動きでそれを回避し、そのままステラへと迫る。


「ッ、なるほど」


 ステラは振り下ろされた怪物の拳を受け流し、一歩後ろに下がった。


「カァ、逃がさねぇ」


 追いかけるように踏み込んだ怪物の足元が影の沼となり、怪物の体が沈み込む。


「調子に乗るなよ下等種共め!」


「ふふ、調子に乗ってるのはどっちかしら」


「良し、前衛は任せとけ」


 その怪物の後ろから現れた三体の吸血鬼。その前に立ち塞がったメイアと東方。


「食らうが良いッ!」


「死ねッ、ダンピール!」


「最高位吸血鬼を舐めるなッ!」


 振り下ろされる血の剣、突き出される血の槍、放たれる血の矢。メイアは燃える細剣で血の剣ごと切り裂きながら敵の首を刎ね、東方は槍を避けながら黄金の刃を叩き込み、影の鴉が血の矢に自ら飛び込んで防いだ。


「ッ、避けて下さい!」


「おしまいだよ」


 ステラが叫んだ瞬間、地面に広がった血が針のように伸びて俺達を狙った。


「カァ、危ねぇな」


「えぇ、危なかったわ」


「……想像よりも狡いやり方しやがる」


 カラスは影に、メイアは霧になってすり抜け、ステラと東方と俺は飛び退いて避けた。最高位吸血鬼すらも囮にした攻撃だったようだが、ステラの未来予知によってそれは回避された。


「うーん……一人も殺せないのは予想外だったなぁ」


 面倒臭そうに言うノスは、溜息を吐きながら玉座から立ち上がる。


「仕方ないね。本気で行こうか」


 その体から、血と魔力が溢れた。

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